2011-11-23
続・なぜTPP反対論が盛り上がるのか
前回のエントリーには非常に多くのご意見をいただき、ありがとうございました。長い間ブログをやっていますが、ここまでコメントが多かったのは初めてです。
さすがにここまで多いと一つ一つに返事をする余裕はないのですが、通して読んでみて僕が思ったことを書いてみたいと思います。皆さんのコメントに対する直接の返答にはなっていないと思いますが、その点はご容赦下さい。
まず、リカードの比較生産費説についてですが、リカードは19世紀初めに活躍した経済学者です。
前回のエントリーやコメント欄で問題となった労働者移転の問題ですが、これは現代の経済学で言えば不完全雇用の問題になると思います。不完全雇用というのは、仕事を選ばずに働く意志があるにも関わらず、仕事につけず失業してしまう人が存在する状態を指した言葉です。これに対して、仕事を選ばなければ何らかの職が得られる状況を完全雇用と言います。リカードの比較生産費説では、比較劣位な産業から比較優位な産業へ労働力が移転できることが前提となっているので、これは完全雇用の状態を仮定していると言えます。
しかし、経済学の歴史を見ると、不完全雇用の問題が大きくなったのは20世紀に入ってから、その中でも特に1930年代の世界大恐慌の時代になってからであり、リカードの時代の約100年後のことでした。リカードは不完全雇用の問題があまり意識されていなかった時代の経済学者ですから、彼が考えた理論がスムーズな労働者移転を前提としていてもおかしくはないでしょう。
ただ、大恐慌以降の経済学では不完全雇用最大の問題の一つとなっていますから、現代の経済にリカードの比較生産費説を適用する時は、労働者移転の問題を考慮する必要があると思います。
また、需要不足/デフレの時にTPP参加のような供給側を効率化する政策を取るべきではないという意見もありました。これについては、僕は需要不足/デフレについては、金融政策や財政政策で対処すべきであり、TPPはそれとは別に将来的な生産性向上策として行うべきだと考えています。*1
この点については、片岡剛士氏が「政策割り当てに関するティンバーゲンの定理」という考え方を使って説明しています。簡単に言えば、別々の課題には、それぞれの課題に対応した別の政策を割り当てるべきという考え方で、この場合は、短期的な需要不足/デフレについては金融政策や財政政策、長期的な経済成長のためには生産性の向上策(その中にTPPが目指す貿易自由化や国際的な規制緩和も含まれます)を割り当てるという考え方です。
■必要な「政策割り当て」の発想
TPPの貿易自由化の側面についてその効果をまとめると、関税や非関税障壁といった、経済主体の効率的な行動に歪みをもたらしている要因を排除することで、経済主体のさらなる効率的な行動を促し、それによって生産性を高めていくこと、といえるでしょう。
TPPを含む貿易自由化とデフレや円高といったトピックを混同している議論が見られますが、両者は政策目的という視点で考えれば別のものです。
TPPを含む貿易自由化は、資源配分の効率性を高めることで生産性を高めることが政策の目的です。デフレ対策の目的は、デフレを脱し、一般物価を安定的なインフレに高め、総需要を刺激することです。そしてデフレ対策は円高を是正する効果ももっています。ここから明らかなのは貿易自由化を進めることで、デフレから脱却することや円高を是正する可能性は低いということです。デフレ対策を進めることで、円高を是正することによる輸出促進効果はあるとはいえ、デフレは貿易自由化で期待される相対価格の歪み是正とは異なる問題です。
政策割り当てに関するティンバーゲンの定理(生産性向上にはTPP、デフレ・円高には金融緩和策というかたちで政策目的に応じた政策手段を講じるというものです)を指摘するまでもなく、影響を与える経路や対象は異なるわけですから、政策にともなう時間的なラグを考慮の上で両方進めることが必要でしょう。
デフレ対策すら行われない(うまくいかない)のだから、貿易自由化に資する政策を行っても意味はないという議論はその通りかもしれません。しかしながら、日本が抱える現状は、経済停滞が長期化することで潜在的な成長力も低下しつつあることにあり、かつ成長力を高める芽がどんどん失われてきている状況とも言えるのではないでしょうか。
デフレ対策をやらないのであれば短期的には何をやっても意味はないというのは、貿易自由化の効果が大きくはなく、かつ長期に渡りじわじわと効いていくと考えられることからも正しいでしょう。しかし各種政策の効果のなかで貿易自由化は数少ない、効果を数値的かつ明瞭に明らかにできる政策のひとつでもあるといえます。デフレから脱却できなければ何を行っても無駄というのではなく、デフレ脱却と貿易自由化の相乗効果から緩やかなインフレをともないながら成長力(生産性)の強化にもコミットすることが、むしろ必要ではないでしょうか。
コメント欄には、TPPは貿易や農業だけの問題ではないという意見も数多く寄せられました。ざっと思いつくだけでも、医療、保険、食品安全、公共事業、ISDS条項、労働規制、労働者流入、環境規制といった問題が指摘されています。
これについても、先ほどの片岡剛士氏がQ&A形式で詳しい説明をしています。彼は私と同じくTPP賛成派なので、賛成派の立場に基づく説明になっていますが、政府の説明よりは筋が通った内容になっていると思います。
