サイバーコネクトツーさん独自の体制と、その核となる文化 (前半)

先週の金曜日、色々な縁が重なってサイバーコネクトツーさんに、交流会という名の飲み会を開いていただきました。

以前、このブログのエントリーでサイバーさんの体制を調査すると書いていたので「これは良いチャンスだ、クククク…。」とか思っていましたが、そんな自分のよこしまな気持ちが軽く吹き飛ぶような熱いお話を聞かせていただき、サイバーさんの開発体制の話を聞いてはヨダレがダラダラ、将来のビジョンの話を聞いては、自分の中でくすぶっていたやる気に点火されました。

今までサイバーさんの開発体制を紹介している記事をみつけては「なるほど。ウチにも導入や!」とか思っていたんですが、交流会の中で話を交えていくと、それよりも大事な考え方がある事に気が付きました。

今回は、サイバーさんの独自の体制を洗い出しつつ、自分が聞いた話などまとめてみようと思います。

独自の体制

まずはサイバーさん独自と思われる開発体制の紹介からです。以前からサイバーさんのサイトや10周年の冊子などで公表されていましたが、交流会で聞いた話などもふまえてまとめていきたいと思います。

トライファクター構造


トライファクター構造は、今回の交流会の中でも聞きたかったお話の1つです。

この体制は上記のWEBサイトからもわかるように、3人1組で集まりを作ることで、話しやすい体制を作り、出来る限りみんなの意見を集めようという事を目的として作られた構造のようです。時期としては初代 .hack の開発からほぼ全社的に取り入れられ、メンバーの意見をボトムアップで集める事を目的として運用されているようで、トライファクターの関係者は座席配置も近く(隣か後ろ)にするなど、何かあったらすぐに3人で打ち合わせができるような体制になっているようです。

確かに大勢が参加する会議などでは、積極的に発言するメンバーと、発言しないメンバーにわかれてしまう事がありますが、発言しないメンバーが面白いアイデアを持っている事も多かったりするので、それらを取りこぼす事なく集める体制だと考えると、非常に合理的な構造であると思います。三人というのは発言しやすい、ちょうど良い人数ですね。

ただし、トライファクター構造での区分けが難しい事もあり、アーティストは作業が分けやすいので3人組を組みやすいが、プログラマはシステムもゲームもネットワークも、一緒に情報を共有しないと効率が悪い、といった場合は4人1組、5人1組など体制を柔軟に組み換えを行っているようです。

以上のように、万能に感じるトライファクターの体制にも弱点はあるようで、今走っている新しいプロジェクトでは一旦利用を止め、新たな体制を築いているようです。具体的なお話は聞けませんでしたが、カバル式からインスピレーションを得た、ユニット制ということでした。(多分、将来的にどこかで情報が出てくると思うので期待したいです。)

特別ディレクション

経験に関係なく、その開発タイトルに対してどれだけ「情熱」を持っているか、どれだけ「おもしろさのポイント」を理解しているかを選考基準とし、松山とリーダーが評価を行い各プロジェクト毎に1名を選出します。

サイバーコネクトツー - 独自の体制

WEBページには上記のような記述があります。この項目についても、以前から興味を持っていたので、先日の交流会の時にお話を聞かせていただきました。

特別ディレクションの役割としては、ゲームを面白くする為の発言をするなら、どの職制の会議に出ることも許可されており「この時期やったら、もうシステムも変更できないし、大体こんな感じの仕様になるんじゃないかな?」といった予定調和な考えを、「あと○ヶ月でマスターというのはひとまず横に置いておいて、こんなシステム入れたら、絶対面白いですよね。」という事を提案できる、リベロ的ポジションの事のようです。

開発中によくある話として、1つのアイデアがあった場合、実はみんな保険をかけて「それは、今の時期じゃできないなぁ」と考えてしまう事も、実は工程を追って分析していくと「こういう手法を使ったら、短い期間で実装できる」とか「こういうトンチもあるよね」といった事がなかなか言えないまま、そのままゲームが完成してしまう。

そういう状況を避けるため、みんなの頭のを一旦リセットしてもらうために発言するのが、特別ディレクションの役割のようです。

自分はこの話を聞いたとき、なんて良いシステムなんだろうと思ったのですが、サイバーさん社内では不人気No1のシステムのようで、上のメンバーからは「グヌヌヌヌ…。俺らもそれやったらおもろいのわかってる。わかってるけど、今の時期にそれいうのは反則ちゃうんか…。」と思われ、下の人間からは「いきなり抜擢されても、何言ったら良いのか分からない・・・。」など、メンバーの気持ちとしては、中々複雑なようです…。

