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2008-09-09

SIMロック解除と、日本メーカーの選択

2011年SIMロック解除...。

1年前の2007年9月に総務省のモバイルビジネス研究会が出した報告書に関する報道を見ていると、「販売奨励金とSIMロックがなくなれば、モバイルビジネスが活性化して、ユーザーのメリットが高まる」という要約が一人歩きしているように思えたので、改めて報告書の現物を読んでみた。

この報告書、意図的なのかどうなのか、実に分りにくい書き方になっていて、SIMロックに関しても、結論めいた記述が何箇所も出てくる。そのなかで、最もまとまっていると思われる箇所を抜き出すと、

SIMロックについては利用期間付契約の導入等により実効性を失うものとなるが、現行の3Gには2つの方式が存在していることから、直ちにSIMロック解除を義務付けることにより、むしろ事業者間の競争を歪める可能性があることに鑑み、第二フェーズ*1を念頭に置いて、2010年の時点でBWAや3.9G等の動向や市場実態を踏まえ、最終的に結論を得ることが望ましい。その際、基本的にはSIMロック解除を法制的に義務付ける方向で検討を行うことが適当である。(49p)

ということで、総務省としては、2010年にSIMロック解除義務を検討し、2011年に法制化する方針らしい。

では、SIMロック解除で何が変わるというのか。それによって、モバイルビジネスが活性化しユーザーの利便性向上が図られると言えるのだろうか。

この報告書も認めている通り、

3GPP標準に従っている場合には音声、SMS等の利用が可能であるが、メール、ウェブ等については記述言語等が異なることから、事業者を越えて同一端末で利用することはできない。(27p)

つまり、現状のままでSIMロックを解除したところで、せいぜい通話とSMSが共通に使えるくらい。メールやウェブといった各キャリアの独自仕様が盛り込まれた部分は互換性がないから使えるようにはならない、と言えそうだ。

なので、

データ系サービスの比重が相当程度大きくなる3.9Gにおいて、音声電話やメールのみならず、コンテンツやアプリケーション等が事業者を変更してもシームレスに利用できるようにすることにより、利用者利便の飛躍的な向上が図られることとなる。このため、3.9Gの導入に向けて、コンテンツ、アプリケーション等を事業者間でシームレスに利用可能とする観点に立てば、SIMロック解除は重要な意味を持つものであると考えられる。(29p)

と、SIMロック解除の意味があるのは、データ系サービスが比重を増すと考えられる3.9G以降に、「コンテンツやアプリケーション等が事業者を変更してもシームレスに利用できるようにすること」が出来て、初めて重要な意味を持つ、という但し書きがついている。

ところが、法律SIMロック解除義務を法制化する方針のわりに、報告書には「コンテンツやアプリケーション等が事業者を変更してもシームレスに利用できるようにすること」について、どのようにして実現していくか、(私の見落としであればご指摘頂きたいが)、具体性のある記述がないようだ。

ここが、最大の問題であると私は思う。

現状では、各キャリアが、独自のケータイメール、独自のウェブ(公式サイト)で差別化を図り、利用者を囲い込んでいる。

2006年から始まった割に、利用は年率ベースで契約者の3%程度といまひとつ利用が盛り上がらないMNPだが、それを利用しない理由の調査結果によると、

メールアドレスを教えるのが面倒 38.7%

登録しているサイト(公式サイトなど)を退会しなくてはいけない 23.6%

MNPに関する利用動向調査 -第3回- (2007年10月度)

とあり、このキャリアの囲い込み戦略は成功しているといえるだろう。となれば、こうした状況が3.9Gの導入と共に自然に解消するとは考えにくい。

同報告書は、

サービスの多様化を通じた利用者利益の最大化を図ることを、モバイルビジネスに係る競争政策の基軸に据えることが適当である。

これを具体的に利用者の利用イメージの観点で描くと、

ネットワークの別を問わず、自由に端末を接続して利用できる環境

●端末に自由にアプリケーション等を搭載して、利用者が希望するサービスを自由に選択できる環境

●端末・通信サービス・コンテンツ等のそれぞれの価格・料金が利用者に分かりやすく提示されている環境

が実現することを目指す(10p)

としている。1つ目の●は、まさにSIMロックの解除によって実現されるものだが、2つ目の●を、現在の日本で最も有効に実現しているのがiPhoneWindowsMobile端末などのスマートフォンであり、他方、その"自由な選択"が最もしにくいのが、従来型の"和式ケータイ"の世界だ。

MNPを利用しない理由、そしてiPhoneを利用しない理由に共通して、ケータイメールやウェブの問題が大きく作用していることはおそらく間違いがない。つまり、囲い込まれた和式ケータイは、ユーザーの支持を受けているのである。

