Scene6 23:45〜 2/3

 なんて、幸運だ。
 暗くてもシルエットでわかる。その女性は警察の制服を着ていた。今度こそ、ようやくゴールだ。きっと。
「助けてください」
 私は女性警官へと叫ぶ。同時に駆け出した。
「あの、銃が。トレインマンがいて。すぐそこなんです。助けて」
 頭の中で言葉が絡まる。だめだ。落ち着け。もう大丈夫なんだから――
 私の手を、強い力が掴んだ。どうして。振り返ると大久保が顔をひきつらせている。じっと前方を睨んで、言った。
「だめだ。あいつは、悪者だ」
 視線の先では女性警官が、赤い唇を笑みの形に歪めた。
「まあ、確かに私は、見た目通りの善人ではないけれど。じゃあ貴方はどうなの? 付録屋さん」
 言葉と同時に、女性警官は右手を持ち上げた。
 なんて、ことだ。
 そこにはまたあの黒い穴があった。日本にはこんなにも銃が有り触れているのか。警察なら銃を持っていて当然なのか。でも、どうして警察が、害のない大学生に銃を向けるんだ。
 恐怖心は麻痺したのかもしれない。ただ、混乱していた。
 頭の中が白く染まったように感じた。夜さえ白くなる。それは錯覚ではない。
 ――いつの間にか背後から、強い光が射していた。
 エンジンの音が、じんわり近づいてくる。振り返らなくてもわかる。なのに私は、銃口にさえ背を向けた。
 眩しい。目を細める。狭まった視界で、2つの丸いライトが見える。だがその光は、エンジン音と共に、すぐに消えた。
 あのベレットから降りたのは、やはり、キャップ帽を目深に被った青年だった。


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