じゃがめブログ

毒にはなるが薬にはならない、じゃがいもの芽のようなことだけを書き綴るブログです。

大震災の風評を観察して思い出す、アルツハイマーのアルミニウム原因説

 私の父はアルミニウム調理器具の工場で働いていました。今から20年近く前の話です。当時は景気の良さもあり、仕事も快調。部下を抱えて東奔西走する作業着姿が格好良く見えたものです。

 ところが、1990年代に入り『アルツハイマーのアルミニウム原因説』が流れたことで、工場の業績が悪化。もちろん原因はそれだけではないのでしょうが、かなり影響は大きかったようです。次々と職員の首は切られ、しばらくして工場は畳まれたと聴きました。久しぶりに帰省した折に工場のあった場所を訪れてみましたが、そこには大きな公園があるばかりで、寂しい思いをしたものです。今はその会社自体が存在しないようです。

 この『アルツハイマーのアルミニウム原因説』ですが、今でも気にしている人はいらっしゃるようです。かなり浸透しているようですね。この説を当時の世に広めたのは、新聞・テレビでした。1990年代後半に入って、各新聞社が一部実験結果を新聞で大々的に載せたのが始まりです。メディアの情報浸透力の強さを感じます。その影響力は、今でもGoogleで『アルミ鍋』と検索すると、こう表示されるほどです。

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 あまりにも浸透している説ですが、この説は現在では否定されています。完全否定にまで至ってはいないようですが、基本的には無関係というのが通説です。例えば、調理器具から溶解するアルミニウムの量より通常の水道水や海藻類に含まれるアルミニウムの方が圧倒的に多い。にも関わらず、海藻類が規制されることなどないですよね? 海藻食べ過ぎてアルツハイマーになったという研究や事実もない。そういった話がありながら、当時新聞を賑わせたこの説は家庭に根強く残り、アルミニウムの調理器具は忌避される傾向にあるようです。

 確かに、見えないものであり身に危険が及ぶものというのは概して強く拒否してしまいがちです。無害ですよと言われても口にするのには躊躇するでしょう。目視で判断できないものだから、どうしても「疑わしきは罰する」という方向に傾くのも已むないと思います。ですが、もうちょっと冷静になれないものか、とも思うのです。アルツハイマーの原因説が流れた当時、「アルミニウムを使っていない」という触れ込みで高額な調理器具を売るという事例も発生していたようです。闇雲に危機を避けようとして異なる落とし穴にハマってしまう、という一例です。


 まだまだ現地の人々にとっては終わらない震災ですが、その震災に対する関東の人々の反応を見ていてこんなことを思い出したのでした。