仮面ライダー555 SPIRITS

2006-03-12 エピソード10 長田結花2

エピソード10 長田結花2

 

 

 

 3日後。土曜日。

 新宿都庁ビルの隣に三角状のビルがある。地上52階地下4階、超高層ビルの老舗として昭和49年より新宿に聳え立つそれは、1年前よりスマートブレインが買収し『ブレインタワー』と改名した。村上前社長が推し進めた旧財閥系企業への支援策の賜物である。

 その51階の大会議室に、本部課長以上の肩書きを持つ全ての人間が、2列対面に並べられ、中央に立つ二人の男性を凝視している。

 

「僕は現在進められている東京湾人工都市計画を拡充し、オルフェノクとなった人間だけが住む自治都市を作りたいと思う。人間とオルフェノク双方にとって、棲み分けこそが、共存への第一歩だと、僕は考えた。人の中に紛れて分散していれば、それだけ軋轢も増えてしまう。残念だけど、交流の窓口を小さくするしか、軋轢をコントロールする方法は無いと思う。もちろん社会的弱者としてのオルフェノクの居住を薦めるだけで、立場上の問題を据え置いて強制する事はしない。」

 

 オールバックのスーツ姿となった木場勇治のこれが、社長就任第一日めの定例会議であった。

 

「つまり都市国家の王になりたいという事なのね。」

 

 幹部会筆頭となって座する、同じくスーツに紫のネクタイの影山冴子が発言した。

 

「僕は、権力なんて望んでない。」

 

 勇治にとってその女は、いつまでも千恵であった。

 

「そう、それならそれで問題ね。貴方がオルフェノクを統制管理しようとしている事を、貴方自身が自覚できてないなんて。」

 

「社長と呼びたまえ。影山君。」

 

 うろたえる勇治に助け舟を出したのは、隣に立つ花形だった。

 

「これは失礼、社長。」

 

「権力を望む者は、他人が権力を手中にする事に敏感になるという。」

 

「私はそんな事を言っている訳では、」

 

「君が立場を行使して権力の集中を防げば、それはそれで社の為になるだろう。社長の輔佐である君達幹部会の役割だ。」

 

 花形は改めて新幹部会の顔を眺める。その中に花形の知る顔は皆無だった。またこの会議で冴子以外発言する者も皆無だった。花形はほくそ笑んだ。

 

 

 

「花形さん、」

 

「気にする必要はない。」

 

 会議が終わり、花形と勇治は最上階の社長室へ移動した。

 

「なぜ千恵をそれほどに重用するんです。アレは社にとって危険です。幹部会も結局千恵のイエスマンばかりになってしまっている。僕一人でどうやってこれから。」

 

「だから言っている、気にする必要はないと。それから、あれは影山くんだ。君もいい加減区別をつけたまえ。」

 

「すいません。僕は少し公私を混同していたかもしれません。しかし、僕は決して権力者になろうという意志は、」

 

 花形は我を失う勇治を手で勇める。

 

「君の計画は私にとっても理想的だ。オルフェノクと人間の棲み分けを、既存の計画の中からこの短期間で見つけた君の手腕を、私は高く評価しているよ。」

 

「それでも、あのチ、影山冴子は信用なりません。大田区の巨大オルフェノク暴走だって、あの女の仲間だったという話じゃないですか。」

 

「ラッキークローバーは前社長村上君の私設機関だったからな。私も不明な点が多い。命じられてやったのか、それとも独断か。だがそれよりも、人間達が、もはやオルフェノクの存在を無視できなくなったということが問題だ。ニュースでもオルフェノクという呼称が一般的になりつつある。もし人間達への危機感を助長するのが目的で、命令を下したのが影山君だとしたら、私も捨て置かん。」

 

「そうです、だから、」

 

「だが現段階では、君の感情論に過ぎない。君に対しての試練の意味もあったが、この人事、少々厳しかったかな。」

 

「試練、ですか。分かりました。僕は、期待に応えてみせます。オルフェノクと人間の理想の為に、私事にケジメを付けます。」

 

「よろしい。取り敢えず以前君と同居をしていた海堂君と、長田君だったかな。あの二人を保護に向かいたまえ。影山君があの二人に手を出す可能性を考えざる得なくなってきた。」

 