ただ、ゲームを面白くする為には必要な役職なので、このシステム以上に機能する代替案がないかぎり、運用を止めたりしないそうです。


また、このシステムについてはプロジェクトの中で色々な役職と話をさせ、経験を積ませることで、将来のディレクター候補を強制的に育成するシステムとしても機能しているようです。この役職で活躍して面白いゲームができれば、将来的にディレクターとして抜擢されても、納得しやすい状況を作ろうという役割もあるようです。

ゲームやろうぜCC2

定期的にゲームを購入し、プロジェクトメンバー全員でプレイする仕組みの事です。

各社でも毎週木曜日に誰かがゲームを買ってきては、その周りに人だかりが出来て、ゲームをプレイするってのはよく聞きくので、システムにしなくても良いのかな?と思っていたのですが、そこについても明確な理由があるようです。

まず一つ大きな理由としては、プロジェクトメンバー全員で共通言語を作ること。「あのゲームの〇〇システムを、もっとど派手にした感じ(すいません、内容は適当です…)」と話しただけで、みんなに内容が伝わり、意思の疎通をスムーズに、イメージする内容をブレる事なくする事が重要。との事でした。

例えばとあるプロジェクトでは、作っているゲームに必要だと思うタイトルは、REDMINEのチケットとして、プロジェクトメンバー全員に登録され、それがこなせていないと「なんでこのゲームやってへんねん?」と指導が入るような事もあるようです。

あとは、実際のプロジェクトの資料として、バトル中に武器を切り替えながらプレイするゲームを○タイトル購入とか、このゲームエンジンを使ってるタイトルを○本購入して遊ぶといった事が行われているようです。

サイバーコネクトツーの新卒課題

これはVitalsineさんのサイトでもまとめられており、自分はそこで知りました。

課題1(モデリング課題)

添付のデザイン画のキャラクター(男女いずれか一人)を忠実にモデリングし、質感やディテールを描き込んだテクスチャーをモデル全身に貼って作成して下さい。テクスチャーは1枚で全身を表現し、その中でUV アンラップによる使い回しをすること。

Bump、金属マテリアル等の機能ではなく、テクスチャーの描き込みで質感を出してください。アルファマップは使用可です。

背面等見えない部分は、前面とのバランスや規定ポリゴン数、テクスチャー容量を考慮して自分でデザインしてみてください。

モデルのポリゴン数は 3000poly(三角ポリゴン計算)以内で、シェイプモデルは不可。テクスチャーのサイズは512×512 pixel の256 色で作成し、以下のフォーマットで提出して下さい。武器の有無や種類は自由で、前述の制限に含みません。

サイバーコネクトツー - 新卒採用/グラフィックデザイナー

上記が新卒のグラフィックデザイナー向けの課題の一つですが、学生あがりの課題にしては具体的な内容になっており、それこそ学生時代にある程度ゲーム作りの勉強をしていた、即戦力のみをふるいにかける内容です。

しかも、モデルとモーションを課題として上げている事から、今持っているデザインデータを製作する能力を満遍なく読み取れるようにしているところも見逃せません。

では、いきなり上記の課題を新卒のメンバーに出すのかというと、そこはサイバーさんが毎年行われている、単独会社説明会でフォローしているのでは無いかと思われます。(こちらの内容は後半でまとめる予定です。)


あと、学生時代に絵ばっかり描いていた美大上がりの学生などはどうするのか?その場合でも、ハードルは高めですが募集の窓口は用意されています。

基本的に3D作品の応募が条件となっておりますが、2D作品のみの応募でも構いません。 その際の事前連絡も必要ございません。 ただし、2D作品のみでもこちらが採用したくなるようなクオリティを求めます。 またクオリティを保って物量をこなせるかということも重要になってきます。

サイバーコネクトツー - 新卒採用/2D作品のみの応募について

この事から、サイバーさんが求めるアーティストの基準がよくわかります。

ある程度、業界の経験を積むと、漠然と”デザイナー募集してます。能力がわかるものを提出してください”と書かれていても、じゃあコレとコレ送ろ。となるのですが、学生からすると、それだけ書かれても全くわかりませんから、具体的な基準を提示する事は、お互いにとって良い結果を残すものだと思います。

その他

その他にもいくつか面白そうなものもあるのですが、すでに長くなり始めてるので、今回は列挙するだけでとどめておきます…。詳細をご覧になりたい方はリンク先の記事で確認できると思います。

