『太陽の簒奪者』

あらすじ

西暦2006年、突如として水星の地表から噴き上げられた鉱物資源は、やがて太陽をとりまく直径8000万キロのリングを形成しはじめた。日照量の激減により破滅の危機に瀕する人類。いったい何者が、何の目的でリングを創造したのか?―異星文明への憧れと人類救済という使命の狭間で葛藤する科学者・白石亜紀は、宇宙船ファランクスによる破壊ミッションへと旅立つが…。星雲賞SFマガジン読者賞受賞の傑作短編、待望の長編化!

カバーより

 早川書店からの新シリーズとして2002年の4月に創刊された「ハヤカワSFシリーズJコレクション」。新書版より少し大きいサイズで、文字も一段組みで大きく読みやすい。従来のとっつきにくいSF像を払拭し、日本の作家のエンターテイメントに富んだ作品を気軽に楽しめるようにという趣旨で作られたシリーズのようである。



 私はあまり日本人の書いたSFを読まないのだが、この作品の評はあちこちで聞いて気になっていたので買ってみた。文庫本に比べると値段が高い。ハードカバーのものに比べると安いのだが、作品の質は別にして、この文章量と装丁で1500円だと割高に感じる。


 普段読みなれているものより文章量が少ないので、あっという間に読める。会話などが必要最小限で構成され潔い。また、日本人が日本語で書いた文章は、文化の違いによる違和感がないので読んでいて安心感がある。



 内容は、近未来のファーストコンタクトを取り扱ったものだ。水星に突如人工建造物が発見される。ナノテクノロジーを使用した異星人の高度な技術で、次第に大きくなるその建造物はいずれ太陽を巨大なリング状に覆い尽くそうとしていた。


 主人公の白石亜紀は中学生の時に水星の建造物を初めて観測し、以来この未知の文明に惹かれた。彼女が成長して研究者となり、生涯をかけてこの異星人とコンタクトしようとする活動が描かれている。



 ファーストコンタクトを扱ったものは多いが、相手の知的生命体がこれほど姿を現さず、呼びかけにも応じないものは珍しいかもしれない。最初に兆候があってから何十年もの間、呼びかけにも一切反応がなく、無機質で対話が成立しないのだ。


 何十年もずっと無反応のまま物語が進んできたので、最後の最後で反応があったのが少し残念なぐらいだった。会話がまったく成り立たなくても良かったのではないかと思う。しかし説明がないと物語として成り立たないのだろう(笑)。



 社会的にもリアリティがあって現実の延長線上にありうる未来といった感じだ。敵対するでもなく人類の感傷を押し付けるでもないエイリアン像が良かった。スケール感はそれなりに大きいのだが、もっと大きいものがたくさんあるので、あまり感じられなかった。主人公の白石亜紀がどうしても男性から見た女性像という印象が拭えないのが少し残念だ。