「まさか、いや、そうですね。分かりました。」

 

 真新しい革靴を鳴らして足早に退室する勇治。一人取り残された花形は、室内隅にあるオブジェの方へと目を向ける。それはガラスケースの中に入った、あの金のベルト、中国で見つかり今起こっている全ての発端となった『皇のベルト』が飾られていた。

 

「システムに試練、若者達には彼等が見たい現実を与えればいい。・・・私は意外とあざといのだな。」

 

 皇のベルトの中央に紅く光る珠。それは花形を見つめているよう。花形は吸い寄せられるように歩み寄り、ガラスケースを剥ぎ取る。

 

「皇よ。目覚めは、もうすぐだ。」

 

 だが花形がベルトに触れる事はできない。伸ばした5本の指先から金色の放電が起る。いやそれは花形の指先からではなく、ベルト周りを囲む透明な膜が起こしている拒絶反応。

 

「選ばれし者でなければ触れる事すら許さぬか、皇よ。」

 

 

 

「では、このリストは貰っていく。」

 

 草加雅人は既にドアを開けて、南警視正に背中を見せている。

 

「CM出演の件は考えておいてくれたまえ。君達ライオトルーパー部隊が要として、市民に安心を与えなければならんのだ。是非プロパガンダに協力して欲しい。」

 

「バカバカしい、だが考えておく。オレの笑顔で人間を護ってやるさ。」

 

 雅人が去った後、南は視線を窓側に向ける。そこに吊るされている全裸の少女。おそらく15歳程度だろう。乳房を窓に向けて晒し、猿轡からはヨダレが溢れている。首輪は赤い革製。両の手首は揃えて縛られた上、あのアクセレイガンが刺し貫かれている。

 

「さて麗しのオルフェノクくん、今日はなににしようか。」

 

 抗う少女の、既に裂かれている腹部へ無造作に手を突っ込む南。

 

「胃を取り除いて2日、まだ生態を保っているようだな。人間の構造というのは、一つの複雑な浮き輪なのだという。全てが連関し分極しながらも一つの袋として繋がっている。オマエはもう穴の空いた袋だ。」

 

 徐に南は少女の腹部から小腸を手繰り寄せる。

 

「もはや生きていることが不自然であるにも関わらず、なぜそれほどまでに生きているのだ。おぞましいオルフェノクめ。」

 

 少女の両脚が灰となって零れ落ちる。

 

「使わぬ部位からエネルギーを吸い尽くしてでも生きようとするか。おぞましいにも程がある。おかげで私の部屋が灰で汚れたではないか!」

 

 南は無抵抗の少女に手を上げ、頬を何度も叩く。叩けば叩くほどに南のその悪魔のような顔から恍惚した笑顔が溢れた。

 

 リン、

 

 南の携帯の着信音は、何十年も前の黒電話のそれであった。

 

「おはようございます都知事。」

 

 何事もないかのように社交辞令程度の笑声で話す南だった。

 

「かねてからの予定通り、突然変異した害虫と公表しますよ。・・・・、リアリティを持たせるのは、マスコミが雇った学者連中の仕事です。もちろんディテールとなる資料も配布済みです。スマートブレインとの絡みはまだ伏せますよ。株価の暴落は私も配慮しています。」

 

 少女の腹部の傷口を徐々に拡げて弄ぶ南。少女は激痛で足掻く。身を攀じる少女に薄ら笑みする南だった。

 

「分かっています。草加雅人、そろそろ処分します。あのスーツを着続けられるということは十中八九オルフェノクということですからね。ライオトルーパーもその兆候が顕れた者から随時処分しています。その辺のメンテナンスは怠りありませんよ。」

 

 

 

「あそこまで悪趣味なヤツだとは思っていなかった。自分から血を触ろうなんてヤツの気が知れない。汚らわしい。」

 

 雅人の南への嫌悪は、あるいは同族に対するそれかもしれない。

 部屋を出た雅人は、アレ以来頻発している立ち眩みを覚え、人に見られる前にトイレに駆け込んだ。

 

「・・・・、オレは本当に助かったのか、この立ち眩みは、カイザの後遺症か。それとも・・・」

 

 雅人はここ3日、ある記憶に悩まされていた。オルフェノクに心臓を刺し貫かれた自分の記憶に。だが部下のライオトルーパーに起された時、全裸の雅人にはなんの外傷も無かった。

