常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

tip us the wink: 『負けるが勝ち』のレビューより2

先日、オリヴァー・ゴールドスミスの『負けるが勝ち』(She Stoops to Conquer)のレビューから英語表現を拾いました。今でこそ「シェイクスピア好き」なんて言われていますが、シェイクスピア以外にも、18世紀、19世紀の劇もかなり好きです。『負けるが勝ち』は、わたしにとって、シェイクスピア以外のイギリスの劇作家に興味を持たせる劇でした。

ところで、勘のいい方なら「原題にあるstoop to conquer(征服するために屈服する)という軍事用語が、Sheに対応してないんじゃないか」お気づきになると思います。実は、ここにもドラマ・トゥルギー(Dramaturgy)が隠されています。簡単な説明劇のあらすじを読んでいただければわかりますので、ここでは端折りますが、RPを話すUpper ClassのShe(=Kate Hardcastle)が、階級の下の者のフリをする、という屈辱(?)を忍んでハッピー・エンドを迎えます。さらに、Kateは普段はRPで喋りますが、下の階級の者を演じるときはCockneyで喋ります。つまり、衣装などの舞台効果ではなく、方言をつかって階級を示しています。ほかにも劇として面白い点が多数ありますが、この辺にしておきます。それでは、今回もレビューを覗いてみます

But how to play it today? Lloyd's production shrewdly keeps the 18th century setting while encouraging the actors to tip us the wink that the work is an artful contrivance. The chief beneficiary is Sophie Thompson, who plays Mrs Hardcastle, wife of the outraged house owner, with a sublime mix of rattiness and affectation, largely conveyed by the trick of mercilessly extending her vowels. Quizzing one of her house guests about the right age to be in London society, she retorts "I shall be too young for the fashion", making the final "o" linger in the air like a wisp of smoke. And when learning she has been described as "the hag" she threatens to overtake Edith Evans's famous swoop on her cry of "a handbag".

やはり、ソフィー・トンプソンの演技が素晴らしいようです。最初のtip us the winkについて考えてみます。ここで使われるtipはいわゆる「チップ」などの意味で使われるtipの動詞形です。LDOCEの定義ですと自動詞・他動詞のどちらの形も採用しています。“to give an additional amount of money to someone such as a waiter or taxi driver”とあります。これに「何かのサイン」を意味するwinkが合わさる訳ですから、tip sb the winkで「人に目配せをする、こっそり伝える」という意味になります(『リーダーズ英和辞典』研究社)。これを踏まえると「ロイドの作品は18世紀の様子をちゃんと守っているが、演者には、われわれ(観客)にこの作品が芸術的な工夫の一環なんだと、そっと伝えるよう仕向ける」となります。(Othello)

つづく

a sublime mix of rattiness and affectation: 『負けるが勝ち』の劇評より3

先ほどの記事と同じ箇所で気になる表現がりました。やはりこういった表現はうまいなあ、と思ってしまいます。ソフィー・トンプソンは最高の賛辞を受けています。ちなみにソフィーはエマ・トンプソンの妹です。


But how to play it today? Lloyd's production shrewdly keeps the 18th century setting while encouraging the actors to tip us the wink that the work is an artful contrivance. The chief beneficiary is Sophie Thompson, who plays Mrs Hardcastle, wife of the outraged house owner, with a sublime mix of rattiness and affectation, largely conveyed by the trick of mercilessly extending her vowels. Quizzing one of her house guests about the right age to be in London society, she retorts "I shall be too young for the fashion", making the final "o" linger in the air like a wisp of smoke. And when learning she has been described as "the hag" she threatens to overtake Edith Evans's famous swoop on her cry of "a handbag".

つづいてa sublime mix of rattiness and affectationについてです。最初に、このsublimeには2つの意味が孕んでいることを指摘したいと思います。いわゆる「崇高な;素晴らしい」という意味のほかに皮肉的に「あきれるほどの」という意味合いも感じ取れます。それは、劇の評価が高いことと、ソフィー・トンプソンの演技も高評価を得ていることからもわかります。さらに、ハードキャッスル家の場所が、ロンドンから離れた田舎町で、ジェントリー階級である、というキャラクターや舞台設定からもわかります。憎めないほど素晴らしいという感じでしょうか。

さて、rattinessについてです。これは手元にある辞書にはない言葉でしたので、調べた結果を書き記したいと思います。結論から言えば「ネズミみたいな(古臭い髪の毛と小うるさい感じ)」となりました。まず、注目していただきたいのが、写真です。古臭い服と灰色の白髪交じりの髪の毛が特徴的です。ネズミみたいに見えます。さらに、舞台設定が田舎なので、ネズミも出やすいことでしょう。これとハードキャッスル夫人の性格を踏まえると「ネズミみたい」と考えられます。

次のaffectationについては、簡単でジェントリー階級の「キザな」感じを表しています。これも舞台上のハードキャッスル夫人の行動を考慮するとわかりやすく思えます。

彼女の演技はかなり笑えて、観客にとっても大満足な劇なのでしょう。演技についてトンプソンは最高の評価を得ています。彼女の母音を置きに行くような喋り方についてなのですが、比較されているのが、こちら。ワイルドの『真面目が肝心』での演技です。レビューを見ていると本当に観に行きたくなります。(Othello)