2008-06-19 これは誰かを叩いて解決できる問題じゃなさそうですね。
物価高騰の意外な犯人
今の日本では消費者物価指数(CPI)ベースではせいぜい1%程度の物価上昇ですが、石油や穀物など生活に影響を与えやすい商品の価格が高騰しているため、消費者心理としては物価高を感じることが多くなっています。
さて、この物価高の「犯人」とされるのが、石油や穀物などの商品市場における投機的な取引ですが、実はそれ以外にも意外な犯人がいるようです。
G8では一言で言うと、為替はごまかしながらもドル高追認、原油価格やコモディティ価格については問題であるという認識を共有したものの原因や対策については合意形成できず、といったところでしょうか。
原油を例に取れば、価格高騰の原因の一部が需要増加に伴うものであることには異論がないでしょうが、ここまでの高騰の背景に需要をベースとしないお金が流れ込んでいることがあるのもまた疑いのないことでしょう。「需要をベースとしないお金」というのは必ずしも「投機資金」と言い切れない部分があります。最近話題になるのは、年金基金などの長期投資にもとづくインデックス買いなどです。彼らは個別のマーケットについて特別のノウハウを持ち合わせていないのですが、ともあれ「ひとつのアセットクラスとしてのコモディティー」を「リスクリターン」の観点で最適な「分散投資」を行うために利用しようとしています。有名なカルパースは資産の一定割合をコモディティーに投資すことを明言しています。この際彼らが使うのはETFだったりインデックスファンドだったりするのでしょう。
純粋な投資家としての立場で、リターンをあげることを要求されている立場では、期待リターンが高く他の資産との相関が低い(あるいはマイナスの)資産を入れることは理にかなっています。これによって一般的にはリスクを下げてリターンがあがる。つまり効率的フロンティアを引き上げることができる。
資源価格高騰と長期投資 厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)/ウェブリブログ
この厭債害債さんの記事によると、石油や穀物などの商品価格高騰の原因の一つとして、年金基金などの長期投資が流れ込んでいることがあるそうです。
年金基金の元となるのは、私たちが老後に備えて積み立てているお金であり、そのお金がより高いリターンを求めているのは、結局私たちがよりよい老後を送るために年金を確保するためですから、結局、私たちが老後の保障を求めていることが、物価高騰を招いているということになります。
さらに言えば、年金基金のような投資は長期投資ですから、これが商品市場に大量に流れ込むと、長期にわたって価格が高止まりすることになり、今批判を浴びている短期の投機資金よりも問題が大きいのではないかと、厭債害債さんは述べています。
しかし、本当にそのような行動が長い目で合理的かどうかは疑問が残るところです。
まず第一に、これまでも何度か取り上げてきたことですが、期待リターンはヒストリカルデータでしか測定していませんからおのずから限界があります。これはある意味ポートフォリオ理論の限界といってもいい。今は過去5年をとれば高いのは当然です。リスクだって一本調子であがっているから低く出るのも当然です。同じ意味で株や債券との逆相関だって当然強まります。直近のデータだけでとったポートフォリオ効果が相当インフレートされている可能性があります。
第二に個人や小規模ファンドが先物で暴れているうちはいいのですが、巨額の資金を抱えた年金が速いペースで市場に参入し始めると、市場が壊れます。現に起こっているのはそれではないかと。年金は長期投資という性格上、そしてインフレをヘッジしたいという性格上、インフレの原因となりうる商品先物については原則ロング(買いもち)をとります。短期でのトレーディングならまだしも長期の買いもちは要するにその商品(たとえば穀物)を買い占めているのと同じ効果を持ちます。本来は買いもちは年間の対象作物の年間生産可能量(の一定割合)にとどまらなければおかしいのですが、今のところそういう規制は働いていないのではないでしょうか?つまり根雪のようにつみあがるロングが需給をどんどんタイトにしてしまうということです。この意味で長期の投資家は短期の投機よりたちが悪いともいえます。
第三にファンドを通じて取引を行うことで、自分たちの行動が引き起こしている世界の痛みに鈍感になっている可能性があります。自分たちが直接マーケットに参加していればそれでも自分たちの行動が価格を引き上げているという実感からもう少し抑制的になれるかもしれませんが、ファンドに投資するだけであれば直接の感覚を味わわないまま全体のリターンがうまく言っていればスルーされてしまう可能性があります。
ところで、年金投資で今でも話題になるのは社会的責任投資(SRI)というテーマです。「庶民」の貴重なお金を預かる基金の運用者として、社会的に有益な企業に投資し、あまりよろしくない企業をはずすことで社会貢献を果たす。そしてそうすることで結果的にパフォーマンスもよくなる、というのがSRIの背後のアイデアと理解しています。しかし、商品先物に間接的に投資しそれが価格高騰を招き途上国の一部で食料が不足し暴動すらおきかねない、という状況で、彼らは最終的な説明責任に耐えられるのか?という疑問があります。
もっとも、所詮年金基金はお金さえ儲けてくれればいいという割り切った考えはありだと思います。それはそれでひとつの立場として尊重できます。ただ、基金自身が穀物価格高騰の原因を作る「社会的無責任」主体となったとき、自分自身その矛盾に耐えられるのでしょうか?
