Hatena::ブログ(Diary)

Blog-psychologique

2011-09-07

[][]内発的および外発的な利用価値が学習動機づけに与える影響の検討

鈴木高志・櫻井茂男(2011), 教育心理学研究, Vol.59(1), 51-63

概要

私たちは何のために勉強するのだろうか? その理由として、私たちは現在の学習が、将来に役立つと認識していることが挙げられる。この認識は「利用価値」と呼ばれる。実際、学習活動に対して動機づけが高い学生は、学習する理由を将来の目標達成のためと考える傾向が強い(De Volder & Lens, 1982)。また、私たちが学習課題を選択する際にも、その課題がどの程度自分自身の役に立つかの認識(利用価値の認識)が影響を及ぼすことが知られている(Wigfield & Eccles, 2002)。これらの結果は、学習結果の有用性の認識が、私たちの学習意欲を増進することを示している。

これまでの研究より、私たちが学習内容の有益さを認識した場合に、その学習活動に対する動機づけが高まることが知られている。では、この利用価値の認識は、常に私たちの学習意欲を増進させるのだろうか。実は、利用価値の認識は、必ずしも学習活動に対する動機づけを高めるわけではない。この点について、達成目標理論に基づいた解釈が可能である。達成目標理論では、学習者の目標を、有能感を基準に分類している。達成目標理論によれば、私たちが学習する理由として、以下の3つの基準が挙げられる。

  1. マスタリー目標志向性:知識や技能の習得そのものを目指す
  2. 遂行接近目標志向性:他者をしのぎ自らの能力を誇示することで高評価を得る
  3. 遂行回避目標志向性:他者に劣ったり能力が欠如している評価を回避する

なかでも、2と3は、評価基準が他者の視点に基づいており、学習活動の動機づけとして適切でないと考えられる。Vansteenkisteら(2004)は、保育士を目指す大学生を対象に、異なる2種類の教示を行い学習活動などの比較を行った。まず、最初のグループには、内発的な将来目標の提示を行った。教示内容は「これから学ぶことは、あなたたちが将来、保育士になったとき環境保護を教える時に役立ちます」であった。次に、もう一方のグループには、外発的な将来目標の提示を行った。教示内容は「これから学ぶことは、資源を再利用することによってお金を節約する方法を教える際に役立ちます」であった。この2条件で比較を行ったところ、内発的将来目標を提示した場合に、より自律的な学習、深い認知的処理、持続的な学習が行われていること、また、試験の成績が高いことが示された。この結果に基づき、Vansteenkisteらは、学習指導に際して内発的な将来目標(マスタリー目標志向性)を持たせる重要性について言及している。

本研究では、これまで多くの研究で単一のものとして扱われてきた利用価値について、内発的と外発的に区別した測定尺度を作成・検証した(分析1)。さらに、これらの内発的・外発的利用価値が、どのように学習の動機づけに影響を及ぼすかについて検討を行っている(分析2)。分析1の結果より、本研究で作成された「内発的−外発的利用価値尺度」は十分に妥当性のあるものであることが確認された。さらに、分析2の結果より、内発的利用価値はマスタリー目標志向性に正の影響を及ぼすこと、また、外発的利用価値は遂行接近・遂行回避目標志向性に正の影響を及ぼすことが確認された。このことから、将来の目標である「利用価値」は、現在の目標である「達成目標志向性」に影響を及ぼすことが示された。特に、分析2の結果は、内発的利用価値がマスタリー目標志向性を増加させ、結果として適応的学習動機づけにつながることを示している。このことから、教授者は学習者に対して、内発的利用価値の認識を強調させる教示を行うことが望ましいといえる。

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2011-04-26

[][]棒人間の研究

初田 隆(2006)美術科教育学会誌 (27), 337-349

概要

棒人間を描くことによって人体表現と向き合うことを避ける子どもが年々増えている。棒人間という記号を意図的に操作し、利便性やかわいらしさを見出す傾向も認められるが、特に小学校低学年では抑圧された表現欲求や人との関わりの希薄さなどが窺える。本稿では大学生及び教員を対象としたアンケート調査、児童・生徒・学生の作品分析を通し、今日の子ども達の描画発達の特徴と美術教育の課題を捉えようとした。考察の内容は以下の通りである。