CC2東京スタジオ

ここでは、サイバーさんの東京スタジオについての体制をまとめています。

少し前のファミ通でも巻頭でスタジオ設立の特集されていたのですが、このスタジオについても、サイバーさん独自の考え方が発揮されています。

東京と福岡の連携

この体制については、こちらの図http://www.cc2.co.jp/recruit/?page_id=530が非常にわかりやすくまとまっています。

では何故、このような体制を取っているのかというと、ファミ通の記事で松山さんが語られていた内容が非常に分かりやすかったです。

松山 : 我々は福岡の弱点を誰よりもわかっています。人材がいないんですよ。福岡の人たちは勉強熱心で、技術交流会を開くとたくさんのクリエイターが集まるのですが、プレイステーション3やXbox360の最新技術の講演をしても、「遠い将来役立つかもしれませんね」という話で終わってしまう。それが、東京にはたくさんのパブリッシャーさんやデベロッパーさん、出版社さんなどがある。私たちはバンダイナムコゲームスさんと仲よくさせていただき、技術交流もさせていただいております

週刊ファミ通(7/15号) 巻頭特集

東京を”フロント”、福岡を”セントラル”として考え、情報を積極的に行うフロントと、今まで通り強力にゲーム開発を推進していく部隊をセントラルとして位置づける。その中で積極的に情報を共有して、技術情報を貯めていこうという試みのようです。なので福岡は福岡、東京は東京と、別々の開発部隊で別々のゲーム開発を進めていくという事ではなく、上記の図でも書かれているように、一つのプロジェクトが走った時には福岡で60名、東京で10名など、お互いのスタジオで人員を割り当て、プロジェクトを回す中で情報共有を図っていく。という構想のようです。

ただ、やはり物理的な距離はあるので、それを緩和するシステムとして、次で説明するCC2 Windowというものを利用するようです。

CC2 Window

通称”窓”と呼ばれる、2つのスタジオ間をつなぐ、リアルタイム映像配信システムのことです。

開発室は1つだという考えのもと、お互いの”今”を共有しようと言うシステムで、システムの詳細については、サイバーさんのブログでもレポートされています。http://www.cc2.co.jp/blog/?p=2878

また、この窓の利用方法はもう1つあり、東京スタジオにお客さんが訪ねてきた時に、関わりのあるメンバーが福岡にいる場合などにも、お互いが窓の前に立って簡単な自己紹介をするなど、物理的な距離感の軽減にも役だっているようです。


あと、交流会の中で、これを利用して打ち合わせも行うのか?といった質問をしたのですが、基本的に窓はそういう使い方を想定しておらず、打ち合わせや議論については、各会議室に設置されたTV会議システムを利用しているようです。

なので”窓”は、名前通り窓としての役割を担うもので、互いの物理的な距離を縮める役割に特化したシステムのようです。

出版

CC2 Store

自分もCC2Storeを利用し、.hackの設定資料を購入していたりしますが、その時に「どこで編集してんのやろ?」と思って巻末をみて驚きました。サイバーさんが独自に編集して、独自に出版しているのです。

先日の交流会の時にその話を伺ったところ、DTPに強いメンバーが社内にいらっしゃるようで、その方と松山さんの2人で、1年かけて1冊づつ設定資料を作っているとのことでした。

何故、社内で設定資料を出そうかと思ったのかを尋ねたところ、理由としては開発会社が深く関わっている設定資料がとても好きで、例えばゲームに登場するキャラクターが、どういう経緯を経て、そのデザインになったのか、最初のコンセプトはどこだったのかを見ることができるのが、すごく役立つ。なのでサイバーさんはほぼ100%、自力で編集し出版をしているようです。(売り上げ的にも上々なようです。)

確かに、最終的な画像だけを集めた画集と呼ばれるものも嬉しいですが、昨今出版されたベヨネッタの画集のように、最初のコンセプトから、完成デザインまでの経緯がわかると、デザイナーの考えや迷いなどがわかって、より満足度が高くなります。

この辺りの感覚は、とてもよくわかりますが、自分達でやってしまおうという所まで考えがいたってしまうのが、凄いと思います。

前半戦のまとめ

というわけで前半戦は以上です。後半戦は大枠は書けているので、できるだけ時間を開けずにエントリーにしたいと思います。

内容的には、

  • 積極的な情報発信
  • 制作したゲームを盛り上げる試み
  • 福岡ゲーム産業振興機構とGFFの活動
  • 以上の事から見える、サイバーさんの核にある考え方
  • こぼれ話(?)

について書こうかと思っています。


また、先日の交流会の最後でサイバーさんから「今日の話は、Aquさんの好きなように書いてもらって良いですよ。自分たちは何も隠す必要がないので任せます!」と言われたのですが、その話すらサイバーさんの体制を表しているような気がします。

その勢いと自信、非常に羨ましいです。

では、また後半書きます。

後半へ続く >>