Q. TPPに参加することで、わが国の社会保障制度が犯されるのか?
A. TPPに参加することでわが国の社会保障制度が犯されることになるという可能性はかなり低いと考えられます。まず理由として、WTOやTPP交渉参加国が過去締結したFTAにおいても、一国の社会保障制度に踏み込んだ事例はありません。そして経済統合の度合いがTPPよりも高いEUでも社会保障制度を共通化するという試みはありません。各国の専管事項です。これらの点からも反対論として指摘される国民皆保険制度が犯されるのではないかという懸念は、ほぼありえないと考えられます。
Q. TPPに参加することで、混合診療の全面解禁や公的医療保険の安全性低下、株式会社の医療機関経営の参入を通じた患者の不利益拡大、医師不足の拡大・地域医療の崩壊といった現象が生じるのか?
A. 医療・保険についてTPPで話題になるのは医療・保険サービス業の自由化です。サービス協定で約束されるのは、一国の国内規制を前提とした最恵国待遇や内外無差別原則にもとづく約束です。よって自由化の約束により日本の医療制度が変更されるとは考えにくいといえるでしょう。
医療制度の国内規制そのものを対象にするのであれば、TPPに医療章が別途設けられることになるでしょう。ただし現状の情報からはそうはなっていません。もちろん、TPPを契機として、(条項として明記されていないにも関わらず)指摘されている変化が生じる可能性はあります。その場合はわが国全体にとり不利益である規制緩和には反対することが必要ですが、だからといって懸念があるからTPPに反対というのは違うのではないでしょうか。
Q. TPPに参加することで、遺伝子組み換え食品につき、日本の食品安全規制が米国基準に引き下げられるのか?
A. SPS協定、TBT・ガット協定にもとづいて遺伝子組み換え食品の調和が求められているのは、安全性が確認されていない遺伝子組み換え食品を流通させてもよいのかという点についてではなく、(安全性が確認されていない遺伝子組み換え食品の流通は禁止することを前提に)遺伝子組み換え食品の表示の義務づけをどの段階までの食品にするのかという点についてです。
米国は遺伝子組み換え食品の表示をするのはコストがかかるという立場ですが、日本は遺伝子組み換え食品に遺伝子組み換え大豆等のDNAが残存している場合には表記をするというもの、EUはDNAが残存していないしょうゆ等の製品ついても表記すべきというものです。日本側の主張については、APECでも米国の主張は退けられており、TPP交渉参加国の豪州・NZも反対しています。少なくともTPPに参加することで即、遺伝子組み換え食品について日本の食品安全規制が米国基準に引き下げられることはないと言えます。
