常時英心:言葉の森から 1.0

約10年間,はてなダイアリーで英語表現の落穂拾いを行ってきました。現在はAmeba Blogに2.0を開設し,継続中です。こちらはしばらくアーカイブとして維持します。

behemoth

記事The Economistから。イングランドにおけるグリーティング・カード業界の揺れに関しての記事です。

Clinton did not fail for want of customers. Rather, it is a bloated behemoth, burdened by high product prices and pre-recession rent payments on its premises.


赤字で示したbehemoth。『リーダーズ英和辞典』で意味を調べてみると、「1.ベヘモット、ベヘモス、河馬《カバまたはワニと思われる恐獣;Job 40:15-24》」という意味から転じて「巨大な[力のある、グロテスクな]もの」という意味があることがわかります。聖書から生まれた言葉で『旧約聖書』「ヨブ記」――誤解を恐れずに言ってしまえば試練の書からの――出典です。

Oxford English Dictionaryでもう少し調べてみましょう。要約すると、次のようになります。ヘブライ語が語源でb'hēmōthという形で『旧約聖書』「ヨブ記」にて使われた。語の成り立ちは、b'hēmāh ‘beast’の複数形で、 おそらく‘great or monstrous beast’と解釈されたためにplural of dignityを使用した。近年ではエジプトの p-ehe-mau、すなわち水牛 (‘water-ox,’)とも解釈される。

おそらく、behemothは、リヴァイアサン(leviathanレビヤタン:巨大な海獣;ワニの類)と同じで、聖書から派生して、後に様々な意味で解釈されたのでしょう。ちなみに、Oxford版のKing James Versionの「ヨブ記」で該当箇所を調べてみると以下のようにあります。

15 Behold now behemoth, which I made with three; he eateth grass as an ox.
(ベヘモスを見るのだ、これはお前と一緒で私が造ったのだ、ベヘモスは水牛のように草を食らう)(p. 638、訳筆者)

この後にベヘモスの詳細が語られるのですが、要約するとベヘモスは神の作り出した傑作のひとつで、とても強靭な体を持っており、神のみが支配することのできる存在であると記されます。つまり、人間がどうこう言ってかなう存在ではないのです。

さて、記事に戻れば、a bloated behemothが使われた意味がなんとなくわかるような気がします。私の解釈では、不景気やそれに伴うカード屋の撤退は、経営者や従業員にどうこうできる問題ではなく、まさに神のみぞ知る問題だったということです。(Othello)