恨み憎しみのかけらもない相手に敵という名をつけて殺す戦争じゃないか

僕はこの3週間さまよっていた

小説の森の中を

僕はさまよっていた

心揺さぶられる何かを求めて

曽野綾子短編集、永井荷風「墨東稀譚」、○○「二百回忌」、小杉健治「絆」、志水辰夫長編冒険SF奇想恋愛小説、浅田次郎「わがこころのジェニファー」、葉室麟「○○○」(虫の名)(注 ○は忘れたというしるし)



僕は彷徨し続けた。

そして出会った。「獅子吼」。 浅田の短編集のうちのひとつ。

戦争中動物園のライオンが食糧不足のため殺される話。

さいころから動物を愛した心やさしい兵士が殺す話。

動物園の飼育係が兵士となって愛した動物を殺す話。


獅子は知っている。自分の運命を。

兵士は知っている。愛したものを殺す理不尽さを。

飼育係は知っている。感じてる。愛した彼らの飢えを。苦しみを。

飼育係は震えてる。愛した彼らの命に。自分が断つ彼らの命に。

獅子は、吼える。「優しい人間よ。苦しむな。俺を殺せ」と。

獅子は、吼える。「恨み憎しみのかけらもないものを敵と名付けて殺すのが戦争だと」。

獅子は、吼える。「優しいものが優しいものを殺すのが戦争だ」と。

獅子は、吼える。「俺を撃て」と。

獅子は、吼える。