資源価格高騰と長期投資 厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)/ウェブリブログ
そして、商品相場がバブルとなっているため、このバブルが崩壊したとき、そこに流れ込んでいる資金も損害を被り、年金基金も大きな損を抱え込んでしまうのではないかと懸念しています。
さらにいえば、マーケットサイズを考えもしないで投資を行った結果、必要以上にインフレを高騰させ、株や債券を暴落させてしまったら全体としてのパフォーマンスにはマイナスになります。これは受益者に対するフィデューシャリー(善管注意義務)を果たしたことになるのでしょうか?年金受給者にとってインフレは敵ですが、彼らにとっては利益相反行為にならないでしょうか?
最後に、私の目には、このコモディティー相場は形を変えた証券化バブルにしかみえません。本来金融商品となりえなかった、あるいはなってはいけない対象(サブプライムも同じ)を「大規模に」金融商品化してしまうことで人為的に大きなお金の流れを作る。その過程で上前をはねる人々に生き残る余地を与えているのです。長期投資と称してコモディティーのインデックス投信を買い進む大手の年金は、世界の人々に与える影響と同時に、このことも考えておく必要があると思います。
もちろん価格が高騰することで新しい生産のインセンティブが沸くという面は否定できませんが、短期的には経済が壊れてしまうリスクをはらんでいるということだと思います。それは商品という現物がすぐに増産というわけに行かない代物だからです。数年前イラク戦争後原油がまだ50ドルだか60ドルだったころ、当時のグリンスパンFRB議長がNYのEconomic Clubでした講演がいまでも頭に残っています。原油価格高騰を肯定的にとらえそれが新たな原油生産技術の進歩を生み原油の安定供給と価格の安定に最終的には寄与すると述べておられました。しかし、実際はもはやそういうことを言っていられない水準まで来ています。意図的かどうか別として、現状のような極端な事態を招いた一因はグリンスパンのような「合理的経済人」にもあります。(まあ長いスパンでは・・・という言い訳はできるんでしょうけれど、それまでの過程が結構大きな問題なんですよね、いつも)。
原油とか穀物とかグローバルな規模で人間の生活に直接かかわるプロダクトについては、素直に市場の失敗を認めるべきではないか、と考えています。特に先物市場によってなされる価格形成メカニズムに関係者がもう少し切り込んだ分析と対策を行う必要があります。本当にここまで自由な市場が人間の厚生増大に貢献できているのかどうか、改めて考え直す時期に来ていると思っています。
ついでに言えば、排出権取引も同じ香りがしています・・・
資源価格高騰と長期投資 厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)/ウェブリブログ
結局、私たちの老後を保障するはずの年金が、積もり積もって巨額となり、それが商品市場に流れ込んでバブルを呼び、世界中に物価高騰や食糧不足を引き起こした挙げ句、バブルが崩壊して、年金そのものも目減りしてしまう、という話になってしまいます。
これを避けるためには、厭債害債さんも指摘しているように、社会的責任投資(SRI)の考え方に基づいて、商品市場への投資は規制するということが必要なのでしょう。今、世界では物価高騰に伴って、投機資金の規制論が叫ばれていますが、本当に必要なのは年金のような巨大基金の規制論なのかもしれませんね。
あと、最後に排出権取引について述べていますが、ここに年金のような巨大資金が流れ込んだ場合、二酸化炭素排出コストが非常に高くなり、原油高と同じように経済活動を低迷させてしまうのでしょうね。単純にエコロジーを唱えるだけでは見えてこない問題が、経済を絡めると見えてくるようです。
- 151 http://b.hatena.ne.jp/entrylist?sort=hot
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- 54 http://labs.ceek.jp/hbnews/