Q. TPPに参加することで、政府調達につき、日本の公共事業が海外事業者に席巻されるのか?
A. 現状、TPP参加国と比較したわが国の政府調達の自由化度合いは進んでいます。たとえばアメリカは米韓FTAで地方政府機関を政府調達の範囲から除外していますが、日本はWTOが定める政府調達協定(GPA)のなかで、米国以上の開放をすでに実現しています。TPPによって政府調達市場の自由化が促進されるのは、わが国ではなく、米国をはじめとするTPP交渉国です。加えてバイアメリカン条項の存在から一方的に日本が不利益を被るという指摘もありますが、これは先の多国間協定、さらに協定締結国は等しく同じ条件の自由化にコミットするという点からも誤りです。
Q. TPPに参加することで、わが国政府が外国企業から訴えられるケースが多くなるのか?
A. ISDS条項という紛争処理条項にもとづいて、TPP締結によってわが国政府が外国企業から訴えられるというケースが多くなるという批判が展開されることがあります。
まずすでにわが国は25を超える投資協定を結んでいますが、わが国が訴えられた例は過去にありません。TPPを締結することで過去にはない状況が生じるというのは、可能性としてはありうるものの批判としては弱いでしょう。TPP、とくに米国企業が入ることでわが国が訴えられるという指摘と、企業に対する具体的な措置が恣意的・不透明もしくは差別的であったために国が訴えられたという事例との差を考慮すべきではないでしょうか。
TPPの議論においては、ISDS条項を入れることにつき、豪州は反対の姿勢を示しているといわれています。協定ですので、日本企業が訴えられる可能性のみならず、他国企業も訴えられる可能性があるのですが、ISDSにもとづく懸念は自国のデメリットを過度に強調しているようにも見受けられます。
Q. TPPに参加することで、労働基準の緩和(ダウングレード)が生じるのか?
A. 実態は寧ろ逆で、ソーシャルダンピング(低賃金・児童労働といった劣悪な労働環境を利用して企業がコスト削減を行い競争力を高める事)の懸念を米国は表明しています。TPPに労働・環境章が入っているのは、労働の規制緩和ではなく、途上国の労働規制強化を求めていることに留意すべきです。
同様の批判として、単純労働者の流入が進むという議論ありますが、過去単純労働者の国際的な移動に反対してきたのは米国です。医師資格の相互承認についても途上国まで参加するTPPで、資格統一を図ろうという議論が出る可能性はかぎりなく低いでしょう。仮に医師資格が統一されるとして、米国医師が日本で働きたいと考える可能性も低いのではないでしょうか。というのは、わが国の労働環境は米国と比較してよいとはいえないと考えられるためです。
Q. TPPに参加することで、わが国の環境基準は低下するのか?
A. 環境についてもわが国はすでにTPP協定参加国と比較して高いレベルの環境規制にコミットしており、米国が求めているのは、環境規制の緩和ではなく規制強化であることを念頭におくべきでしょう。なお環境章そのものについて途上国は反対しているという情報もあります。
ただ、これらの片岡氏の説明を見ると「危険なことが起こる可能性が低いから大丈夫だ」という結論が多いように思います。それに対してTPP反対派の方の意見を見ていると「危険な可能性があるのならやめよう」という考え方に基づいているように思うのです。
これに似た考え方をどこかで聞いたことがあるなと思って、しばらく考えてみたところ、思い至ったのが原発事故後の放射能の問題でした。環境や食品に含まれる放射能(放射線や放射性物質)の基準は、あるレベル以下の数値ならば健康に問題を与える可能性は低いという考え方で決められていますが、これに対してわずかでも放射能があるのは問題だという考え方をする人もいます。わずかでも放射性物質が含まれている可能性がある食品は避けるという人もいますし、できるだけ原発から離れた場所に逃げようとして、沖縄まで行った人もいます。*2
このように、わずかな悪影響も許容できない考え方を差してゼロリスク信仰という言葉がありますが、TPP反対論についても、僕は同じようなゼロリスク信仰を感じるのです。
放射能の問題についてゼロリスク信仰が生まれた理由は、政府や専門家の出す情報に対する不信でしょう。それに加えて、ネットなどでも様々な情報が流されて、どれが正しいのか分からない状況になってしまったので、元々放射能の問題に敏感だった人が、自分が一番納得できる情報を選んだ結果が、ゼロリスク信仰になったと思います。
政府や専門家の出す情報に対する不信や、ネットなどでも様々な情報が流されてどれが正しいのか分からない状況というのは、TPPでも同じだと思います。だからやはり自分が一番納得できる情報を選んだ結果、同じようなゼロリスク信仰になる人はいるでしょう。