 

「オレの体はいったい・・・」

 

 トイレ内の手洗い場は向かい合わせであり、それぞれ鏡もまた向かい合わせである。草加が覗く鏡にはさらにもう一枚の鏡が見え、その鏡の中にはさらに鏡が存在する。写る雅人もまた無限に存在するのだ。

 

「ぁぁぁぁ!」

 

 雅人の顔の像が揺らぐ。絶叫した。即座に蛇口をいっぱいに回し、狂ったように顔に水を打ちつける雅人。

 

「幻覚だ!幻覚に違いない!オレがオルフェノクになるなどあり得ないっ、洗えば落せる、洗えば落せる洗えば落せる」

 

 鏡に無限に存在する雅人が、のたうち、顔を両手で擦り上げ、絶叫する。

 

「オレはオルフェノクにならない、オルフェノクにならない、オルフェノクなんかにならない、オルフェノクなんてモノは、この世にない!」

 

 雅人は、南から貰ったファイルを乱雑にめくる。

 

「こいつも、こいつも、こいつも、存在しないモノだ、人間の中に溶け込んで人間のフリをしやがって、一人一人虱潰しにしてくれるっ!」

 

 

 

「真理・・・・」

 

 乾巧は夢の中で真理の手を握っていた。だが真理の手は力強く握れば握るほどに巧の掌をすり抜けていく。さらに手を伸ばして掴もうとするも、同じく手を伸ばす真理の肉体は遠ざかっていく。

 

「オレの手ならいくらでも貸してやるぞ。かわいいの。」

 

「おまえかっ」

 

 目覚めた巧が握っていたものは、甲の側に熊のような毛を生やした海堂直也の掌だった。瀕死の頭髪を掻きながら、温かな笑顔で見つめる海堂。

 

「おまえ氏ね!」

 

「プギャフー」

 

 巧は日常が崩壊した石川台に独り気絶して倒れていたところを、海堂がワンボックスで回収した。独り、つまり真理の姿はそこには無かった。あったのはファイズギアの入ったトートバックのみ。巧が気を失っていた三日間、連絡も途絶えたままだ。海堂は巧を気遣ってそれ以上真理には触れず、木場がファイズのベルトを受け継いで戦っていた事、草加雅人という巧者がカイザのベルトを持ってオルフェノクと戦っている話に話題をすり替えた。

 

「草加雅人は、どうやら警察とコンタクトを取って、このベルトを量産したらしい。石川台でそれらしき者を見たよ。まあオレのカイザギアに比べればハリボテみたいなもんだったがな。ガハハ。」

 

 ガハハと口でちゃんと言う海堂だった。

 

「もう一人知らないか。ベルトを持ったヤツの事を。」

 

「ああ敵方にもう一人男がいたな。サイガだ。オレがスマートブレインを去ってから作られたベルトだ。青のフォトンブラッドはリスキーだから研究が中止されたと思ったが。」

 

「男?じゃあ知らないんだな。まあいい。」

 

「他に何かあるのか?」

 

「いや、いいんだ。」

 

 巧はこれ以上聞くのが怖かったのかもしれない。

 

「そうだ、これは本来の持ち主にお返しするよ。」

 

 海堂はファイズギアを差し出した。だが巧から差し伸べられるはずの手がこない。どうした、と海堂は首を傾げる。

 

「木場が、持っていた方がいいんじゃないのか。そのベルトは。」

 

 巧はベルトに目線を合わせようとはしない。

 

「どういう事かな。」

 

「他にできるヤツがいるんだ、オレがやる必要はないだろ。」

 

「それはまたずいぶんと、謙虚、じゃないか。」

 

 海堂が言ったのは皮肉である。

 

「その草加というヤツはアンタが褒める程巧いんだろ。木場はオルフェノクと人間をなんとかしたいという信念がある。オレはただ偶々通りかかって、成り行きで真理を守ってただけだ。資格のあるヤツに渡ったんだ。オレはもういいだろ。」

 

「真理ちゃんを守ってきたんだろ。その実績だけで資格は十分じゃないのか。」

 

「守れなかった。二度もだ!」

 

「それが本音か。」

 

「オレはあの龍のオルフェノクからも、今度も真理を守れなかった。それが全てだ。」

 

