草若師匠、本当に怖いのは?

 今週の連続テレビ小説ちりとてちん」、前週の話から3年が過ぎヒロイン喜代美・徒然亭若狭も落語家らしさが出てきた。しかし一方で、駆け出しの頃のもてはやされ方がなくなり、枕での受けはいいものの、本題の落語になると受けがよくないことに悩みを抱えていた。というシチュエーションから、若狭が兄弟子たちにその悩みを聞いてもらいに回る。
 一方、若狭の師匠・草若は、地方公演の折、30年ぶりに若狭の故郷でもある小浜を訪れ、若狭の実家に立ち寄って、若狭の母・糸子を相手に、思い出話を語る。この、大阪での若狭の悩み相談と、草若師匠の思い出話が、1日の出来事として同時進行で展開する。
 若狭がその日やった演目は「饅頭こわい」。この世に饅頭ほどこわいものはないという男に、周りの男どもがからかい半分に饅頭を投げ込み、もがき苦しんでいるだろうと見にいってみると、こわいこわいと言っていた男が饅頭をほおばっていて、「おまえ本当は何が怖いんや?」「今はちょうど渋〜いお茶が、怖い」という落ちで終わるという、あまりに有名な古典落語だ。
 兄弟子であり夫の草々からは、セリフが全編男言葉なだけに、女である若狭には違和感があって受けないのではと指摘される。ほかの兄弟子からは「へただから」とか「やっていくうちにわかってくる」などとたわいのない返事しかもらえない。一方で、聞きに行った兄弟子ごとの思い出話が、小浜での草若の話と合わさって展開される。草々、四草、草原、小草若、それぞれのエピソードはどれも味があって、笑わせながらもジーンとさせる。しかも1日につき1人ずつ、短編小説のようにまとめられていてテンポがいい。
 だが、話をつづける草若は時折脇腹を押さえ、体に異変が表れる。話し相手の糸子もそれに気付く。そして「生きるのが怖い」とつぶやく草若。その反面「若狭にはもっとたくさん教えることがある」と本音も。そして大阪に戻った草若は若狭に対し「創作落語をやれ」と、まるで遺言のように強い口調で言い渡す。
 一門それぞれのエピソードを織り交ぜ、最初の「饅頭こわい」から「生きるの怖い」につなげていく、本の深さをしみじみ感じさせる第18週だった。