3D小説 岡田アユミ

2013-05-03

Scene19 4/4


 ふいに、笑い声が聞こえた。
 ぼやけた視界で顔を上げる。
 あの白い帽子はもう、いなくなっていた。話し相手のおばさんもいない。ただ、黒崎くんが、大声で笑っていた。
 彼は遠慮なく私の背中を叩く。
「お前、最高だな!」
 黒崎くんが何を言っているのか、わからなかった。
「なによ。馬鹿にしてるの?」
 私はこんなにも、敗北感に打ちひしがれているというのに。
「褒めてるんだよ。本気で。こんな方法があるなんて、考えもしなかったぜ」
「方法? なんのこと?」
「なんだよ。お前、本当に気づいてないのかよ」
 ようやく笑い声を抑えて、彼は目元を拭った。
「獣医のセンセイが言ってただろ。あいつは、外聞ってのが大事なんだよ」
「うん」
「人前でさ、子供に泣きながら念を押されるのって、たぶん相当恥ずかしいぜ?」
 また、力強く、私の背中を叩く。
「お前はさ、一番効果的な方法で、あいつを殴りつけたんだよ」
 そんなつもりはなかった。
「私、本気で頼んだだけだよ」
「ああ。だから最高なんだ」
 そうかな。そういうものかな。
「でも、もしまたモップを捨てたら――」
「捨てたら?」
「そんな悪者、今度こそ思いっきり殴ってやる」
「おお。任せたぜ。悪い奴は思いっきり殴ってやれ」
「黒崎くんはやらないの?」
「世間はなぜだか、男が殴るよりも女が殴った方が問題にならないんだよ」
「むう」
「ま、お前に殴れない奴は、オレが殴ってやるさ。役割分担だ」
 さあ、モップのところに戻ろう、と言って。
 黒崎くんは自然に、私の手を引いた。


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