そうであるなら、この問題を棚上げしたままでSIMロックを解除しても、仮にそれを法制で強制したところで、MNP程度の影響しかない、ほとんど何も起こらない、ということではないか。

仮に、SIMロック解除に実効性をもたせるため、各社独自仕様のケータイメールやウェブ標準化させたら、そこにあるのはメールやウェブの機能としてiPhoneに近い端末、PCメールやPCウェブに近い世界、ということになりそうだ。これが、果たして利用者にとって受け入れられるかというと、先に触れたMNPの調査結果を考えても、やはり難しそうだ。iPhoneの普及台数(一説には発売2ヶ月で20万台)をどう評価するかだが、最終的な割合が全SoftBankユーザーの数%から最大10%程度だとすれば、受容度はそのくらいと考えられる。

つまり、2つ目の●、

●端末に自由にアプリケーション等を搭載して、利用者が希望するサービスを自由に選択できる環境

をユーザーが求めているかといえば、現時点では、過半数のユーザーはNOであるといえる。

もっとも、それが日本の社会全体にとってよいことなのかどうか、ということは以前のエントリに書いたとおりだが、こればかりは人々の意識が変らないことにはどうしようもない。

そういう社会状況の中で、あえてインターネット標準のメール・ウェブの機能を日本市場向けの端末に搭載していくかどうか、またそういう製品を海外市場向けに作っていくかどうか、メーカーの判断も分かれるところだろう。

また、端末が各キャリアを通じて販売されている日本の場合、どのような端末にするかはキャリアの意向を汲んでいるものと考えるのが自然だから、キャリアの意向が変らない限り、またはメーカーが(Appleのような)圧倒的な商品力で対キャリア交渉力を獲得しない限り、端末メーカーとしては各キャリア独自仕様のメールやウェブ最適化された日本市場向け端末作りをしていくことになると思われる。

そういう中でSIMロック解除が義務化がされると、海外メーカー製の、キャリアを通じて販売されないSIMロックフリー端末が日本に流れてくることも考えられる。しかし端末の日本語化の問題と、料金プランの問題(こうした端末で割安な料金プランが使えるようになるか)を考えると、通話に特化した低価格端末ならともかく、メールやウェブを使うユーザーに向けたハイエンド端末では、こうした流入も限定的と思われる。

そう考えれば、メーカーとしては、日本という閉じたマーケットの中で生き残っていける方策を見つけられるなら、そこで今までどおりのスタイルの端末を作りながら生き残っていける、ということになるかもしれない。

ただ、キャリアは自社に最適化した端末を海外メーカーからも調達してくるから(すでにそうなってきている)、特に普及価格帯以下の端末については、こうした価格競争力のある海外大手メーカーのものに侵食されていく可能性は高い。

そうなると、残るのはハイエンドの機種のみである。ただし、ハイエンドユーザーの一定の割合はスマートフォンなどに流れていく可能性があるから、さらにパイは小さいだろう。その小さなパイで食べていける日本メーカーは、どのくらいの数だろうか。

一方、標準化されたメールやウェブの機能を搭載した端末を日本メーカーが作って海外進出を図っていく場合、iPhoneWindowsMobile端末、NOKIAのS60端末などに代表される機種と競合していくことになる。Androidもここに入ってくる。この選択も、競争相手が多く、しかも日本メーカーにとって土地勘がない海外市場が相手なだけに腰を据えて取り組まなければならず、決してラクな道とはいえないだろう。

どちらを選ぶのもラクではないが、流れに任せて判断を先送りしていると自動的に前者の選択をすることになる。後者の選択をするのは、よほど思い切った意識的な決断が必要だ。

モバイルビジネス研究会のキーパーソンであると言われる、総務省の谷脇氏の発言によると、

「研究会では、メーカーの国際競争力向上という議論は行なっていません。ただ、競争を促進させる政策を行なった結果、サービスの多様化などが進み、最終的に日本のメーカーが海外でも優位になっていくことは期待できるだろうと。ただ、研究会で国際競争力の問題を中心的なテーマとして議論してきたことはありません。」

no title

ということだ。

ことこの問題に関しては、日本のメーカーは、目先の報告書を踏まえつつも、より大きな視点で判断をしていく必要がありそうだ。

*1:「モバイルビジネス市場においては急激な市場環境変化が生じていることに鑑み、「直ちに取り組むべき措置(第一フェーズ)」と「2011年時点で実現すべき措置(第二フェーズ)」という2つのフェーズに峻別し、第一フェーズから第二フェーズへと段階的に移行していくというアプローチを採用する。」同報告書8p

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