2011-01-05
アニメメーカーがとらえたビデオソフトとしての『化物語』のヒット要因
雑記 |
2009-10年にかけて最も売れたアニメのうちのひとつ、『化物語』。この商品がヒットした理由を考えるといくつかの特徴が浮き出てくる。それが単なる一ヒット作品というポジションを越えて興味深いのは、こうした特徴がアニメのビデオソフトにおいて新しい潮流を作った点である。これだけの作品を他社メーカーがどのように分析し、追随していったのか、後続の商品から推測してみたい。まず、この作品がヒットした要素を例示する。
(2)シャフト制作
ここまでは、目新しいものではないが、現時点まで(1)と(2)のシナジーを達成し得たのは現時点では本作のみ。(1)については、本作が氏の著作における初めてのアニメ化、近い時期に「西尾維新アニメ化プロジェクト」として『刀語』をアニプレックスが打ち立てているので、交渉を含め他社が立ち入る隙は難しい。(2)のシャフトブランドについては、ファンを含めた多くの認識下にあり、他社もいくつか試みているが、それが単独で売上に直結しているわけではない。
次に商品としての付加価値を見てみると、
がある。これはこの作品の発明品である。それまで、オーディオコメンタリーという機能は取り組まれてきたが、これをキャラクターによるドラマ語りにしたアイディアは本作が初の試みだ。これが西尾のキャラを愛するファンのニーズと合致し、作品の魅力を大きく増し、商品ならではの特典として購買意欲に結びついた。この特典に対するファンの満足は高い。
この(3)のアイディアはその後同業他社においても採用される。『バカとテストと召喚獣』(2巻第3話のみ)、『迷い猫オーバーラン!』(各巻1話)がそれだ。ここで、これらの商品の発売タイミングに注目してほしい。前者は2010年5月末、後者は6月末からの発売だ。コメンタリーと言ってもシナリオを用意する期間が必要であるため、『化物語』の商品分析をしてから準備する特典としては、おそらくギリギリのタイミングだったのではなかろうか。
同様のキャラクターコメンタリーは、『化物語』と同じメーカーであるアニプレックスでも実装されている。2010年春の新番組『Angel Beats!』、『WORKING!!』だ。前者は6月末発売開始だが全話に収録されている(さらにいうならば、本作における麻枝准の仕事量からこれだけのシナリオを用意する労力と時間を想像されたい)。後者は1話ずつの収録だが、製作が相当前倒しに進められたプロジェクトで、春の作品で4月末発売開始を達成している。
こうした時間的アドバンテージが示すのは、同社内で『化物語』の販売効果測定をする前から取り組まれていた可能性だ。つまり、それほど確信が持てるアイディアだったのだろう。
もっとも、だからといって以降の作品でオーディオコメンタリーがすべてキャラクターコメンタリーにとって変わったというわけでもない。そのシナリオを作る原作者の労力や時間はもちろんだが、この企画自体の特性として、キャラクター自身がドラマを語るメタ視点を導入することになり、作品によっては逆にそれがキャラクターを損なうことにもなりえるからだ。
その意味で、秋放送の新番組の『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』でキャラクターコメンタリーが採用されたのは、本作自体がある種、オタク文化や美少女ゲームをメタ視する作品性であるため、この企画との相性が良い。
本作のアニプレックスのプロデューサーは『化物語』と同じ岩上敦宏。発明者であり先行者らしく、さらに一歩上のコメンタリーにしている。詳しくは以下の記事を参考にして欲しいのだが、
『俺の妹』BD&DVD1巻「キャラクターコメンタリー風特典映像」全貌大公開! - アキバBlog
要はそれまで音声だけのコメンタリーだったのが、本編をテレビ内画像として見せ、キャラクターを表示させて喋らせることで、よりメタ視が強まる仕掛けになっているというわけだ。これこそ本作の特徴を生かしたコメンタリー企画と言える。
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ここで(4)の理由として『化物語』のシリーズ構成とビデオソフトの構成がキャラクター別になっている点にも注目をしてほしい。1巻は戦場ヶ原ひたぎをフィーチャーした巻、2巻は八九寺真宵、3巻は神原駿河……という並びだ。原作の構成から、アニメでもよりキャラクター性の強さを生かしていることに気づく。
一般にはビデオソフトを購入するのはコアなファンが多く、とりわけ男性向けでは1巻から最終巻まで通巻して買い続ける歩留まりが良いことが示されている。ところが、本作の場合は以下のようにバラつきが目立つ。
巻数 初動 累計 発売日 1巻 44,885 82,803 09.09.30 2巻 57,704 75,953 09.10.28 3巻 59,926 72,703 09.11.25 4巻 70,468 83,967 10.01.27 5巻 66,121 76,542 10.02.24 6巻 72,207 79,355 10.07.28
売上の差が最小の巻と最大の巻で約11,200本。この多さはもちろんヒットしたゆえの幅でもあるが、普通の作品であればヒット作1本分以上になる数字。逆に考えると、基礎票72000本に、通巻で購入するほどではない浮動票を最大で11,200本分上乗せができたと捉えることができる。
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この(4)についても、後続のメーカーは研究した。作品性と同類の作品の歴史的な流れについては以下のエントリに詳しい。
ギャルゲ原作アニメにおける「分岐」「繰り返しプレイ」導入の試みは定着するのか アマガミ ヨスガノソラ - 果てしなきアニメの地平:亜方透のアニメ感想ブログ
『アマガミSS』は2010年夏の新番組、『ヨスガノソラ』は秋の新番組。
この商品的な踏襲は、当然のごとく作品構成の根底から設計が必要になるため、先に挙げたキャラクターコメンタリーほどには動きは軽くない。夏放送の前者はその解釈と製作スピードが相当手際よく行なわれたのだろう。上記エントリにもあるが、ギャルゲー・美少女ゲーのアニメ化のジレンマと商品性を同時に解消する方法として興味深い。それぞれ放送時には評判だったため、あとは結果が実ることを願いたい。もちろん、こちらも商品として成功しても、制作の困難さゆえに後続作品が登場するかは不明だ。
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そして、ここで再び「俺妹」に登場を願おう。
放送で周知のとおり、本作は最終話Aパートで、グッドエンド(TV放送版)とトゥルーエンド(ビデオ版に収録予定)に分岐している。そしてトゥルーエンドルートは『化物語』同様、後日配信される予定だ。制作費や配信コストはかかるが、13話という放送局フォーマットを越えて、+数話を時間をかけて配信し、存在感を長く持続させる発想だ。このルート分岐を両方とも映像化する手法が、原作のモチーフとなったメタ美少女ゲーム性を商品自体で体現しており、原作とアニメと商品の幸せな出会いができた作品だったと言える。
2010年は、単館系上映、イベント上映などアニメのウィンドウとビジネスの関係について大きな多様性が生まれた年であり、相対的にテレビアニメの位置が考え直された年でもあった。しかし、テレビアニメはストーリーテリング量、消費者と共有する時間の長さ、アイディアの余地が揃っているメディアとして類がないのも事実ということを考え直させるものでもあった。今年も作品と商品の幸せな関係がファンのもとに届くことを願いたい。
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