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2011-02-16

[]家畜を飼わなくても捕虜は管理できます

http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20110215/1297760957

『アーロン収容所』を読んだのはずいぶん前のことなので、そんな一節があったことなんてすっかり忘れてたよ。いま読み直してみればより面白いかな、と思って探してみたけど見当たらない。ということは父がもってたのを読んだのかな? 既にブコメで書いておいたことだが、この手の似非文明論にはきっちり反論しておくべきだと思うので、改めて。

牧畜の経験云々は七平メソッドのネタの一つだという時点ですでに眉につばすべきであるわけだが、日露戦争で日本軍が捕虜にしたロシア人が86,663人(そのうち79,454人を国内で収容)、第一次世界大戦時に捕虜にしたドイツ人が4,484人(国内で4,697人を収容、なお他にオーストリア人捕虜などがいる)で、それだけの数の捕虜をきちんと管理し処遇できたという歴史的な事実によってたちどころに反駁される(数字は内海愛子著、『日本軍の捕虜政策』による)。第一次大戦時の捕虜は日露戦争時よりずっと少ないが、動員された日本軍将兵の数も日露戦争時よりずっと少ないので、捕虜/日本軍将兵の比でいえばそう違わない。

現代に目を向けても、刑務所では刑務官が自分たちより遥かに数の多い受刑者をきっちり「管理」している。別に牧畜経験者から刑務官を採用しているわけでもないのに。

第一、武装解除した捕虜を管理する能力を本質的に欠いた人間なんて、近代的な軍隊では使い物にならんでしょ。要は軍上層部の意思と教育の問題ですよ。アジア・太平洋戦争期の日本軍が行った捕虜虐待の第一の原因は「捕虜を国際法に則って処遇しない」という意思決定にあるのであって、「家畜」云々は(著者の意図はともかくとして、結果としては)「ゴボウ」伝説同様、戦争犯罪を「不運な巡り合わせ」に矮小化しようとする目くらましです。

Bill_McCrearyBill_McCreary 2011/02/16 21:15 この本は未読だったので、カマヤンさんのところで読ませていただきました。はあ…。

約半世紀前の本なので、今日とは時代が違うとはいえ、「名著」というか非常に知名度が高い本なのにこの内容のずさんさはひどいですね。山本七平の話もこのような淵源があるのかと妙に納得してしまいました。

それはそうと、こういった記述にこれまでそんなに本格的な批判がくだされなかったんでしょうか。それも疑問ですね。

春日春日 2011/02/16 22:06  会田雄次の世代だと、歴史学者が文化的本質主義にコミットするのはそれほど珍しい話でもなかったんですかね。しかし、私はこの人の名前を『アーロン収容所』の著者としてしか知らず、西洋史学者としてどういう業績があるのか全然知らない……。

ApemanApeman 2011/02/16 22:10 Bill_McCrearyさん

著者は一方ではイギリス軍における明瞭な階級差を見てとっているわけですが、自分自身のその観察に忠実であれば「イギリス人は家畜を飼うことに慣れている」といった一般化ができないことにも気づいて良さそうなものですよね。遊牧民ならともかく、イギリスだって多数の家畜を飼育するようなことは限られた職業の人間でなければ経験しないはずですし、(当時において)将校を送り出す階級であれば自分の手で家畜の世話をしたりしないのが普通でしょう。

>それはそうと、こういった記述にこれまでそんなに本格的な批判がくだされなかったんでしょうか。

そうですね、機会があったら調べてみたいと思います。

ApemanApeman 2011/02/16 22:15 春日さん

>会田雄次の世代だと、歴史学者が文化的本質主義にコミットするのはそれほど珍しい話でもなかったんですかね。

確かに「日本人は農耕民族なので……」云々といった論法への批判的な視角というのは現在ほどアカデミズムにおいても一般的ではなかったでしょうね。
それにしたって日露戦争のことを忘れてるのはひどいと思いますw

dj19dj19 2011/02/16 23:03 ↑日本人は農耕民族で”おとなしい民族”だから〇〇虐殺なんかしない!でしたっけ?
何処かで聞いたような(笑)

この話、カマヤンさんのとこで読んですごく違和感があったのですが、日露戦争や第一次世界大戦時の捕虜の扱い
の例をApemanさんが提示されていたので、そのおかしさをすんなり理解できることができました。
現在でも、本人の意図する/意図しない、に関わらず、体験談だったり自分の知り得た“身近な情報のみ”に依拠した
場合に、陥りやすい「落とし穴」だと思いました。
自分も気をつけなくては…。

ApemanApeman 2011/02/17 00:02 dj19 さん

軍隊というのは、中隊長でも200人ほどの人間を管理し、師団長ともなれば2万人を超える人間を管理することが求められる組織ですよね(いずれも旧陸軍の4単位師団の戦時編成の場合)。そういう組織に所属していながら、こういう安直な結論に飛びついてしまったというのは、それ自体が非常に興味深いことですね。

rawan60rawan60 2011/02/17 00:32 >「それも何千年もの間のまったく違った歴史的環境から生まれた、ものの考え方の根本的な相違が……」

その何千年もの歴史的環境の積み重ねも何もかも全く無視して、それこそ何千年も前の世界を想像する上でしか通用しない概念をいきなり自分たちに当てはめようとする。まさにご都合主義の似非文明論。

dj19さん

>体験談だったり自分の知り得た“身近な情報のみ”に依拠した場合に、陥りやすい「落とし穴」

私も従軍経験のある年配の人から、自分の体験話を聞いたり(聞かされたり)したものですが、それらは総じて「自己の労苦」であるわけです。この昔から続くパターンのなかで、その「労苦」に免じてしまうがごとくの感情が、様々な矛盾や疑問をスルーしてしまう、あるいは寄り添ってしまうというあり方として、一定程度、日本において形成されていったのではないかという気がしないでもありません。

ApemanApeman 2011/02/17 10:57 rawan60さん

>その何千年もの歴史的環境の積み重ねも何もかも全く無視して

「歴史的環境」が非常に単純化されているのもポイントですね。

坂本真一坂本真一 2011/02/22 18:40 これと似たような似非論理を見たことがありますね。

http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20090729/1248909225

2011年2月現在でも「嫌韓流4」特設サイトの第8話に、このサンプル画像が見ることができます(直接URLは貼りません、精神衛生上大変悪いものですので)。

こんなことを書いた表現者(漫画家でも小説家でも何でも)が社会的生命を失わない日本社会は怖ろしいと思います。

(私は日本軍性奴隷制は日本の重大な国家犯罪だと考えていますが、もしどこの国の人でも「日本軍が十五年戦争で強姦が多発したのは日本人が強姦したがる遺伝子を持ってるからですね」とか言われたら平常心を保てる自信がありません)

ApemanApeman 2011/02/22 21:04 坂本真一 さん

俗流進化論の悪用と俗流風土論の悪用とは同じような効果を発揮しますけど、論法としては一応区別することが可能ですね。両者の棲み分けとか影響関係などを調べてみるのは面白いかもしれません。

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