3D小説 岡田アユミ

2013-05-02

Scene10 01:50〜 2/4-E


 しばらくメールをいじっていた。
 でも、どこにも送信できない。圏外だから当然だ。
 さすがにもう諦めよう、そう決意した時だった。
 手の中の、スマートフォンが震えた。
 錯覚だ、と思った。電波も届かないところに、私はいるのだから。でも理性とは反対に、身体は素早く反応していた。モニターを覗き込む。
 そこには、確かに。
 新しいメールが、届いていた。
 知らないアドレス。――「少年ロケット」でもない。
 タイトルは、「パスワード」
 一体、なんのパスワードだろう? 
 本文を、開く。

 RocketJump01 
 忘れずに!!

 ロケット、ジャンプ?
 一体、どういう意味だ?
 ――私も、ここから飛び出したいよ。
 ともかく返信してみるが、やっぱりエラー。圏外なのに、一方的にメールが届くことなんてあり得るのだろうか。
 ――こっちから送れなきゃ、どうしようもないじゃない。
 助けも呼べない。警察に連絡してもらうこともできない。
 ため息をついて、私は目の前のドアを見つめる。とにかく開くしかないのだ、どれだけドアの向こうが怖ろしくても。ここに留まっていても、何も変わらない。
 手を伸ばす。胸が大きな音をたてる。怖い。心臓が痛くて、吐き気さえ覚える。息を止めて、ノブを回す。ドアはこんなにも簡単に開く。
 先は暗い部屋だ。

 誰も、いないようだ。
 息を吐き出す。肌が妙に汗ばんでいた。
 ゆっくり、辺りを見回した。広い。リビングだろうか。ソファー、テーブル。テーブルの上には文庫本が1冊。どこかの書店のものだろう、濃いブラウンに、ポップな街のイラストが描かれたカバーがかかっている。
 窓を探したが、それはなかった。部屋の奥、パソコンラックにデスクトップPCが置かれている。モニターは暗いが、電源のボタンは緑色に光っていた。左手の方に、ドアがある。――また、あれを開けるのか? 嫌だ。心底、怖い。
 ふと気づいた。
 PCなら、インターネットに繋がっているんじゃないか? スマートフォンが圏外でも、有線なら、あるいは。
 私はPCに駆け寄る。
 緑色の電源ボタンを押す。
 モニターが明かりを放つ。
 そこには、奇妙な画像が映っていた。
 世界地図、のようだ。その上に迷路が書き込まれている。あまり丁寧なものではない。雑な線だ。
 ともかくエンターキーを押してみた。小さなウィンドウが、画面の中心に表示される。

 このコンピュータはロックされています。
 パスワードを入力してください。

 パスワード?
 先ほどのメールを思い出す。あれの、ことだろうか?
 でもどうして? パスワードがメールで届くんだ?
 疑問だったが、考え込んでいる余裕もない。
 スマートフォンをキーボードの隣に置き、チェアに腰を下ろした。
 2つの画面を交互に覗いて、キーを打つ。

 RocketJump01

 緊張していた。2回、タイプミスをして、バックスペースを使う。文面を確認する。大丈夫、間違いない。
 エンターキーを押すと、ウィンドウが消えた。
 ポインターがマウスに反応する。どうやら操作できるようだ。
 デスクトップには、なんのアイコンも表示されていなかった。私は矢印を左下のスタートメニューに合わせる。
 ポケットで何かが震えた。スマートフォン。電波がないんじゃなかったのか? 引っ張り出してみると、やはり左上には圏外の文字がある。
 なのにメールが届いていた。差出人はまた、「少年ロケット」だ。
 メールには、妙に陽気に。

 いやっほーーう!
 これで「ひとつ目」のシーンの修正、完了だ!
 さすがお前ら、サイコーだぜ!!!
 この調子で「ふたつ目」も頼む! 

 そう、書かれていた。
 意味がわからない。きっと誰かの悪ふざけだ。
 気を取り直して、私はスタートメニューをクリックした。


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