大阪都構想の議論について思うこと

【前置きの前置き】
大阪市民でもないし府民でもありませんが、地域活性化の一つの試みとして、大阪都構想に興味があります。で、いくつか同意論・反対論を読みました。経験上、こういうときは反対論から読むと重要なポイントが把握しやすいので、今回も反対論を中心に読み、それに対応する賛成論を読むという形で情報収集してみました。

が、なんとも判断が難しいですね。根拠のない感情論は論外ですが、根拠あるいは数値を上げた主張に関しても、その根拠の正しさがわかりません。ただ、明らかにおかしいと思われるものがあって、しかもそれが客観的で論理的であるべき学者によるものであったりして、一体なんなんだろうと思います。今回はそのおかしい点について書いてみました。

もう少し前置きが続きます。

【反対派が活発になったことは良いことだけど、対案を頑張って】
大阪では維新の会以外は、全党が大阪都構想に反対であり、協力が進んでいます。そのおかげで反論のポイントが整理されてきています。どこか一つの党のサイトをみれば主要なポイントがわかります。その点は便利ですね。私がいくつか見た中では、自民党のサイトが良いと思いました。ちなみに、先に述べた学者の意見よりもはるかに、各党の反論の方がよくできているし、客観性が高いように思いました。

また、都構想が荒いアイデアの段階から計画レベルにまで熟成したこと、維新の会が結構強い意志を持って推進していることから、反対している党の政策面での動きも活発になり、都構想の最大のポイントである二重行政解消について対抗案を提案するようになっています。その点は良いことだとは思いますが、その対抗案「大阪広域戦略協議会」が私の眼にはショボイものに写ります。維新の会は、責任も決定方法も明確でなく、実施されることが担保されていないと批判していますが、妥当な批判に思います。

また、これは対抗案なので、都構想が潰れて維新の会の動きが無くなれば、推進力を失うことになります。すると対抗案が実施されるかどうか危ういですし、実施されたとしても推進力を失っている分効果が小さくなると予想できます。要するに後出しじゃんけんで言い出したものはあまり信用できないということです。信用できるものにするためには、実績が必要でしょう。

【二重行政の解消について思うこと】
もう一点だけ、前置きです。もう一点だけといいつつ、長いです。
さて、都構想の最大のメリットは二重行政の解消です。この二重行政の解消の効果について、賛成側・反対側のそれぞれが試算を出していますが、はっきり言ってよくわかりません。いろいろな論を読むと、議論されているコスト削減効果には3種類あります。ひとつは、日常的な行政の運営に係る作業・費用(A)についてのもの。二つ目は、地下鉄や水道事業など公共事業の民営化(B)。残りの一つは、無駄な大型開発(C)に係るものです。また、コストの反対の税収(D)も同時に考慮する必要があります。維新の会はAとBによるコスト削減が大きく、Cも抑制されると主張します。一方、反対側は、Aだけを取り上げて効果が小さいと主張しています。BとCについては、都構想でなくとも実現できるとしています。

私は、Aにおけるコスト削減が小さいという反対論に同意します。都構想は、基本的には市が行っていたことを府に変えるだけです。すなわち、削減ではなく移動ですから、コストが大幅には減らないだろうと思います。ただ、反対論者は、Dの税収については、市から府への移動によって旧大阪市で使われる税金が大幅に減るとも主張しています。しかし、単なる移動ですから、府に移動した税収のほとんどは大阪市域で使われることは明白です。仮に、市域外に使う分が多くなっても、民主的手続きで是正されます。大阪市域内の票数は大きいのですから。
したがって、どちらも単なる移動であって削減ではありませんから、コストについても「大阪市域内で使われる税金=実質的な税収」についても変化は生じないと、私は思います。どちらか片方だけが発生すると主張するなら、十分な根拠がなければなりません。さらに言えば、反対論者は行政サービスも低下すると主張しますが、私は同じ根拠でほとんど変化がないと思います。

となると問題になるのはBとCです。体制あるいはシステムが変わることによって、組織の活性度や効率が大きく変化することはあり得ますし、私自身体験したことがあります。その意味では、都構想によって良い変化がもたらされるという主張もあり得ます。一方、現状維持でもBとCに対応できるという主張もあり得ます。ただ、いままで維新の会が民営化や統合を提案しても、市議会が反対してきたという実績、それから今の野党協力体制が維新の会への対抗で支えられているにすぎないという点、この2点を考えると現状維持のままでBとCに対応できるというのは考えにくい。もちろん、野党側は民営化案が十分でなかったからだと主張するでしょうが、じゃあ十分な案を提出しろよというだけの話です。市議会の現状を見ると、現状維持のままでBとCに対応できるという主張は信じがたいと思います。


