意見の対立をどうやって解消するか?その1

仕事をしていくなかで、関係者の間での意見の対立というのはよく起こります。場合によっては感情的になったり、長期化したりといったことも起きます。このような対立状況を「コンフリクト(conflict)」と呼びます。実際のビジネスでは力関係で決着したり、先延ばしにするパターンが多いでしょうが、往々にしてこのような解決は後々手痛いしっぺ返しを食らったり、問題が大きくなったりします。
一方、コンフリクトには肯定的な側面もあります。コンフリクトを通過することにより、より緻密で精度の高い対策を生みだしたり、関係者間の相互理解・信頼を深めたりすることもできます。よって、コンフリクトは避けたり激化させたりするのではなく、いかに協調的に解決していくかが重要だといえます。
コンフリクトの解決策は、従来「ビジネス心理学」や「交渉論」の分野で研究されてきました。有名な「ハーバード流交渉術」もその流れからきており、交渉論はビジネススクールでも専門科目の一つになっています。

ハーバード流交渉術 (知的生きかた文庫)

ハーバード流交渉術 (知的生きかた文庫)

「二重関心モデル」(Thomas & Kilmann, 1975)という考え方では、一般にコンフリクトの解決戦略は次の5つとされており、それぞれ一長一短があり、適する場合と適さない場合があります。

詳細の説明はおいといて(見ればだいたいわかりますよね)、マンガ「ドラえもん」でいえば、強制戦略を取るのがジャイアン服従戦略を取るのがのび太です。意見をストレートに出さない日本人の場合は、先延ばしの回避戦略や、「足して2で割る」形の妥協戦略を選択する場合が多いでしょう。ちなみに妥協戦略は、比較的誰でも思いつくので、「ナマケモノの意思決定」なんて呼ばれたりもしますが、有名な大岡越前「三方一両損」の話でもわかるように、やりようによっては妥協も捨てたものではありません(だから図では「妥協」もwin-winに一部重なっています)。
しかしまあ普通に考えると、やはりお互いにとってメリットを生み出す「協調」的アプローチ(「ドラえもん」でいえばしずかちゃんの戦略)がベターであることがわかりますが、これがなかなか難しい。日本のコンフリクト・マネジメントの第一人者である鈴木有香さんが、この協調的アプローチの進め方を次のような図で説明しています。
コンフリクト・マネジメント入門-人と協調し創造的に解決する交渉術

コンフリクト・マネジメント入門-人と協調し創造的に解決する交渉術


この図の意味するところは、


①お互いの意見の対立点を明確にし(立脚点)
②その意見の背景や根拠を相互に把握し(ニーズの把握)
③相手にとっての常識や価値観に配慮して(世界観)
④相互の立脚点でなくニーズにフォーカスを当て、問題を作り替え(問題の再焦点化)
⑤再焦点化された問題を解決する方法を検討する(建設的提案)

というステップを踏んでいく、というものです。
交渉論の事例で有名な「レモネード・エピソード」を例に取りましょう。

ある日、私はレモンを10個買いに行きました。店に残っていたレモンはちょうど10個。そこへもう1人、「レモンをください。どうしても10個必要なんです!」という人が現れました。そこで取っ組み合いのケンカになり、2人はボコボコ、レモンもグチャグチャ。結局どちらもレモンは買えずじまい。

この事例は、協調的アプローチの反対である強制的アプローチを双方が取ったもので、最悪の結果と言えます。この事例を協調的アプローチで進めると、次のようになります。

再焦点化する前の問題は「私と相手、どちらがレモンを10個手に入れられるか」で、真っ向から対立しますが、問題の再焦点化によって、問題の形が変わったため、解決策が提案できるようになりました。要は、相手の「ニーズ」をきちんと理解すれば問題を作り替える(再焦点化)ことができ、別の解決提案ができた、ということです。このように協調的アプローチでの最も重要なステップは「問題の再焦点化」であり、これは別の説明の仕方をすれば、「双方にとって、より本質的な問題に目を向ける」ことを意味します。
ところで、最近もっと簡略化されたコンフリクト解決策を知りました。今更ながらですが、数年前のベストセラー・ビジネス小説「ザ・ゴール2」(エリヤフ・ゴールドラット博士)に登場する手法ですが、よくよく見ると、上記の協調的アプローチとその考え方の本質は非常によく似ています。ということで、「ザ・ゴール」に登場する手法を次回ご紹介します。

ザ・ゴール 2 ― 思考プロセス

ザ・ゴール 2 ― 思考プロセス