3D小説 岡田アユミ

2013-05-02

Scene6 23:45〜 1/3


 カップルのためのホテル街を抜けると、広い通りに出た。右手の橋の向こうに、交番の明かりがみえる。
 本能的に身体が動く。私はそちらへ、駆け出した。なのに、
「待て」
 腕を掴まれる。
「手前。見えるか?」
 大久保が顎で指す。
「あいつだ」
 交番の隣、川沿いの暗い通りに、青年が立っていた。キャップ帽を目深にかぶった青年。
「どうして」
 だって、交番だよ? どうしてトレインマンが、すぐ隣に。こんなの不条理だ。
「わかんねぇよ。でも、とにかく危ない」
 大久保に腕をひかれて、また暗い路地に戻る。泣きそうだ。ようやく、ゴールだと思ったのに。私は胸元に手を伸ばす。だが、そこに、いつもの硬い感触はなかった。
「え」
 私はつい、足を止める。
「どうした?」
 苛立ったような、大久保の声。
「ないの」
「ない?」
「うん。ペンダント」
 黒い、牙のような形のペンダント。それは本当は、半分になったハートだった。
「そんなの、どうだっていいだろ?」
 よくない。大切なものだ。とっても、大切なものだ。
 思わず叫び返しそうになるが、なんとか心を落ち着かせる。確かに今は、あのペンダントよりも大切なことがある。
「……うん。ごめん」
 ペンダントは明日、捜しにいこう。気持ちを切り替えなければいけない。今は、トレインマンと警察だ。
 トレインマンと、警察――そうだ。
 どうして、気がつかなかったのだろう? なにも絶望することはない。トレインマンは交番のすぐ隣にいる。これは、チャンスだ。
「電話をかけようよ」
「え?」
「警察だよ。トレインマンを捕まえてもらおう」
「あ、ああ。そうだな」
 大久保がポケットに手を入れる。でも、すぐにその動きが、止まった。
 理由は私にもわかった。前方から、小さな音が聞こえる。足音。暗いホテルの向かい、公園から、背の高い女性が現れる。
 彼女の姿を見て、私と大久保は、同時に小さな声を上げた。


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