  1. 棒人間表現が近年増加傾向にあること
  2. 棒人間表現の発生が低年齢化していること。また、棒人間が継続的に使用されていること
  3. 棒人間を描く理由と使用場面
  4. 現代における棒人間表現の意味と特徴
  5. 棒人間表現の背景

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2010-02-08

[][]理科授業における動機づけ機能を組み込んだ教授方略の効果−小学理科「水溶液の性質」の事例を通して−

高垣マユミ・田爪宏二・中西良文・波 巌・佐々木明弘(2009)教育心理学研究,Vol.57(2),223-236

概要

学校教育の現場において、学習者、すなわち児童・生徒の動機づけを向上させることにより、その後のスムーズな導入や理解度の向上促進が期待される。これまで、心理学では、多くの動機づけ研究が行われてきた。ここで、Maehr & Midgley(1991)は、従来の動機づけ研究について、その焦点は個人であるため、必ずしも学校教育の実践場面に有効ではなかったことを指摘している。また、Maehrらは、教育場面に適した動機づけ理論の必要性を主張しており、それは6要素(6次元)から構成されている。以下に、各要素の内容を示す。これらは、頭文字を取ってTARGET構造と呼ばれている。

  1. 課題(Task)→全ての学習者が挑戦し、学習の楽しさを感じる。既有知識や日常場面における経験が役立つように結びつける。
  2. 権限(Authority)→学習場面において最適な選択や決定を自ら行う。責任や自立、学習スキルを開発する。学習に対する自己調整スキルを身につける。
  3. 承認/報酬(Recognition/Reward)→全ての学習者が承認される機会を設ける。それぞれの努力や進歩に対する報酬を受ける。
  4. グルーピング(Grouping)→グループによる問題解決・意志決定をする。仲間との重要な相互作用を行う。相互の独自なアイデアを認め合い、自分には貢献する能力があると認識する。
  5. 評価(Evaluation)→自分たちの設定した目標への進歩を評価し、自分たちの遂行を改善する。知識とスキルの進歩を自覚し、有能間と自己効力感を認識する。
  6. 時間(Time)→学習者が時間を管理するスキルを獲得し、自らのペースで学習を進める。

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2009-10-03

[][]認知心理学を語る2 おもしろ言語のラボラトリー

21世紀の認知心理学を創る会(森 敏昭 編)(2001) 北大路書房

本書の内容

本書は「認知心理学を語る」シリーズの2冊目である。このシリーズでは、「記憶」「言語」「思考」のそれぞれの領域について、認知心理学の観点から行われた研究や、最新の知見が語られている。

認知心理学」と聞くと、取っつきにくい印象を受けるかもしれないが、研究の動機や得られた結果は、きわめて明快である。国内を代表する認知心理学者が、「もっと綺麗な文章を書けるようになりたい」、「もっと記憶力を高めたい」と思ったとき、どのような方法を採るのだろうか。この点について、多くの代表的な研究を網羅した上で、それぞれの専門領域に基づいた提言が行われている。本書は、認知心理学の幅広さと奥の深さに触れることができる、最適な入門書である。

推薦する理由

私たちは、普段から意識することなく、文章を読み書きすることができます。正しい文章であれば当然のように理解できますし、多少の誤字や脱字があっても、案外、意味を読み取ることができるものです。人間の言語能力は、実はかなり高性能なのです。

さて、突然ですが、あなたは、「もっと読解力があればいいのに」とか、「もっとわかりやすい文章を書ければいいのに」と思ったことはありませんか? 実は、この思いは多くの人に共通しているようです。本書は、国内でも代表的な認知心理学者たちが、人間の単語・文章理解について、また、人間の会話や文章作成について行ってきた研究を、現実の実験結果を交えながら易しく解説しています。これは、裏を返せば、国内でも有数の認知心理学者であっても、文章の読み書きが苦手な場合があるとも考えられますね。

では、どうすれば、もっと読解力が身に付いたり、簡単に文章を作成できるようになるのでしょうか。この答えはあなた自身で試行錯誤して探して欲しいのですが、本書から、その答えに対する大きなヒントが得られるものと思います。今回は、特に「言語」を紹介しましたが、それ以外の「記憶」と「思考」についても、合わせて読むことをお薦めします。