僕はTPPは賛成ですが、デフレや増税の問題では徹底的に政府を批判しているので、政府への不信は非常に強いです。僕はたまたま以前から経済学を学んでいて、片岡氏のような経済学の専門家に対する信頼があったので、TPPでは経済学的な考え方に基づいたそのような意見を信頼しています。ただ、最近になってTPPの話を聞いた人が、政府や専門家に不信を抱いてしまうのも理解できます。
しかし、残念ながら、この世の中であらゆるリスクを避けることはできません。原発から遠く離れた場所に移住することが、仕事や生活の上で新たなリスクを生むこともありますし、放射性物質の含まれた食品を避けようとしても、食品の選択肢が狭まり、生活の質を落としてしまうリスクがあります。場合によっては科学的に見て効果が無い、怪しい放射能対策にはまってしまう可能性もあります。
同じように、TPPに参加しなくても、それはそれで新たなリスクがあると思います。外交関係の悪化や企業の競争力低下もその一つでしょう。また、他国がTPPに参加して日本だけ参加しない状況だと、日本だけが貿易自由化や規制緩和による長期的な生産性向上を得られないことになります。この差は1年や2年では小さな物ですが、数十年経つと大きな差になります。これは大きなリスクでしょう。
だから、単純にTPPに反対するだけでは、リスクを避けようとして別のリスクを呼び込んでしまうことになると思います。どうもTPP反対論を見ていると、目立つけどあまり可能性が高くないリスクを避けようとして、目立たないけどより可能性の大きなリスクを呼び込んでいるように思えます。それが僕が感じたTPP反対論の問題点です。
- 230 http://search.yahoo.co.jp/search?p=tpp 反対 理由&rs=1&rs=4&tid=top_ga1_sa&ei=UTF-8&oq=tpp&fr=top_ga1_sa
- 140 http://pipes.yahoo.com/pipes/pipe.info?_id=3eebace824bb60a10f13c841c2c64478
- 139 http://b.hatena.ne.jp/hotentry/economics
- 137 http://b.hatena.ne.jp/
- 114 http://www.hatena.ne.jp/
- 106 http://pipes.yahoo.com/pipes/pipe.info?_id=c9113ed44cd419a8abf321af5421a967
- 81 http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=消費税増税 税収減&source=web&cd=2&ved=0CCwQFjAB&url=http://d.hatena.ne.jp/Baatarism/20100703/1278169815&ei=PbHMTq-LCcyWmQX0rrXFDQ&usg=AFQj
- 56 http://www.ig.gmodules.com/gadgets/ifr?exp_rpc_js=1&exp_track_js=1&url=http://choichoi.sakura.ne.jp/hatena_bookmark.xml&container=ig&view=default&lang=ja&country=JP&sanitize=0&v=186b9ad18ededd42&parent=http://www.google.co.jp&libs=core:core.io:cor
- 55 http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=tpp反対理由&source=web&cd=1&ved=0CCgQFjAA&url=http://d.hatena.ne.jp/Baatarism/20111105/1320478010&ei=o-TMTuytPMugmQWOrYzNDQ&usg=AFQjCNFmbyOX1tUe5msJSOrtK3fMXBBVGg
- 49 http://www.sleipnirstart.com/


日本のメーカーの中には高級品シフトで比較優位を保とうとしたところも多いけれど環境激変(世界不況)で苦境に立っていたりする。
たとえば比較劣位な稲作を放棄して高付加価値農業を目指したとして、環境が激変した場合どうなるか?
比較優位で極端な話モノカルチャーになった国民経済があったとして、環境が変わって(それだけで悲惨なことになると思いますが)労働者移転が必要になったとき、そこから国境を越えて脱出することはまあ、多くの人には実質的に不可能ですよね?
わかりやすい例で言えば、老人。世界が統一されて世界規模の福祉が行われるというなら別ですが。
国内で比較優位産業を興して移ろうにも、上記仮定の下では摩擦的失業が相当適度の悲惨を生むことになる。
長期的には調整されるとしても、長期では皆死んでるじゃないですか?
