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三国与太噺

2016-11-26

私は、このマンガとは、一切関係ありません。偶然ここへ来て、書き込みしています



 
 演義のあらすじを紹介するわかりやすいマンガパートと、それを解説するわかりにくい本文パートの二段構成になってます。だいたい3:7くらいです。
 そしてけっこう珍しいことに、正史ではなく演義の解説をメインにした本です。

 正史をひも解く概説書の多さに比べると、昨今の演義の扱いは淋しい限りです。三国志の流れをざっくり紹介するのに使われるか、「演義では×××××となっているが、それは誤りで、史実では……」とかゆうありがちな枕詞に使われるか、そんなものです。三国志好きなら演義くらいだいたい知ってるだろうって思われてるのか、深く掘り下げる意味がいまいちわかりづらいのか。
 演義をじっくり掘り下げ、そこに込められた文学性や思想へと踏み込む本というのは、あまり多くはないのです。

 この本が、そうしたものへと踏み込むものかどうかは、それはちょっとまだわかりません。
 ただもし、拙いながらもそこへ踏み込みたがってるという感じが、この本を手に取っていただいたあなたにもし伝わったとしたら、それに勝る喜びはありません。

2016-11-20

「三国志 Three kingdoms」全95話を観る その3

第3話「曹操、善人を誤殺す」

◆呂伯奢事件
 前話の終盤から本話の前半まで、かなり尺を取ってましたね。
 呂伯奢事件は、曹操の生涯の4つの汚点のひとつであり、これをどう描き、どう説明するかが、曹操を主軸にする物語にとっての大きな課題だと思います*1
 また演義では、この事件は曹操が奸雄としての本性を露わにする最初の場面です。それまでは一貫して能臣として描かれてきた曹操が、ここで初めて、倒すべき奸雄であると読者に示されるのです。
 で、演義をベースにしつつ曹操に焦点を当てた本作。
 事件のあらましはほとんど演義に沿ってますけど、曹操の描き方はだいぶ違ってました。もちろん、演義の有名な「私が天下を裏切ろうとも、天下に私を裏切らせはしない」などの"奸雄らしい"セリフは本作でもちゃんと残されています。「乱世では強者だけが仁義を語ることができるのだ」って言葉もいかにも奸雄然としています。
 ただ一方で、呂伯奢を手にかける瞬間の曹操の表情、呂伯奢の死体を必死に隠そうとする曹操の姿からは、こうした行為が曹操にとって不本意であり、やむにやまれぬことなのだという様子が伝わってきます。
 続く場面では、曹操が呂伯奢を弔い、陳宮がそれを欺瞞となじり、そして「お前が忠義の士なのか奸悪の徒なのかわからない」と詰問するのですが―これは演義にはないオリジナルのシーンです、これに対し曹操は明確な答えを返しません。この一連のやりとりを見ると、どうも本作の曹操は強いて奸雄を演じているように思えます。乱世という今の時代にあっては、自分は奸雄でなくてはならないと、曹操は己に課している。と、本作は描きたがっているようです。
 本作の曹操はよく笑います。呂伯奢を殺した後も笑ってました。けどその笑いは、不本意な奸雄像をまとう自分自身を嗤うかのような、自嘲の笑いでした。

◆天子の偽勅を利用する曹操
 演義では、曹操が諸侯に蜂起を呼び掛けるために利用された偽勅ですが、本作では連合結成と偽勅利用の先後が逆になって、諸侯の中で曹操が主導権を握るための道具として登場します。曹操の政治力の高さをよく表現しています。

◆劉備の反董卓連合参戦
 劉備の本格的なお披露目です。本作の劉備は黄巾討伐には参加しておらず、この反董卓連合参戦が初陣だという設定のようです。しかも演義のように公孫瓚旗下として参戦するのではなく、諸侯の一員として名乗りを挙げようとしてます。えらい大胆な劉備です。

 ところで、三国志の中でもっとも人物設定が難しい人物は誰でしょうか。
 曹操は、実はわりとわかりやすいです。どんな作品コンセプトにしろ、曹操を主役にするにせよ悪玉にするにせよ、とりあえず測りがたい大人物にすれば曹操っぽくなります。……というと実際に作品を書いてる人に怒られそうです。ごめんなさい、僕は作品を作ったことがないので、あくまでも読者としての印象です。でも読者として見る限り、そんなに曹操の人物形象で悩んでそうな感じが、あんましないなと思うのです。言い換えれば、作品ごとでそんなに曹操像が割れることはないと感じるのです。
 では諸葛亮か。たしかに諸葛亮はいろいろ難しそうです。作品によって結構諸葛亮像が違いますし。ただ諸葛亮が一番かと言うと、それはとある理由でたぶん違うだろうと思ってます。
 僕は、創り手の方々が今一番頭を悩ませているのは、おそらく劉備なんじゃないかなと思ってます。

