竹内好「近代の超克」その2 戦争と生命線

小林秀雄

きのうの続き。


最初に余談。
きのう小林秀雄のことに少し触れたが、小林は、戦前から戦後にかけて際立ったカリスマ性を持ち続けた日本の文化人の一人だ。
戦後第一のカリスマ三島由紀夫が代表作『金閣寺』を発表した直後、小林と対談し、たしか次のようなやりとりがあった。

小林 『三島君。世間ではあの小説を叙事詩だと言ってるようだが、あれは抒情詩だね。』
三島 『いやあ。分かりますか。』

このくだりを読んだとき、「そんなこと、俺でも言えるわ」と思ったが、小林にじかに言われると、さすがの三島も恐れ入ってしまう、というところがあったんだろうな。三島はいまの基準で考えても、文学者のなかでは超絶的に頭のいい人だったと思うが、小林の前に出ると、やはり呑まれたりすることもあったのだろう。
小林のこういう印象批評的な一言というのは、パドック解説で故大川慶次郎がよく言っていた、「この馬、バカによく見えますね」というのと同じで、内容ではなく言表したということ自体に、相手を黙らせ考え込ませるような力があったということであろう。
写真を見ると、どこか胡散臭そうなおっさんなのだが、「カリスマ」たる由縁である。

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