統計的な閾値未満の放射能汚染は、統計的に有意ではない健康被害を及ぼすでしょう。(たとえば遺伝子損傷被害には遺伝的あるいは後天的な個人差があると思いますが。閾値説はこの辺を考慮してない)
一方、98年以降の自殺率の増加は統計的に有意ですし、分けて考えるでいいんでしょうかね? 景気刺激策と将来的な交易条件を。
セットで実施できる確証が必要では無いでしょうか。
片岡氏の論理のほころびは「デフレ脱却と貿易自由化の相乗効果から緩やかなインフレをともないながら成長力(生産性)の強化にもコミットすること」に表れています。文中の「相乗効果」は「デフレ脱却」には掛からず、「成長力(生産性)強化」に微妙に関わるのみです。
ここで微妙にと言うのは、今まで日本では構造改革主義の下に供給強化が為されて来たにも関わらず名目成長が出来なかったからです。これは実際には構造要因が経済全体に与える影響は少なく、金融政策の影響が大きいという事をしめしています。
また長期停滞に伴う付随事象として供給側も弱化するが、長期停滞はあくまでデフレ(貨幣量からくる需要不足)が原因です。
そして比較優位が完全雇用を前提にするなら、デフレ脱却をして完全雇用に近づけてから更なる自由化をすべきという手順の合理性は否定できないはずです。
次にTPP反対にはリスクゼロ意識があるのではというBaatarismさんの意見には多少の違和感を覚えます。
新たな事象に対してはリスクが不透明で予防的にリスクゼロを求めるという事よりも、家計貯蓄率低下に表れる生活の苦しさが、アメリカに対する警戒心を余計に呼び起こしていると考えるのがより合理的です。
これはかつてアメリカで日本警戒論が起きた事情と対応します。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4520.html
大変わかりやすい解説ありがとうございました。特にTPPの反対についてゼロリスク信仰があるのではないかという意見について非常に納得しました。というのも、「リスクに背を向ける日本人」(山岸俊男著)という本を少し読んでいたのですが、
「日本社会は世界でもリスクの大きい社会で、日本人はリスク回避傾向が強い」云々ということが書いてあったのを思い出して、なるほどTPP反対も日本人のそのようなリスクを回避しようとする力が働いてるのかと改めてそう思いました。放射能の他にBSE対策としての米牛肉輸入規制の厳格さや医薬の承認の遅さ等もそういったところがあるのかもしれませんね。
確かに比較優位説に対しては、モノカルチャーを正当化するという批判があります。モノカルチャー経済は、環境が激変したときに大きな弊害を生むというのもその通りでしょう。
この点も、リカードの時代にはまだ十分考慮されていなかった問題でしょう。だから、この理論を単独で使うのはやや危険な面もあり、マクロ経済学など、その後発展した経済学と合わせて使う方が良いと思います。
>magunajioさん
確かに手順としては、デフレ脱却が先で、自由化が後というのが正しいと思います。
ただ、TPPによる自由化までには、まだ時間がかかるでしょう。交渉に参加する国が増え続けていますからまだ交渉に時間がかかりますし、交渉が妥結したとしても、自由化までにはある程度の時間をおいて激変緩和措置が取られるのが、この手の話の通例です。
それに対して、金融政策によるデフレ脱却は素早く(その気になれば1〜2年くらい)でできますから、今、TPPに参加しても、自由化の前にデフレ脱却をする時間はあると思います。ただ、今の野田政権がそういう方針になっていないのは、確かに問題なのですが。
生活の苦しさがアメリカに対する警戒心を呼び起こしているというのは、その通りだと思います。歴史的に見ても、ナショナリズムや他国に対する警戒(これがさらに進むと排外主義になることもあります)は、景気が低迷しているときに起こっています。その最悪の事例が、世界大恐慌から第二次世界大戦に至った歴史でしょう。
ただ、今回のTPPの議論は、それだけで説明できるのかという気持ちが僕にはあります。やはり政府や専門家に対する不信や情報の混乱といった3.11以降に顕著になった傾向が、今回のTPPの問題に大きな影響を与えていると思うのです。TPPの話は3.11以前にすでに出ていて、現在と同じような反対論もすでにあったのですが、その頃にはあまり大きな問題にはなっていませんでした。もし3.11がなければ、農協や医師会といった団体のTPP反対はあったとしても、ここまで一般の人達が猛反対する現象は起こっていなかったと思うのです。
僕はその理由が一般の人達がリスクに過敏になったことだと考えていますが、この点についてはより合理的な説明ができるかもしれませんね。僕の考えに違和感を持たれるのなら、自分で考えてみると良いと思います。
>ど素人@お勉強中さん
山岸俊男氏の本は、僕も大体読んでます。
去年、書いた記事の中に、山岸俊男氏の研究を取り上げたものもありました。
この時は、日本だけが自由競争と所得再分配の双方を嫌うのはなぜかという疑問を、山岸氏の研究を元にして考えてみるという内容でした。この記事も大きな反響を呼びましたね。
なぜ日本人は自由競争も所得再分配も嫌うのか?