 本作の劉備は、……よくわかんないですねえ。
 ずっとくらーい表情のまま、まったく顔色を変えない劉備。諸侯からバカにされても、反論することなく、暗い表情を崩さない。何を考えてるのかわからない、底の知れない劉備です。
 ただ、本話の中で唯一劉備が反応を示したのが、曹操が天子の偽勅を使って諸侯の中でまんまと主導権を握ったとき。これは面白いですね。
 それに、関羽が華雄討伐の一番手に名乗り出ようとするのを制止したシーンも、印象的ですね。出しゃばるなと言おうとしたのか、それとも関羽という切り札を使うタイミングは今ではないと考えたのか。きっと後者でしょう。
 本作の劉備は、結構な喰わせ者のようですね。

◆張飛「連合の中に兄者みたいに漢室の末裔がいるのか?」
 劉備「いないだろう」
 劉岱「」


三国志DVD&データファイル 創刊号

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*1:ちなみに僕の大好きな『蒼天航路』は、呂伯奢事件の描き方を大失敗してる、と僕は思ってます。そして呂伯奢事件だけでなく、残り3つの汚点―徐州大虐殺、宛城の敗戦、赤壁の敗戦もまた、『蒼天航路』は描き切ることができなかったと思ってます。これはまだどこかの機会で

2016-11-09

「三国志 Three kingdoms」全95話を観る その2

第2話「曹操、亡命す」

◆呂布と貂蝉の出会い
 曹操が王允秘蔵の七星刀を使用したことから、董卓が王允を暗殺計画の黒幕かと疑う
⇒命を受けた呂布が王允邸に乗り込み、思いがけず貂蝉と出会う
⇒貂蝉は父の無罪を呂布に釈明
⇒王允邸にちゃんと七星刀(実は偽物)があったため、呂布も疑いを解く
という流れで、本作では演義より一足早く、呂布と貂蝉を接触させています。演義にはない、本作のオリジナルストーリーですね。
 貂蝉は、言わずもがな架空の人物ですけど、彼女をどう扱うか、そしてどういうキャラクターとして描くかでその作品の性格が決まると言っても過言ではない、重要な人物です。
 僕の見るところ、貂蝉のキャラクターはだいたい次の三要素の比重で決まります。漢に対する想い、義父たる王允に対する想い、呂布(あるいはほかの男性)に対する想いです。
 たとえば演義の貂蝉ですと、漢や王允に対しては厚く忠と孝をそそぐ一方で、呂布は単なる計略上のターゲットとしてしか見ていません。漢10:王允10:呂布0、みたいなイメージです。こうすることで、演義は貂蝉を忠孝に満ちた理想の女性として描くことに成功したのですが、まあ正直面白味は全然ないです。演義の貂蝉はあまりに決断的すぎて、葛藤とかがまるでないんですから。
 これが例えば、漢7:父7:呂布7とかだと、計略と呂布との狭間で葛藤する悲哀的な貂蝉になります。中国で伝統的な貂蝉像がたぶんこんな感じだと思います。見た感じ、本作の貂蝉もこれになりそうな気がします。
 あるいはほかの作品を見れば、『蒼天航路』は、漢1:父1:董卓7ってところでしょうか。破格の大悪党に惹かれる、非常に野心的な女性でした。漢0:父0:呂布0なんて貂蝉もありました。主体性を持たず、ただただ運命に翻弄される悲運の女性です。陳舜臣『秘本三国志』や無双3がこんなイメージでした。日本の貂蝉は、わりにこのパターンが多いかな?