 巧の頭には2つの事が渦巻いた。ドラゴンオルフェノクに成すがままにされる真理と、ベルトの力で銃を向けてきた沙耶を。ベルトの二面性を目の当たりにし、その力に依存しなければなにもできない巧がそこにいた。また海堂はずっと避けているが、今真理がこの場にいない事がどういう事を意味するか、巧にも認識できていた。ベルトを着けても無力、無くても無力、ベルトを付けられる以外なんの特徴も個性も無い乾巧がそこにいた。

 

「そうか、オレはどうやら君に期待をし過ぎたようだな、そこらに転がってる軟弱なヤツとなんら変わりない。」

 

 海堂は失望を隠せなかった。

 

「オレに期待するな、そういうのが一番イヤなんだ!」

 

「ではこれは預からせてもらうよ、せっかく・・・イヤ、軟弱に何を言っても仕方ない!」

 

 海堂が出て独り取り残される巧。部屋を見るともなしに眺めていた巧は、散乱するペットボトル、色の趣味からようやく気づいた。

 

「ここは真理の部屋か。死んだ、真理の。」

 

 

 

 花やしき内で軽食店のバイトだったラビットオルフェノクを、親子連れが集うメリーゴーランドの前でめった刺し。

 飯田橋ハローワークで失業保険の手続き中のスロースオルフェノクを、背後からカイザブレイガンで刺殺。

 新宿アルタ前路上で、大道芸を披露するトードスツールオルフェノクを、アクセレイガンで囲んで刺殺。

 渋谷クラブでナンパしていたフロッグオルフェノクを、婦警を餌にトイレに誘い込んで撲殺。

 吉祥寺で、ピザオンリーの店を営んでいたドルフィンオルフェノクを、配達途中にゴルドスマッシュ。

 スピード違反取り締まり中で今月のノルマを達成しつつあったクラブオルフェノクを、ジャイロアタッカー数台で轢き殺し。

 東松原でデリヘルに勤しんでいたエキセタムオルフェノクを、ライオトルーパー全員で強姦の上、客だった男と共に殺害。客の男は既に殺されていたと報告。

 明治大学で哲学の講義を取っていたオウルオルフェノクを、学生の目の前で銃殺。

 三軒茶屋で清掃業を営んでいたスネイルオルフェノクを囲んで蹴殺。

 

 草加雅人率いるライオトルーパー隊は目覚しい働きを示した。草加雅人の構想力、組織管理力、そして計画力と、現地での速やかな指揮行動によって、人間社会に潜む多数のオルフェノクを効率的に処理していった。

 そして、杉並高井戸『菊池クリーニング店』。

 

「警察だ。」

 

「ここ警察じゃないよ〜、なんだ、草加雅人くんじゃないかね。」

 

「表に出てもらえるかな。」

 

 唐突な訪問に、そして漂う気配が唐突に変貌した草加雅人に訝しむ海堂。

 

「殺気が溢れているな。いいのか。今で。私を始末して困るのは君の方だと思うが。」

 

「関係ない。」

 

 海堂がクリーニング店の玄関を出た時、そこに整列して並ぶサングラスの男達が見える。警官特有の紺のスーツに金ボタン、階級章も襟にしっかり備え付けられてる。だが、彼等の装備は拳銃でも警棒でもない。腰に巻かれたベルト。

 

「全員変身!」

 

 ビープ音が鳴る、即座に光に包まれる7人の男達、光が収まった時顕れる褐色のスーツ。ライオトルーパーである。

 

「無駄なことはしたくない。人間の動きでは、私の動きを捉える事はできんよ。所詮そのスーツは、オルフェノクの防護服の役割を持たせた量産型だ。フォトンブラットで強化したカイザギアとは違う。何人こようと無駄だよ。」

 

「オレもそう思っている。」

 

complete

 

 雅人もまたカイザに変身し、襟元を正す。首元の圧迫には過敏な雅人だった。

 

「連れてきました、隊長!」

 

 ライオトルーパーの8人めが顕れる。その腕に人間を引きずってきた。

 

「ちょうどいい。設計者、オマエに対しての武器が今届いたよ。」

 

「結花!」

 

「・・・・っう!」

 