【ここからやっと本論です】
前置きが長くなりました。本題は、反対の立場の学者の主張におかしなものがあるということでした。

参考にしたのは、アジアプレスのサイトに載っている新聞うずみ火 栗原佳子さんの記事『「大阪都構想」はこれだけ危険 学者105人が提言』です。

http://www.asiapress.org/apn/archives/2015/05/08164426.php

5月5日に行われた、共同会見についての記事です。

ゆっくり考えれば、おかしな主張を分類して整理した形で書けるかもしれませんが、面倒なので、逐次的に書いていきます。

【防災に影響が出るとの批判について】
まず、京大名誉教授の河田恵昭さん。「『都構想』は防災・減災に未熟」であり、「役割分担において防災・減災は全く考慮されていない」と主張します。しかし、記事をよく読むと、現状でも防災が不十分であり、都構想独自の問題ではないことがわかります。都構想の問題としては、役割分担の考慮不足だけしか上がっていませんが、その根拠がわかりませんし、現状維持の方がマシだという根拠もわかりません。もう一点、政治家は票につながらないため防災・減災に取り組まないという主張もありますが、これは政治家全般への批判であり、維新の会だけにあてはまるものではありません。
記事には書かれてませんが好意的に考えれば、都への変更に係る初期費用を防災に回せという主張だと思います。しかし、長期的に見れば、行政コストが下がれば防災に力を注げますから、やはりどちらが良いとは判断しにくいと思います。
要は、都構想と現状維持のどちらでも問題となることを、都構想の問題として挙げている点がおかしいということです。

甲南大学名誉教授の高寄昇三さんは、都構想では生活サービスの低下は避けられず(E)、消防がなくなれば(F)、災害救助でも大きな支障をきたすと主張します。が、EについてもFについても記事には根拠が掛かれていません。Eについてはありうると思いますが、消防がなくなるというのは非常に考えにくい。どこをどうしたら、こんな発想が出るのか、とても変な主張に見えます。

大阪府立大市立大の統合について】
大阪府立大学名誉教授の小林宏至さんは、大阪府立大と市立大の統合を批判しています。根拠は、両大学はそれぞれ地域貢献について高い評価を受けているということですが、高評価だから統合してはいけないというのは理解できません。むしろ、今後、学生数が大きく減少し大学経営が厳しくなることを考えると、高評価を受けている今のうちに統合した方が良いとも考えられますし、大学の場合には統合による事務コストの低減が結構効くような気もします。

  • 追記:小林宏至さんの主張は、府も市も大学運営費の一部を国から貰っているから府と市の負担は小さい、だから問題ないというものでした。えーっと、結局出所は税金ですね。もう統合でいいです。

【教員採用への影響について】
大阪大学教授の小野田正利さんは、教育学者の立場から都構想に警鐘を鳴らしています。その根拠は、今年度の教員採用試験倍率が、大阪市は2.0倍で、京都市の4.4倍、神戸市の4.6倍に比べて極端に低いことです。これは、大阪維新の会が3年前に成立させた府市の教育基本条例の影響だと主張します。都構想への批判というより、維新の会への批判というべきものですが、有難いことに数字があげられていますので検証可能です。ということで、調べました。倍率や受験者数、合格者数は下のサイトに載っています。


大阪市
http://www.city.osaka.lg.jp/kyoiku/page/0000107417.html
大阪府
http://www.pref.osaka.lg.jp/kyoshokuin/kyosai/h272jikekka.html
推移
http://kyousai.info/bairitu/

結果ですが、小野田正利さんがあげた2.0倍は小学校教員の倍率でした。ただ、これは、受験者数が減ったというより、明らかに採用数を増やした=合格者を増やした結果です。受験者数と合格者数、倍率を列挙すると、

年度 受験者数 合格者数 倍率
H27 1103 557 2.0
H26 1060 304 3.5
H25 947 226 4.2
H24 991 274 3.6
H23 971 280 3.5
H22 993 334 3.0

となります。H27の合格者数557人は、他の年度の1.7〜2.5倍ですから、そりゃ倍率も下がろうというものです。合格者数は、ほぼ当該年度の退職数に等しいですから、結局のところ、倍率の変化はどの年齢の教員がどのくらいいるかということの影響を受けているだけです。
このように倍率の低下は合格者数の増加によるものであり、受験者数は減ってはいませんから、維新の会の影響で倍率が減ったというのは間違いです。というより、学者であれば上記のデータを見ているはずですから、意図的な嘘だとしか判断できません。ちょっと調べればわかるような嘘をつきなさんな、小野田正利さん。

【大気測定への影響について】
大阪大学大学院元助手、喜多善史さんは、「市解体5分割が大気環境保全施策と逆行すると憂え」ています。どうやら、現在行われている大阪市域26カ所での大気汚染測定が、都構想によって手薄になるという主張のようです。しかし、この大気測定大阪市域外で大阪府も行っていますし、現在でも大阪府のシステムと大阪市のシステムは連動されているはずです。また、そもそもこれは大気汚染防止法に基づくもので義務化されていますから、測定が行われなくなることは考えられません。
また、兵庫県立大名誉教授の河野仁さんも同様の主張をしていますが、その根拠は、行政単位が小さくなって、専門家集団が解体され、集団としての力量が低下するからというものです。しかし、これもおかしな話です。府に統合されるのですから、むしろ集団としては大きくなるはずで、力量が強化される方向のはずです。一体、どういう主張なのでしょうか?

【その他】
その他、記事中には、観念的としか思えない反対論がいくつかあり、それについては何とも言いようがありません。判断材料にもならない。また、民主的手続き上の問題についての指摘もあります。こちらは判断材料になると思いますが、個人個人で判断が異なってくるでしょうし、少なくとも法に則っているならば致し方ないとしか言いようがありません。