(追記)本書評は、学生推薦図書として作成した文章の転載です。

2009-08-12

[][]ドキュメント:指導案のつくり方と助言のヒント「この指導案にこめた願い」

辻 慎二(2009)社会科教育,Vol.46, No.5,29-31

概要

本学習指導案(社会科:第三学年対象)では、児童が自分自身の住む地域に対して愛着を持つことを重視した。具体的な事実の理解は、地域への愛着を育てる。そこで、(1)地域の商店の人たちの工夫や努力の理解、(2)商店の仕事が自分たちの生活を支えていることの理解、これらの実現に向けた教育活動を展開した。

「児童にとっては今まで「当たり前」であったことが、実は人々の願いや思いに支えられ、深く考え抜かれた高度な仕組みで成り立っていることを理解させ、感謝の気持ちを持たせることが大切である」

指導案の実践に際して、学校支援コーディネーターの協力に基づき、地域の複数の商店との接点が得られた。初回の見学では、児童の興味や関心を喚起を促すために鮮魚店の見学を行った。その際、あえて見学の観点を設けなかった。この意図として、児童の興味対象を拡大させることが挙げられる。さらに、初回の見学を終えた後、興味対象についての取材方法(見る・聞く)を検討させた。その結果より、地域理解の観点として、(1)売っているもの、(2)商品の並べ方、(3)一日の流れ、(4)仕事内容、(5)生産地、(6)心情、これらが設定された。なお、この一連の流れを通して、児童の学習意欲の向上が見られた。二回目の見学では、児童と地域との関連性をより強めるため、児童を複数の店舗に分散させた。このことにより、商店の方との密接な関わりが可能となった。これは、児童の商店街に対する愛着の形成にも有効であることが予想される。

この調査を通して、児童に理解させたかった内容としては、以下の2点である。「商店では、買い物客のニーズに応える工夫や努力がなされていること」、「商店の仕事は、商品や人を通して他の地域に広がっている」。これらの理解を通して、身近な商店街に対する関心が深まり、地域に誇りを感じることが期待される。

なお、本学習活動は「習得・活用・探求型」のプロセスを踏襲したものである。つかむ段階では、「児童に驚きや凄さを感じさせる」、調べる段階では「どのように、何のためにを考えさせる」、まとめる段階では「社会や自分との繋がりを理解させる」、このような流れで構成されている。最終的には、児童に対して「考えをまとめ中心概念に迫る方法を獲得させること」が目的であるが、その具体的な方法として、資料の共通点を発見し、総合的に思考・判断させる過程を重視したものといえる。

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2009-04-19

[][]つばさよつばさ「旅の手順」

浅田次郎(2009)JALグループ機内誌 SKYWARD,Vol.49,No.4

本文(一部を引用)

東京国立博物館には行ったことがないけれど、ルーブルやメトロポリタンには何度も行ったという若者はすでに多いであろう。京都知らずのパリ通も、私の知る限り大勢いる。結構なご時世だとも思うが、ナショナリズムなきインターナショナリズムは、本来ありうべきもない珍現象である。

海外旅行が徐々に開かれてゆく時代にめぐりあわせた私は、幸いにして旅の手順をたがえることがなかった。しかし、はなから外国が目の前にある若者たちが、その正当な順序に従うことは難しい。つまりこれからは、何よりもまず日本の歴史と文化を従前にも増して彼らに授けなければ、さきの「珍現象」が「常識」となるふしぎな時代がやってくる。これは若者たちが考えるのではなく、社会が考える問題であろう。

そうこうつらつら思うに、英語を小学校から教えるなど笑止千万、限られた学習時間にそんなものを持ち込めば、真っ先に犠牲となるのは国語の時間に決まっている。

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2009-01-09

PCカンファ提示資料より抜粋

[][]異なる背景を持つ受講者の遠隔教育に対する評価観点の検討−遠隔サイエンス・コミュニケーションの実現に向けて−

辻 義人・田島貴裕・西岡将晴・奥田和重(2008) コンピュータ&エデュケーション,Vol.25,82-87

本文(抄録より)

遠隔授業の実践にあたっては、対面での授業と比較して、より多くの点に配慮する必要がある。本研究では、異なる背景を持つ受講者間における遠隔授業に対する評価、ならびに、遠隔授業に対する評価の観点に注目し、望ましい遠隔授業の設計と展開の検討を行った。小学校と高校を対象とした実践を通して、遠隔授業の成立に求められる要素として、以下の2点が示された。(1)講師と受講者とのコミュニケーション品質の確保。(2)リアルタイム性を重視した相互対話に基づく授業展開。なお、これらの知見は、遠隔地を対象としたサイエンス・コミュニケーションの実践においても、有効な視座となることが予想される。