 ライオトルーパーが引きずってきた者、それは猿轡を噛まされ後ろ手に縛られた長田結花。下着が露出するほどに濃いピンクのセーターが切り裂かれ、その柔肌もまたところどころ無残に裂けている。海堂は声も出せずに泣きじゃくる長田結花を見て絶叫した。

 

「そこまで堕ちたか!」

 

「おまえは強過ぎるんだよ。だからこんな手を打たざる得ない。恨むなら自分を恨め!」

 

 カイザブレイガンから拘束弾、

 海堂の像がスネークのそれに変わりつつ、半身捻って回避、

 

「ボヤボヤするな。総員フォーメーションOだ!」

 

 雅人の号令で方円に囲んで交互に飛び掛ってくるライオトルーパー。だがスネークの動きはレベルが違う。絶えず紙一重でアクセレイガンの刃をかわしながらライオトルーパーの一人に隙を見出し、受け流しつつ掌底で鳩尾を撃つ。それは確実に致命打になる衝撃だった。人間ならば。

 

「こいつら、既に、」

 

 スネークはライオトルーパーの動きも強靭さも人間のそれを超えている事に気づいた。

 

「オルフェノク、死ね!」

 

 カイザは投げつけた。銃でも剣でも無い、

 

 っっっっ!

 

 長田結花であった。カイザは片手で掴んでスネークに投げつけていた。

 

「結花っっ」

 

 受け止めるスネーク。それも草加の計算の内だった。草加が欲しかったのは、一瞬であってもいいスネークの制止状態。

 

「脚だ!」

 

 背後からアクセレイガンが太腿に、

 

「なんだ、これは」

 

 スネークの腿に深々と刺さるアクセレイガンは、スネークのオルフェノク因子を麻痺させる。それはオルフェノクにとって体組織の停止を意味する。脚が単なる重石となって、アスファルトに転倒する海堂。

 

「・・う・・・う」

 

 もがく長田結花も共に転倒、海堂は人間の像に戻りつつも、長田結花の頭を自分の体全体でかばう。

 

「我慢したんだな、いい子だ。かわいそうに。」

 

「やはりオルフェノク。低周波ブレードにはおまえもどうする事もできんようだな。河内、その女を引き離せ!」

 

「手を出すなっ!」

 

「ウザいんだよオマエ、」足で海堂の頬を踏み捻るカイザ。「伝説の男も形無しだな。これで確信した。もうオルフェノクなんぞ怖くはない。」

 

「く、草加、この女、なっ、頼むよ。」

 

 もがく長田結花の髪の毛を掴んで離さないライオトルーパーは、なにか堪え切れぬ感情の発露が言葉の端々に出ていた。

 

「河内、どうせ女は殺す。殺すんだからその前にどんな事をしても大差ない。構わんよ。」

 

「草加、その子に手を出すな、オレが許さん、」

 

「笑わせるな。オマエは、オマエが作ったカイザの手で葬られるんだ。」

 

「草加、分かっているのか、オマエが憎むモノはオルフェノクそのものではない。オルフェノクの衝動を生む人間の劣情、己の内部から目を逸らす現実逃避の裏返しだ!」

 

「虚しいな海堂直也。伝説の男が根も葉もない戯言とはな。」

 

 カイザブレイガンからブレードを伸ばす。逆手のまま両手を添え、今まさに海堂の首元を突き抜こうとしたところだった。

 

「待て、」

 

 カイザの背後から声。

 

「なんとなく気配は感じていたよ。木場。」

 

 それは、スーツにネクタイを締め、今やスマートブレインのトップに座る男、木場勇治であった。

 

「僕の仲間を、これ以上傷つけさせはしない!」

 

 

 

 長田結花はどうする事もできない自分と、なにかが飛び出てしまいそうな自分と戦っていた。

 巧の看病を海堂に任せて、取り合えず買い物に出た結花だった。その時点で既に跡をツケられていたらしい。

 

「この化け物め!」

 

 ライオトルーパーが二人、買い物袋で両手が塞がった長田結花に踊りかかった。その白い柔肌を切り裂かれ、訳も分からず力が抜けて倒れた長田結花は、なすがままに両手両脚を縛られ、買い物袋からこぼれたトマトと卵が潰れて交じり合う光景を眺めるくらいしか自由が効かなくなった。

 

「・・・・っぐ」

 