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- 41 http://asthenosphere.blog.so-net.ne.jp/2008-06-20
- 40 http://www.google.com/reader/view/

こちらこそ、良い話を教えていただきありがとうございます。
リーバーマン氏と言えば、共和党大統領候補のマケイン氏の盟友ですね。もしマケイン政権が誕生したら、政策課題に上がってくるかもしれませんね。
わかります。
日本はともかく、アメリカやヨーロッパではそういうサイクルも成立するかもしれませんね。
我々はみんな死んでいる。orz
Wikipedeiaの「先物取引」のページにも「実際の先物取引ではほとんどの場合、期限(納会日)までに反対売買をすることで差額を現金決済(差金決済)することが一般的で、実物によって清算されることは稀である」と書かれているように、先物取引で実際に穀物や原油を買うことはほとんどないようですね。w
>BUNTENさん
その考え方だと年金なんか無駄ということになったりして。orz
当時の平均寿命だと、そういう考え方も十分合理的だったのでしょうね。その分を貯蓄すれば、自分の子供に財産として残せたわけですし。
市場の失敗として認めるべきですね。
先物価格が上がっても、限月が短くなると、実際の需給で決まる現物価格に収斂していくはずですよね。
それとも、投資(投機)の影響で実際の消費需要量以上の量の原油現物が買われている??? だとすると、どこかに在庫が積みあがっているはずで、やっぱりいつかは暴落するということにならないんでしょうか。
世界的な「巨大基金の規制」はそう簡単にはできないと思いますし、かといって「日本版SWF」だけが自主規制するのも、パフォーマンス及びリスクヘッジの点から合理性に欠けます。やはり旨い話はそうないのでしょうか。
原材料現物市場の供給側が非弾力的なのでは。
需要そのものも増えているのかもしれないし、OPECのような生産者カルテルが需要に応えていないとか、農業国兼エネルギー輸入国みたいな数少ない国家内部においてエネルギー穀物変換をやってるとか、あるいは石油(穀物)メジャー同士の取引とか。
収斂するはず、あるいは価格が市場によって調整されるはず、なのにそうならないから市場が機能不全というのはトートロジーっぽいんで、私もやなカンジなコメントですけど...
本来ならグリーンスパンが言うように、価格高が生産技術への投資を促進し、生産性を向上させる方向に行くべきなのでしょうが、その経路が何らかの理由で阻害されているか、そうなるためにはもっと時間が必要だと言うことなのでしょうね。
>luke_randomwalkerさん
先物市場が高値となると言うことは、近い将来確実に高値で買い取ってくれる相手がいることが期待できるわけですから、売り手も価格をつり上げるようになり、現物市場も高値になるのだと思います。
>f402rr408さん
確かにSWFもまた、商品市場の価格をつり上げる要因として考えられるでしょうね。kumakuma1967さんがトラバ先でオイルマネーを要因としてあげておられますが、オイルマネーは湾岸諸国のSWFとして運用されるわけですから、その影響もあると思います。
>べっちゃんさん
その場合、副作用として数千万から数億人レベルの飢餓が発生することになりますね。古代(数十年前にもありましたが)の中国じゃあるまいし、そんな光景は見たくないです。w
需要も供給も非弾力的なんだろうと思います。でも、需給で決まっているなら「先物が高いから現物も高い」ということにはならないはずです。
>Baatarismさん
なるほど。産油国のカルテルが価格を吊り上げていると。たしかに供給は競争的じゃないですからね。
いままでは、必ずカルテルを破る国が現われて(他が供給を絞っている時に自分だけ高価格でたくさんすれば儲かるから)原油価格は下がっていたのですが、今回はなぜか成功しているのかもしれませんね。
