パオロ・マッツァリーノ『つっこみ力』


ベストセラー『反社会学講座』でお馴染みのまっつぁんの新刊です。前著『反社会学の不埒な研究報告』に関してはあまり評判が宜しくなく、個人的にも不完全燃焼だったので新著には期待していました。が、正直に言って、ちょっと残念でした。


(前著に対する批判とまっつぁんによる反論、またこの新刊に対するキチンとした批判についてはここをご覧下さい。また『反社会学講座』とは何ぞや?という方はウェブ版の反社会学講座をご覧下さい。)


この本で著者は、愛と勇気とお笑いという三つの要素から成る「つっこみ力」というものを提示し、それを駆使しておかしなデーターを使った社会的言説をぶった斬っています。文体は巧みだし話の転がし方は相変わらず上手いなぁと思わされました。つっこみ力に関する記述の部分も、これまでのまっつぁんのスタイルが明示的にされており、その点では面白かったです。


…ただ、やはり(上のリンク先を見ればお分かりの様に)経済学者さん、とりわけ近年注目されるようになったリフレ派の方々に私怨があるようで、本文中にも経済学者に対する罵倒とも思える様な文章が何箇所か登場します。まぁそういう気持ちも分からなくはないけれども、それにしてもヒドいなぁと思いました。


その理由は、このまっつぁんの態度―つまり、いい加減な知識または主観に基づく断定―こそ、『反社会学講座』の槍玉にされていたものではなかったのでは、と思ったからです。「まっつぁんに対して反論する経済学者はバカで偉そうでムカつく奴らだ」、というのは、「最近の若いもんは講義中の私語が多く、ワシの素晴らしい講義を真面目に聞かないけしからん奴らだ」というキレる若者論者の態度と酷似していませんか?かつて自分が嘲笑の的とした対象に、今度は自分自身が成り下がっている。そんな印象を受けました。


前回のエントリーにも繋がるんですが、やはり自分が門外漢である分野に対する信頼みたいなのが足りないんですよね。あの『反社会学講座』の著者であるまっつぁんでさえ、こういうことになってしまうというのは驚きでもありました。


とは言え、面白い所もあるので、一読の価値はある本だと思います(が、経済学者への罵倒は聞き流した方が良いでしょう)。あ、別に自分は経済学部の学生ではなく、独学で経済をやってるぐらいなので、別に経済学に対する特別な肩入れとかは無いです(一応)。でも、非経済学部で教科書とネットを駆使して経済学を学んでる最中の身として、経済学の射程の広さとかには畏怖の念を抱いてることは確かなんですが。


つっこみ力 (ちくま新書 645)

つっこみ力 (ちくま新書 645)