桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』

 “辺境の人”により紅緑村に置き去りにされた娘は、やがて製鉄業で繁栄し“上の赤”と呼ばれていた赤朽葉家に嫁入りし、千里眼奥様と呼ばれた。千里眼の祖母・万葉、伝説のレディースから漫画家へ転身した母・毛毬、そして何者でもない平凡な私・瞳子。山陰の旧家に生きる三世代の女性は、高度経済成長、バブル景気から平成へという時代をいかに乗り越えたのか・・・


 第60回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門受賞作。
 女三世代のクロニクルという、最近の僕の傾向とはかけ離れた作品だったので、周囲の評判にもかかわらず積んだままだったのですが、今にして思えばもっと早く読むべきでした。
 なんと言っても高度経済成長期以降の風俗や気質、社会状況、そして製鉄業はもちろん当時の産業が、赤朽葉家の女性たちの生き様と違和感なく交じり合い、一体となって楽しめる物語を形成していることに驚きです。どちらか一方が際立ったり欠けるのではなく、混然一体となって語りかけてくる。そんな感覚でした。


 学のない捨て子でありながら、赤朽葉家に嫁ぎ、姑のタツに従い家庭を支えた万葉。暴走族の頭として中国地方を制圧し、伝説となった後にその半生を描いた『あいあん天使!』で少女漫画界に一時代を築いた毛毬。どちらもとても魅力的な人物でした。
 とくに毛毬という女性は、自分が輝くことができる方法、なすべきことを心得ていたという印象が強く残りました。レディースとして暴れまわっていても、いざとなれば家のために行動し、傾きかけた赤朽葉家を救った人物です。多少なりとも自分と同じ時代を過ごしたことも影響しているかもしれません。何度か涙腺が弛みかけるシーンがありましたが、いちばん弛んだのは毛毬の死でしょうか。
 そして瞳子。自由を奪われた彼女は本当に平凡な女性なのでしょうが、まだまだ未来があります。輝ける未来への扉が開こうとしているのがうれしいですね。神話の時代から現実へと降りてきたからこそ、身近に感じられる人物でした。
 単行本で2段組300ページ強という長さでありながら、その長さを感じることのない、充実した読書でした。まさに「初期の代表作」と呼ばれるような傑作です。おすすめ。

2007年6月9日読了 【10点】にほんブログ村 本ブログへ

【感想拝見】

おすすめ平均
stars読み応えあり
stars著者の意図がわからないけど・・・好き☆
stars現実と想像の間
stars超能力者の設定が評価の分かれるところ
stars問題は、作者が何をしたかったか、だ

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