http://d.hatena.ne.jp/Baatarism/20100522/1274544444
三橋氏の指摘
アメリカの経済学者アラン・トネルソン氏は、グローバリズムや自由貿易に付きまとう「不可避的問題」として、「底辺への競争」を提起している。
アラン・トネルソン氏は、無制限なグローバリズムの追及や自由貿易は、要素価格の平準化を呼び込み、付加価値による競争を無意味化すると述べている。36分の1の国民所得の労働者と真っ向から競合させられては、「付加価値で勝て!」も何も、あったものではない。
結果、諸外国の労働者の実質的な賃金水準は、「世界最低水準」に収斂化することで安定化すると、トネルソン氏は述べている。すなわち、グローバル市場で国民所得が低い国々とまともに戦うと、日本国民の実質賃金は、最終的には世界最低水準に落ち込むことになる。これこそが「底辺への競争」である。
英国の政治思想史学者のジョン・グレイ氏は、グローバリズムの問題として「新しいグレシャムの法則」を提唱している。
「自由貿易に対する規制の経済的不効率性はほとんど自明なことなので、規制なきグローバル自由貿易を批判する者はだれでも、すぐに経済的無知という罪を着せられてしまう。しかし、規制なきグローバル自由貿易への経済的観点からの賛成論は社会の現実から大きくかけ離れた抽象論になる。グローバル自由貿易の制約が生産性を向上させないことは真実である。しかし、社会的混乱と人間的悲惨というコストを払って達成される生産性の極大化とは、常軌を逸した危険な社会理念である」と、グレイ氏は述べている。
企業がグローバル市場において勝利を求める場合、最終的には「生産性の極大化」に頼るしかない。そして、企業のエゴイスティックな生産性の極大化とは、主に以下の手法に依らなければ達成し得ないのである。
◆ムダを徹底的に省く
◆非効率な雇用を切り捨てる
◆労賃を減らす
◆生産工場を海外に移転する
◆国内を徹底的に寡占市場化し、キャッシュマシーン化する
上記全てを実現すれば、企業の生産性は極大化するだろう。だが、果たしてそれが「国民経済」にとって健全と言えるのだろうか。
個人的には、日本が自由貿易で繁栄しようが、保護主義で繁栄しようが、どちらであっても構わない。それにしても、日経新聞の社説のように、「自由貿易を目指して国を開くのが、いま日本が進むべき道であるはずだ」と主張するのであれば、せめてその数値的根拠だけでも示して欲しいと思うわけである。
〜ここまで引用〜
私は波風の立たない平凡な暮らしで、幸せな人生をおくれれば良いと思っています。ゼロリスク信仰と呼んで頂いてもかまいません。
TPP推進の方々は事前によく情報収集されているのかも知れませんが、一般人には寝耳に水、唐突に物事が進んで、目の前に現れたときにはもう手遅れのような印象があります。
それはまるで、検診で進行の早い癌が見つかったとか、秋葉原のような通り魔事件に遭遇してしまったかのような衝撃です。
私の印象としては、TPP推進=理想論・抽象論。TPP反対=具体論。
TPP反対派の懸念を払拭する具体論がなければ、話しあっても平行線のままです。
結局TPPのメリットって何なのでしょうか?