 もがきながらも引きずられ、最近毎朝挨拶をかわしてくれるようになったオバさんが動転した顔で凝視している姿が目に映り、この間ゴミ出しで怒られたお爺さんもまたなにも出来ず凝固する姿が見えた。生活がこの二人のライオトルーパーに破壊されていくのを感じながら、ついにクリーニング店の前で驚く海堂に、その哀れな姿を晒した。

 

「我慢したんだな、いい子だ。かわいそうに。」

 

 放り投げられ、海堂が優しく頭を撫でて、そしてその海堂が傷つけられた時、自分が発露して外皮が風船のようにはち切れてしまいそうになった。だが目で制止している海堂の意思が分かって、長田結花は我慢した。

 

「僕の仲間を、これ以上傷つけさせはしない!」

 

 再びライオトルーパーの一体に引きずられ、目に入った光景は、スーツ姿の木場勇治がクリーニング店の前で3列シートのリムジンから降りてきたところだった。

 

「なんとなく気配は感じていたよ。木場。」

 

 草加雅人の合図でライオトルーパーが一斉に銃を放ち、リムジンがたちまち大破する。爆風にたじろぐ勇治。

 

「君達はなにも分かっていない!君達のような行動がオルフェノクと人間の間にどれだけの溝をっ」

 

ready

 

 拘束弾発射、

 

「分かってないのはオマエだ木場。オルフェノクなんて最初から在りはしないんだってな。」

 

 カイザブレイガンから光の拘束を受ける勇治。動けない。

 

「草加ぁ」

 

 叫ぼうがもがこうがどうする事もできない勇治には、目の前で繰り広げられる惨劇を止めようがない。

 

 ぅ、

 

 長田結花の濃いピンクのセーターを、ブレードでナゾるように斬ると、ブラジャーと素肌が露出する。

 

「こ、こいつもうブラジャーなんかしてるぜ。そんなマセガキはお仕置きしてやんねえとなぁ。アア、ア」

 

 地面に仰け反る少女に圧し掛かるライオトルーパーの声に理性がない。押し上げる劣情のまま、長田結花の透き通る素肌と泣きじゃくる顔を魅入っている。ブレードでブラジャーとスカートのホックを斬り、紅いリボンがついた純白のパンティを、ライオトルーパーのファインダーに映し出す。

 

 見ないで・・・・

 

 長田結花はライオトルーパーから目を逸らす。だが逸らした先には勇治の視線があった。半年共に過ごした人間に、絶対見られたくない自分の姿がそこにあった。

 

「許さないぞぉ」勇治は絶叫した。

 

 拘束されたまま像を変化していく勇治。

 

「許さんのはこっちだ、オルフェノクめ。」

 

exceed charge

 

 だが既にカイザはブレイガンからブレードを伸ばしている。

 

 突き抜けるカイザ、

 

「・・・・・・っ」勇治の意識が断ち切れる。

 

「おまえもうっとおしいヤツだった。纏めて始末できて好都合だったよ。」

 

 勇治の肉体を透過するカイザ。勇治はそのまま路面標識に斜め向けに倒れ込んだ。

 

 ヒトは、怖い、

 

 長田結花は、こうも簡単に勇治に手をかけられるヒトに、自分の中のなにもかもが崩壊していくのを感じた。像が激しく変化する。

 

「・・・・ぁ・・・・ぁ」

 

「結花っ!ダメだ、君はダメだぁ」

 

 長田結花の人声ではもはやない絶叫に、海堂は危険を覚えずにいられなかった。身の危険ではない。社会的存在の危険である。終わりの始まりである。

 

 2枚の翼が擡げる、

 

「なんだこれは!」

 

「助けてくれ!」

 

「・・・・タイチョっ!」

 

 一人の少女から広がった翼は、光の刃となって無分別に周囲の全てを呑み込んだ。少女を押し倒していた河内は塵も残さず消え去り、ライオトルーパー3人は一瞬で灰になり、ガードレールや一戸建ての壁までもが消失した。

 

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 像が白鳥のそれに変化した長田結花の体には、もはや猿轡もロープも纏わり着いていない。空中をユラユラを浮かび上がり、目標だけを捉えている。

 

 ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 

 その叫びは既に野獣のそれであった。

 

 

 

 

 

 

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