しかし、今回だけ成功してるのはなぜなんでしょうね。先高感がある、というだけの条件なんでしょうか。
必要なのは、オイルをベースにした経済活動には縮小してもらって、技術開発に投資を行い代替エネルギーが伸びる事で、経済活動を維持するという具体的な方向づけでしょ。
だいたい、温暖化対策がもっと早くからなされて、炭素税の導入を適切にやっていれば、ブッシュのエタノール政策のようなトンデモをのさばらせる事もなく、もっと早い時点で代替エネルギー開発のインセンティブが高まり、今頃オイルがこんな価格になる事もなかったと思いますがね。
元々、今回は産油国がカルテルで価格をつり上げたのではなく、中国やインドなどの需要増が価格を引き上げたのでしょうね。原油高にも関わらず石油の生産増が進まないのも、サウジのような例外を除けば生産余力が少ないのでしょう。あと、今後もし石油の価格が下がったら、という懸念もあるのだと思います。
>ruletheworldさん
人間というのは、足下に火が付かないとなかなか動き出さない生き物だということでしょうね。
温暖化対策としては、確かに炭素税が一番筋の良い政策だと思うのですが、反発も一番強い政策になってしまってるのが…orz
ただ、現物を扱わなくて済む先物の方が、投機には使いやすいでしょうね。
まあ石油の値段が上昇しているので、本当の意味での省エネにつながることがない似非・テクノロジーは近いうちに淘汰されると私は楽観しています。
二酸化炭素温暖化説や石油枯渇が誤りだったとしても、省エネすることによって国富の流出が防げることには違いありませんから。
穀物を使ったバイオエタノールの生産は、生産したエタノールと同等のエネルギーを使うと言いますからねえ。
まあ、省エネは良いことなので、効果がある策は実行すべきでしょうね。サマータイムやコンビニの深夜営業禁止は疑問ですが。
>touhou_huhaiさん
確かに、市場が小さくて、価格を動かしやすかったというのもあるでしょうね。
そもそも一般人が石油の枯渇を認識したのは早くても第1次オイルショックの時だし、まして「温暖化」なんて欧州はともかく日本でも冷戦終了後、米国なんかやっと去年の「不都合な真実」ででしょ。人類にしたら早くできたほうじゃね?むしろ手があったとすれば、オイルショック等に負けずにどんどんエネルギー使って宇宙開発進めて、他の星から資源を収奪してくることしかなかったんじゃないかなぁ。そしたらたぶん今頃移住ロケットの最終便に最後の燃料を積み込んでるところだったんだろうけどw
「だから、工学をやるというのはどういうことかというと、社会というシステムに対して、我の手に入れたる技術をどのように投下して、どのようにして人々が安心して、地球の人類の総人口を100億から30億に減らすかという工学を達成するという目標を、今、皆さん方は否が応でも突きつけられているんです。」
http://ascii.jp/elem/000/000/142/142837/index-3.html
エコロや健康を最初に提唱したのがナチスであったことから喪推測できますが、エコロや健康というのは非科学的な主張が大手を振るってまかり通っているんですよね・・・
確かに温暖化が世界的な認識になってから、まだ20年くらいですね。それまでは寒冷化すると言っていたわけだし。他の公害に比べれば、国際的な対策は早いほうでしょうね。
>べっちゃんさん
科学的な主張と非科学的な主張を区別するのが難しい分野ですよね。温暖化説についても反論はいろいろ出てますしねえ。
>prasinosさん
キャップ&トレード型の排出権取引は、金本位制に例えられるかもしれませんね。キャップ&トレード型の排出権取引は排出量一定なので、何かCO2削減の技術革新が起こって排出権が増えない限りは、排出権の需要が増えると排出権デフレが起こるのでしょうが、これは金の産出量が増えない限りデフレになっていく金本位制に例えられると思います。
炭素税は、価格一定で政府が無限に排出権を販売するのと同じ事になるのでしょうね。こっちは管理通貨制度に例えられるのかもしれません。炭素税率が中央銀行の貸し出し金利に対応するわけですね。