「朝日新聞の捏造」論について

一昨日に国会で衆議院議員中山成彬が開陳したという「慰安婦問題」=朝日新聞の捏造説についてはすでに法華狼さんと scopedog さんがエントリを書いておられます。
http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20130309/1362848490
http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20130309/1362849412
私も過去に何度か「朝日捏造」説について取り上げていますので、ご参考までに。
http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20111221/p1
http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20120812/p1
「たった一本の記事で世界を変える」というのはジャーナリストの夢じゃないかと思うのですが、植村隆記者にしてみれば「そこまで買いかぶられても……」というところではないでしょうか。
この「朝日捏造」説は歴史修正主義者の世界認識の特徴が非常に鮮明に現れている、という意味で興味深いものです。すなわち複雑なもの(この場合、「慰安婦」問題についての認識が内外で形成されてゆくプロセス)をごく少数の、できればたった一つの要因に還元して理解したつもりになろうとする、という態度です。いわゆる陰謀説の多くと共通する特徴ですし、「朝日捏造説」自体が一種の陰謀説だということもできます。
もちろん複雑な現実を理解する際にはある程度の単純化は不可欠ですが、単純化の度が過ぎれば当然ながらその理解は現実から大きく乖離していくことになります。
軍「慰安所」の実態解明は、国内外で関心が高まった時点ですでに半世紀近くが経過していたこと、また敗戦時に日本軍、日本政府が大量の公文書を隠滅したことなどの理由により、決して容易なことではありませんでした。したがって、初期における報道や研究に過ちが含まれていたとしてもなんら不思議はありません(というより、歴史学のみならずいかなる学問においても、最初から正解にたどり着いて、それ以降はなんの進展もない……などということはありません)。「朝日捏造」説は学問研究が進展してゆくプロセスについても極めて単純化されたイメージを前提したものだということができます。アウシュヴィッツでの犠牲者数は当初、現在の通説の数倍(代表的なものは400万人)と推定されていました。「朝日捏造説」はいってみれば、アウシュヴィッツでの犠牲者数の下方修正を盾にとって「ホロコースト旧ソ連の捏造」と称するようなものです。