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2007-08-01

[]東中野センセイの新著そのほか

昼休みに本屋にいったら東中野センセイの『再現 南京戦』(草思社)が置いてありました。出版社によればこういう本だそうです。

日本軍の「戦闘詳報」、兵士の日記等をもとに南京戦を再現。大虐殺を世界に発信したニュースや刊行物の矛盾を衝き、市民・捕虜虐殺を全面否定した画期的研究。

まわりに人がいないのを確認して(笑)手にとってみたのですが、カヴァー見返しをみると、これまで顧みられなかった戦闘詳報や将兵の日記をもとに云々と書いてあったので、仰天してしまいました。カヴァーや帯のうたい文句は編集者が考えるのだとしてもこれはひど過ぎます。というか、目次や冒頭部分をパラパラめくってみると東中野センセイ自身が似たようなことを匂わしている。この分野のパイオニアと言ってよい故洞富雄氏の著書にだって当時利用可能だった旧軍関係資料は利用されているし、80年代、特に偕行社が「証言による南京戦史」の連載をはじめそれを『南京戦史』、『南京戦史資料集I、II』にまとめて以降(20年近く)は、私のような素人だって戦闘詳報、参戦将兵の日記を利用しているわけで…。そもそも「旧軍関係資料をもとに、南京攻略戦の経過を再現する」という作業はまさに偕行社が行なったことだ。あたかも初の試みであるかのように言い張る神経はすごいとしか言いようがない。


今月号の雑誌から。

  • 『文藝春秋』8月号、「総力特集 昭和の海軍 エリート集団の栄光と失墜」ほか
  • 『月刊現代』9月号、「歴史発掘スクープ 日本人捕虜秘密尋問所の全貌」ほか

『文藝春秋』の特集は6月号に掲載された座談会「昭和の陸軍」のいわば続編。メンバーは半藤一利、秦郁彦、戸高一成、福田和也、平間洋一の5人。感想をひとことで言えば、単純な「海軍善玉史観」の見直しがここでも着実に進んでいるな、と。その他、櫻井よしこが「米国民に訴える「慰安婦」意見広告」という自画自賛の一文を寄せている。これに対して保守派の側から異議を唱えているのが『月刊現代』に載っている東郷和彦(元オランダ大使、A級戦犯だった東郷茂徳の孫)の「従軍慰安婦決議は「日本玉砕」の序章か」。慰安婦決議に対する日本の保守派の反発が“慰安婦制度がアメリカでどのような問題として受けとめられているか”についての理解をまったく欠いているために、「情報戦」に敗北しようとしている…というのが主旨。私自身も“保守派は歴史的事実の認定だけが争点であるかのようにふるまっているが、事実認識で一致していてもその事実に対する評価に大きな隔たりがあるという側面を見落としている”という趣旨のことを書いたことがあるが、セミナーで慰安婦問題について発表したという東郷氏が現地で感じたのがまさに「ジェンダーの問題」に対する日米での温度差だったようだ。そして「情報戦に正しく対処する」ためには「世界の世論が「なるほど」と思う形」でメッセージを発しなければならない、など5項目の提案をしている(「公娼制と同じ」という論法では理解を得られる見込みが金輪際ないことも示唆されている)。

もう一つ、「日本人捕虜秘密尋問所の全貌」は『盗聴 二・二六事件』の著者で元NHKプロデューサーの中田整一によるもので、8月7日に『NHKスペシャル』(NHK総合、午後十時〜放送予定)で紹介される米軍の捕虜尋問所、通称「トレイシー」について、さわりを紹介したもの。最近『日本軍のインテリジェンス』(小谷賢、講談社選書メチエ)が話題になっているが、その種のテーマに興味のある方におすすめ。

先月末から今月の新刊より。

  • 平塚柾緒(編)、『知られざる証言者たち 兵士の告白』、新人物往来社
  • 池谷薫、『蟻の兵隊 日本兵2600人山西省残留の真相』、新潮社
  • 小林弘忠、『巣鴨プリズン 教誨師花山信勝と死刑戦犯の記録』、中公文庫

『知られざる…』は『週刊アサヒ芸能』の昭和46年新年号から1年間、51回にわたって掲載された「ドキュメント太平洋戦争 最前線に異常あり」の約半分を収録したもの、とのこと。「はじめに」や「あとがき」を読むとどうやら初の単行本化のようである。(1)敗戦後20数年、当事者もまだ壮年の時期に聞き取ったものである、という点で貴重でもあるが、同時に(2)1970年前後における「戦争体験の受容」を示す資料とも言えそうである。南京事件、従軍慰安婦(「慰安婦集めに狂奔した沖縄の日本軍」と題された節がある)、人肉食などについての証言がとりあげられているが、ネトウヨ諸氏は「またアカピーか」と早合点しないように。『週刊アサヒ芸能』は徳間書店の発行です。

『蟻の兵隊』は映画『蟻の兵隊』の監督、池谷氏の著作。立ち入って調べたことがない者としては「元残留将兵や池谷氏の主張が正しければ」という留保をつけてのうえでだが、日本という国家による「棄民の歴史」の一コマに関わるものである。

『巣鴨プリズン』は99年に中公新書から同名で刊行されたものに若干手を入れて文庫化したもの、とのこと。「間違いなく戦後史に記憶されてよい人物であるが、氏はかつてまともに照射されることはなく、歴史の表舞台にはあがってこなかった」(「はじめに」)という問題意識によるものである。