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2008-10-01

[][]旅する脳「親切すぎる情報は子供にとって意味があるか?」

養老孟司(2008) JALグループ機内誌「SKYWARD」,Vol.48(10)

本文

(2009年1月21日:著作権の観点に基づき、引用部分を削除しました)

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2008-04-27

[][]心は実験できるか−20世紀心理学実験物語−

ローレン・スレイター(岩坂彰 訳)(2005) 紀伊國屋書店

書評

多くの教科書や専門書では、有名な研究や理論が解説されています。例えば、心理学の教科書では、パブロフの犬実験、エビングハウスの記憶実験、ジンバルドーの監獄実験など、今日の心理学に大きな影響を与えた有名な実験が、必ずと言っていいほど紹介されています。

しかし、ほとんどの教科書や専門書では、研究成果が解説されているだけで、その研究が行われた背景について解説されることはありません。有名な研究や理論を提唱した人は、どのように育ち、どのようなことに興味があったのでしょうか。本書は、特に社会的に大きな影響を及ぼした10の心理学実験について、その実験者の背景や人間性の観点から記述した、大変珍しいノンフィクションといえるでしょう。

一例として、「ミルグラムの権威への服従実験」を簡単に紹介します。1961年、当時27歳だったミルグラムは、ナチスのホロコーストに対して疑問を抱きました。なぜナチスの士官は、上官の命令に従い何百万人も殺害したのでしょうか? 彼らは良心的なブレーキを持たない、特殊な(サディスティックな)人々だったのでしょうか?

そこで、ミルグラムは実験を行いました。善良な一般市民を実験協力者として、白衣を着た権威者の指示のもと、他者に電気ショックを与えなければならない場面を設定しました。当初、ミルグラムは、ほとんどの人は電気ショックを中断すると予想していました。しかし、実際は65%の人が、致命的なレベルまで電気ショックを与え続けたのです(実は、電気ショックはすべて演技によるものでした)。この実験は、私たちがいかに権威に服従するかを示しています。なお、本書では、この実験を「心理学史上まれにみる壮大で恐ろしい作り事」と表現しています。

では、この実験を考案したミルグラムはどんな人物だったのでしょうか。残された手紙や妻の証言から、ミルグラム自身は極めて常識的でユーモアのある人物だったと推測されます。また、彼が導き出した実験結果が、彼自身の考え方を大きく変えてしまったことが、記録として残されています。ミルグラムの実験結果は興味深いものですが、その実験が社会や彼自身に及ぼした影響についても、大変興味深いものでした。

このように、教科書や専門書では数行でしか紹介されない研究や理論にも、その裏側には人間の興味や関心、喜びや苦悩が背景として存在しています。学生の皆さんは、今後、多くの研究や理論に触れることになるでしょう。その際、ただ内容を暗記するだけではなく、その人物や背景にも注目することによって、研究や理論に豊かな彩りが見えてくるものと思います。

(追記)本書評は、学内広報誌に掲載されたものの転載です。

2008-03-01

[][]はじめての教育効果測定 教育研修の質を高めるために

堤 宇一(編著) 青山征彦・久保田亨(著)(2007) 日科技連

概要

主に企業において行われる研修の効果測定について、その理論的背景から実践的事例までを解説している。理論的背景として、特にインストラクショナル・デザインの考え方が色濃く反映されている。教育効果を測定する際には、前段階にあたる教育活動の目的を明確にし、その教育ゴールを設定する必要があることが述べられている。明確な教育目標と教育ゴールの設定は、教育効果測定の必須条件となるのである。

企業場面における人材育成を表すモデルとして、HRD(Human Resource Development:人材育成)サイクルモデルが紹介されている。これは、分析→実施→評価(→分析に戻る)の3コンポーネントから構成されるモデルであり、一般的なPDSモデル(Plan→Do→See)、PDCA(Plan→Do→Check→Action)モデルと概念的には同一である。計画・実施・測定の基本的な循環は、教育機関・企業に共通したものであるといえるだろう。

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