◆桃園の誓い
 実にあっさりとした桃園の誓いでしたねえ。話と話の間にとりあえず挿し込んだって感じです。いいのかこんなので。
 ところでこないだふと気づいたんですけど、日本と中国では桃園の誓いのイメージが違くないですか?
 中国の桃園の誓いだと、本作がそうであるように、三人が横並びになって天に向かって義兄弟になることを誓います。でも日本の桃園の誓いは、あんまこうしたかたちをとらず、もっぱら三人が互いに向き合って、盃なり武器なりを合わせて誓いを交わすことが多い気がします。つまり何に対して義兄弟となることを誓うのかが違うと思うんです。天地神明に誓う中国と、お互いに誓い合う任侠的な日本、です。
 いや何でこう思ったかと言うと、こないだちょっと演義のマンガを描かれた漫画家さんとやりとりする機会があったんですけど、その方はどうも中国的な桃園の違いがピンとこなかったらしいんです。桃園の誓いってのは天に向かって誓うものなんですと僕が言っても、なかなか通じない。
 でも考えてみたら、そもそも僕にも桃園の誓いといえば乾杯のイメージがある。和丸さんのイベントとかで、普通に「生まれた時は違えども〜」って乾杯してた。桃園の誓いになぞらえて乾杯するってのは三国志オタクあるあるで、うちの師匠なんかは怪しい秘密結社みたいだと笑うんですけど。考えたらこれも中国的な桃園の誓いからは出てこない発想です。
 日中の三国志イメージの違いとして、ちょっと面白そうじゃないですか?


三国志DVD&データファイル 創刊号

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2016-10-26

私は、この本とは、一切関係ありません。偶然ここへ来て、書き込みしています

 



 殷から唐まで、さまざまなジャンルを通じて古代中国の思想がわかりやすくまとめられている本です。
 とくに、

 第2章の「〈三国志〉を知る 魏以外の二国は正統ではないのか?」と、
 第3章の「〈歴史思想〉を知る 中国史学に客観性・科学性はあったのか?」

が大変すばらしい記事でした。
 もしすばらしくなかったら、文句はここのコメントまでどうぞよろしくお願いします。

2016-10-24

「三国志 Three kingdoms」全95話を観る その1

 第1話「曹操、刀を献ず」

◆黄巾の乱
 ……がこのドラマではないんですね。「三国志」の幕開けといえば黄巾の乱ってイメージが完全に固定されてるんで、初めて知ったときはちょっと驚きました。
 カットされた理由は何なんだったんでしょう?
 尺の都合?
 それとも、劉備ではなく曹操を物語の主軸にするためでしょうか。本作のガオ・シーシー監督は、曹操を第一の主人公にしたかったとも聞きます。
 現代の三国志ドラマだと黄巾の乱はどういう描かれ方をするのか、興味あったんですけどね。
 演義だと悪鬼羅刹のような黄巾賊ですけど、近現代の中国だと黄巾の乱は農民蜂起であると見なされ、わりに好意的に評価されているそうですので。

◆王允
 破天荒な曹操の真意をただひとり見抜き、しかもその曹操から一本取るかのような不敵さも。なかなかひと癖ありそうな硬骨漢に描かれてますね。
 王允は、もちろん演義では董卓を討った忠臣として非常に評価が高いんですけど、最近の日本ではあんまいい扱いをされない気がします。たぶん、董卓や呂布の暴虐ぶりが逆に人気を呼んでいるせいじゃないかと思います。彼らのスケールを大きくすればするほど、それとの対比で王允は小物になってしまうって感じです。『蒼天航路』や三国志大戦の王允がまさしくそうで、小賢しい策謀家ってイメージにされてました。
 女を利用する美女連環の計も、日本人にはあまりウケがよくなさそうです。

◆曹操役の陳建斌
 1970年、新疆ウイグル自治区ウルムチ生まれ。
 2004年公開の本作の撮影時には、まだ30代前半。つまりこの時点(189年)の曹操とほぼ同い年だったんですね。
 なんて言うか、このあとの老けてく曹操にぴったりだもんで、そんな若いとは...

◆呂布役のピーター・ホー(何潤東)
 いや、すっごいかっこいいです!
 顔ももちろんですけど、体型もシュッとしてて綺麗ですし、しかも鎧の下は相当な筋肉質。
 周瑜とか趙雲とか馬超とか、三国志にはいろんな美丈夫が登場しますけど、本作では呂布が断トツでかっこいいと僕は思います。
 呂布は、あの演義ですら「眉目麗秀」と明記するほど、中国では伝統的に美丈夫とされます。たぶん貂蝉とセットにされる過程で、彼女と釣り合いが取れるように美化されてったんでしょう。ピーター・ホーはそんな呂布像にぴったりでした。陳建斌と5歳しか違わないなんてそんな
 
◆七星刀?七星剣?
 日本語字幕では「七星剣」ってなってますけど、台詞では「七星刀」って言ってる気がするような。
 ビジュアル的にも刀は片刃、剣は諸刃なので、これは刀のはずなんですけど。字幕が間違ったかな?


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