居住権のこと

先日のエントリーで、家屋に住むということに関して「居住権」が日本では明確に保障されてないらしいということを書いたので、それについてネットで少し調べてみました。
ここでいう居住権というのは、家に住む、あるいは住み続ける権利ということですね。


まずこのSHiPSというNPOのサイトには、上野芳子さんという方のこういう文章がのっていて、上から9番目の段落にこうあります。

我が国には、ヨーロッパの先進諸国に見られる「居住権」を規定する法律は存在しないが、かろうじて憲法第二十五条において「生存権」としての「人権」が認められており、かつ、あえて居住権を守る法律が存在するとすれば、借地借家法において居住の継続にかかわる「正当事由制度」の存在である。


結局、日本の法律で居住権と呼べそうなものは、家を借りた人の権利を、貸した側に対して守るものだけらしい。
だから、国とか自治体とかが、家屋を壊すような決定をした場合に、それに抵抗する根拠となるような「居住権」という文言の明記は、存在しないようだ。
「居住の権利」について非常に分かりやすくまとまられているこのサイトを見ると、日本は、行政などによる強制立ち退きを基本的に認めないとする「国際人権規約」を批准していて、憲法では98条で国際法規の遵守をうたっているから、これも尊重しなくてはいけないと、そういう法的な根拠づけになってくるらしい。


ところで、きのう紹介した「しんぶん赤旗」の記事にあったように、居住権の保障が明確でない形で「住宅基本法」という法律があらたに作られようとしているだけでなく、唯一の居住権を守る法律と考えられなくもない、借地借家法さえも変えられてしまいそうである、と。
今年行われそうな借家制度に関する法律の改正について、日本バイヤーズ・エージェント協議会というところのサイトのこのリポートでは、文章の最後にこうまとめられています。

【借り手不利の時代が到来する】
このような改正案が国会を通ると借り手不利の状況は明らかだろう。定期借家権が出来た際は衆議院参議院も委員会で賃貸住宅に住み続ける国民に配慮して多くの付帯決議をつけた。
いまの国会には当時のような借り手の生活を配慮した意見が出てくることは期待できない。借り手不利の時代の到来である。
会議側のある委員「福祉やなんかに関わる問題を家主に転嫁させるという考え方はおかしい」という。確かにそうだが、国は住宅困窮者を保護する制度がきちんとできているのだろうか。切り捨て御免の結果はホームレスの増加しかない。


ここまでを総括すると、日本にはもともと「居住権」という観念が法制度のうえでも稀薄であるうえに、ここへきてこれまでかろうじて保護されてきた、借家人として「家に住む権利」、「住み続ける権利」みたいなものも失われようとしている、ということのようです。
それから付言しておくと、生存権を保障した憲法二十五条についても、改憲によってこの条項を削除しようという動きが、すでにあるらしい。これは自民党改憲案にはまだ盛り込まれてないけど、日本経済新聞による「憲法改革」案ではそうなってるということです。
もちろん生活保護法とかも、この二十五条を最終的な拠り所にしてるわけだから、これがなくなってしまうとなると、たいへんなことだ。


それで、ヨーロッパでは居住権というのはどういうふうに保障されてるのかと思って、いろいろ調べてたら、こういうものがありました。これは、震災復興委員会というところのホームページのなかにあったもので、阪神・淡路大震災からの復興をめぐって、スコット・レッキーという人が98年に行った講演の記録だそうです。
この問題が日本で大きな注目を集めたのは、震災のときだったんですね。
このなかに、イギリスなどでの実情(当時の)とか、「居住の権利」という考え方についてとか、いろいろ出てきます。
講演のなかの「5」の項目は、とくに参考になるかと思います。
それから、質疑応答のなかの「適切な」住居ということに関する部分で、突然行政によって立ち退きを迫られ強制退去させられることがないような「占有権の保障」が、家の持ち主であろうと借家人であろうと必要だ、とありますが、要するに日本の現状では、それがないということですよね。


それから、他のサイトも見ていて分かってきたことは、ヨーロッパ諸国などでは居住権というものが法律で保護されているということですが、そのひとつの背景には、それを実現しようとする社会的な動きがあったということです。
そのなかのひとつが、以前このエントリーでご紹介した「スクワット」といわれるものらしい。
なるほど。それであのとき(行政代執行の数日前)うつぼ公園に来てた「スクワッター」のイギリス人男性がエールを送ってたわけか。
でも、下の『レアリゼ』というWebマガジンの記事を読むと、命がけの運動だったんだな、これ。
http://www.realiser.org/2002/021214.htm

http://www.realiser.org/2003/030113.htm


ヨーロッパやアメリカで、「居住権」を法的に認めさせようという動きが社会のなかで広まったのは、やっぱり経済状態が悪くなって、貧困層が拡大したり、「ホームレス」の人たちが増えたりしたことが大きな原因になったのでしょう。
どうも70年代の後半ぐらいから、その流れが強まったらしいから、サッチャーイズムの始まりと、やっぱり重なりますね。
日本でも、ちょうど今、その時代のイギリスのような社会構造になってきている。でも居住権が保障されてないばかりでなく、かろうじてあった権利まで失わせるような方向に法律が変えられようとしてるわけです。


このままだと、家を持たない人というのは、今後どんどん増えていくだろう。


そういえば、28日に、関西ではこんなニュースが流れました。
これは、大阪市内の土地が不法な形で占有されている(家を建てて人が住んでいる)のを知りながら、大阪府が黙認していたことがわかった、というMBSが報じたニュースですが、この件では、すでに住んでいる人に所有権が発生しているのではないか、ということが問題になっているようです。
この所有権と居住権との関係というのは、どうなってるんだろう?