グローバル化によって世界中の労働者の賃金が同じ水準になってしまうという意見はよく聞きますが、僕は必ずしもそうではないと考えています。
企業の生産性は、労働生産性だけではなく資本生産性にも依存します。また、さらに技術革新、社会的なルールや慣習などにも依存します(全要素生産性(TFP)と呼ばれるものです)。一般的にイノベーションと言われるものは、このような要素の革新です。
また、ポール・クルーグマンはノーベル賞を受賞した業績である新貿易理論で、生産の規模が大きくなれば生産性が上昇することや、産業が特定の地域に集積することを説明しています。すでに産業が発達した日本は、このような規模や集積のメリットを活かして、生産性を維持しているとも考えられます。
グローバル化によって世界中の労働者の賃金が同じ水準になってしまうという意見は、それらの点を無視してると思います。
ただ、円高で日本人の国際的に見た賃金があまりにも上昇してしまうと、それらのメリットを打ち消してしまうので、やはり産業の海外移転が進むでしょう。
秋の麒麟草さんの指摘している現象は確かにあると思いますが、国際経済にはそれを阻む現象も存在していて、せめぎ合っているのではないかと思います。
放射線の話を例に引いておられますが、放射線の影響は自然界の法則に属します。しっかりしたデータと理論があれば、かなりの予言性があるのですよ。
それに対して、TPPは人同士の交渉の話です。合理的な結論に落ち着くという保証すらありません。確率的な話を混ぜ込みながら根拠がない。俺の見立てでは、という話が並んでるだけです。
そうなると、シナリオが実現する確率ではなく影響の大小で判断するほかない。政府試算にある国全体で10年で何兆かという、現在の経済規模から見て鼻糞のような利益のために、国民皆保険を崩すリスクを増やすのは、どうみても合理的ではない。
余談ですが、自由貿易論者に根本的に不信感を持っているのは、消費税に対する姿勢です。消費税は国内の取引全てに関税をかけるも同然なので、自由貿易論者なら死に物狂いで反論してもおかしくないはずです。でも何故かスルー。所詮、TPP賛成も消費税容認もポジショントークに過ぎないのだなと。
ご紹介のQ and Aの筋の悪さは情報の古さです。過去の事例ではどうとか。じゃあ、なんでアメリカは“例外ナシ”をこれほどまでに連呼するの?以前と同じなら、何故画期性をアピールするの?
連中はある意味フェアですよ。後からごちゃごちゃ言わさないために。
件のQ and Aの先生はよく勉強してるんでしょう。歴史とか経済は。でも交渉ごとは素人だ。それが俺の見立て(笑)
TPPについても過去の貿易自由化交渉や各国の状況から、「これはありえないだろう」という事は言えると思いますよ。人同士の交渉の話だからといって、全てが一方的に日本に不利になると考えるのも、ちょっとおかしいと思うのですが。
あと、消費税増税については、僕も片岡氏も絶対反対の立場です。その点については野田政権や財務省とは激しく対立しています。その点だけはご了承下さい。
横から入ってすみません。
ちょっと気になりましたので質問させて下さい。
>放射線の話を例に引いておられますが、放射線の影響は自然界の法則に属します。しっかりしたデータと理論があれば、かなりの予言性があるのですよ。
SPEEDIとかあと「放射能 ホットスポット」で検索してみると確かにわかりますけど・・・それでも原発事故がいつ起こるのかはわからないし、放射線についてもどのくらいなら影響がないのか諸説合って未だによくわからない状態ではないですか?天気予報ほどもわからないから未だに放射能に対して人によっては過度な対策をしてしまうのうではないでしょうか?
>それに対して、TPPは人同士の交渉の話です。合理的な結論に落ち着くという保証すらありません。確率的な話を混ぜ込みながら根拠がない。俺の見立てでは、という話が並んでるだけです。
交渉の話しだから合理的な結論に落ち着く保証がないといっていたら、外交交渉など何もできないのではないでしょうか?
民主が馬鹿だから政府が馬鹿だから交渉なんて云々・・というにしても、優秀な官僚たちが力になると思いますよ。交渉の駆け引きや状況分析、交渉技術等は学んでいるはずですし、アメリカ以外の国々が複数あるので、ゲーム理論を用いるまでもなくアメリカ以外の国々と組んで交渉していけば、ブログ主さんのおっしゃるとおり日本に一方的に不利になるとは思えないんですが。。。そんなうまいこと交渉できないぞというなら前述通りどんな外交交渉も出来ないと思います。
>国民皆保険を崩すリスクを増やす
これがちょっとよくわかりません。自分の頭が悪いのか・・・orz
例えばこんな記事がありましたけど
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/111201/fnc11120102530003-n3.htm
どのような状態になったら国民皆保険が崩壊すると言えるのでしょうか?
横から入って不躾とは思いますが、お暇があればお答えいただけると幸いです。
ですがTPPはどうでしょうか。
日本にはいまだに議席がありませんがルール作りは始まっています。それどころか議論を加速させて日本が議席を得る前に条約を決めることを正式に公表しましたね。
その内容は明らかにされていませんが、協賛している面々を見ればある程度推測できます。http://gigazine.net/news/20111104_tpp_mastermind/
これらの面々がどのようなことを望んでいるかは言うまでもありません。問題は日本の対抗手段ですが、議席はなく発言権もない現状ではどうしようもありませんね。
11月に野田総理が参加意志を表明しましたが、だからといって日本に何かメリットがあったかといえば何一つありません。勘違いしてる人がいるかもしれないので断っておきますが、参加の対価で日本の見方なんてしてくれません。むしろいいカモが来たと言わんばかり状況です(自動車市場への干渉、TPP議論加速)。あとはTPPで日本の市場は全て開放されるという発言、あれは表向き訂正されましたが公式には撤回は認められないと言っていましたね。これだけ高圧的に出られるのはよほど日本が脱退しない確信があるのでしょうね。
はじめの収支0を目指すの理念に基づけば、もともと日本は貿易黒字だから他の国に譲歩するのが当たりまえ、と言えなくもありません。とか考えている人がいたら面白いですね。貿易で黒字続きでも景気は落ちてきます。貿易でなくてもお金は海外に出ていっています。その分日本国民に利用する分が減っているので貿易収支だけでは相対的な豊かさは図れません。例えば5兆円の物々交換をしたと思ったら、実はもらったものが後から後から量産されて価値が下がってしまった、とかこれも実質マイナスですね。
全体的にまとまってなくて特に最後何を言いたかったのかよくわからなかったと思います。ただ一つだけ言わせてもらたいのは、真に賛成してる提案したい条約があり、なおかつそれを主張できるパイプがある人だけで、反対派はその逆。どちらでもない人は学者気取りで自由が〜鎖国が〜とかいってるか、裏金つかんでる人です。自分がどの立ち位置かよく考えてください。
>まずFTA、自由貿易協定で相互に利益を得るとは、互いに収支が±0であることです。
これが正しければ、貿易とは全体の収支がゼロである、ゼロサムゲームだということになりますね。
このような考え方は、経済学が生まれる以前の重商主義という考え方で、この考え方だと貿易とは他国から富を収奪することになります。
前回のエントリーでも説明した通り、18世紀に経済学の元になる考え方を唱えたアダム・スミスという人はこのような考え方を批判し、リカードが貿易がゼロサムゲームではなく、双方に利益があるプラスサムゲームであることを比較生産費説で証明しました。だから、経済学は貿易がゼロサムゲームであるという考え方を否定します。
また、これほど貿易が世界的に広く行われているという事実自体が、貿易がゼロサムゲームであるという考え方を否定していると思います。これほど大規模な貿易を強制する力は、この世界には存在しないですから。
ただ貿易が富の奪い合いであると言う考え方は理解しやすいためか、今でも多くの人に信じられています。経済学を学んだ立場から見ると、今回のTPP反対論や一部の賛成論の根底にもそのような考え方があるように思えます。
あなたの意見もそのような考え方の一つだと思います。だから僕は「あなたの考え方は間違っています。間違っている理由は前回と今回のエントリーで説明しました。」と言うしかないですね。