2009-08-12
■[教育][雑誌記事]ドキュメント:指導案のつくり方と助言のヒント「この指導案にこめた願い」
辻 慎二(2009)社会科教育,Vol.46, No.5,29-31
概要
本学習指導案(社会科:第三学年対象)では、児童が自分自身の住む地域に対して愛着を持つことを重視した。具体的な事実の理解は、地域への愛着を育てる。そこで、(1)地域の商店の人たちの工夫や努力の理解、(2)商店の仕事が自分たちの生活を支えていることの理解、これらの実現に向けた教育活動を展開した。
「児童にとっては今まで「当たり前」であったことが、実は人々の願いや思いに支えられ、深く考え抜かれた高度な仕組みで成り立っていることを理解させ、感謝の気持ちを持たせることが大切である」
指導案の実践に際して、学校支援コーディネーターの協力に基づき、地域の複数の商店との接点が得られた。初回の見学では、児童の興味や関心を喚起を促すために鮮魚店の見学を行った。その際、あえて見学の観点を設けなかった。この意図として、児童の興味対象を拡大させることが挙げられる。さらに、初回の見学を終えた後、興味対象についての取材方法(見る・聞く)を検討させた。その結果より、地域理解の観点として、(1)売っているもの、(2)商品の並べ方、(3)一日の流れ、(4)仕事内容、(5)生産地、(6)心情、これらが設定された。なお、この一連の流れを通して、児童の学習意欲の向上が見られた。二回目の見学では、児童と地域との関連性をより強めるため、児童を複数の店舗に分散させた。このことにより、商店の方との密接な関わりが可能となった。これは、児童の商店街に対する愛着の形成にも有効であることが予想される。
この調査を通して、児童に理解させたかった内容としては、以下の2点である。「商店では、買い物客のニーズに応える工夫や努力がなされていること」、「商店の仕事は、商品や人を通して他の地域に広がっている」。これらの理解を通して、身近な商店街に対する関心が深まり、地域に誇りを感じることが期待される。
なお、本学習活動は「習得・活用・探求型」のプロセスを踏襲したものである。つかむ段階では、「児童に驚きや凄さを感じさせる」、調べる段階では「どのように、何のためにを考えさせる」、まとめる段階では「社会や自分との繋がりを理解させる」、このような流れで構成されている。最終的には、児童に対して「考えをまとめ中心概念に迫る方法を獲得させること」が目的であるが、その具体的な方法として、資料の共通点を発見し、総合的に思考・判断させる過程を重視したものといえる。
レビュー
本記事は、雑誌「社会科教育」における特集「新社会科”気迫ある指導案”書き方&見方」に掲載されたものである。授業指導案に関しては、学部の講義や教育実習など、何度か作成したことがあるものの、それに基づき、実際に指導した経験はさほど多くはない。この点について、具体的にどのような指導案の作成が行われており、どのような教育活動の設計が求められているのかについて、本書のような体系的な資料は読んだことがなかった。このこともあり、やや「心理学」の領域からは外れているものの、今回、本記事を取り上げた。
本指導案の目的は「これまで当然のように利用していた商店街に、どれだけ高度な技術や工夫が存在しているか気づくこと」とまとめられるだろう。また、この目的を達成するために、児童は複数回にわたる見学を行っている。その過程において商店街の人々と直に触れあい、商店街に対する愛着や誇りを持たせることについても、目的の延長線上に位置づけられよう。
児童と学外との触れあいに関して、対象校では「学習支援コーディネーター」の協力が得られたとの記述があった。この点に関して、小中高、さらには大学も含めて、学習者と学外との接点を設け、現実的な学習環境を構築することは難しい。しかし、これを実現することによって、親や教員以外の「社会人」と接することが可能となる。この効果は、学習面における動機づけの向上にとどまらず、社会全体に関する広く理解、ひいては、適切な人間関係の構築にも関連するものであることが予想される。特に、小学校においては、公平な視点から広く社会のあり方について観察することは、知的好奇心の喚起や、その後の将来の夢などにも影響を及ぼすものと考えられる。このように教育機関と学外との連携は、非常に意義深い取り組みであるといえる。
教育機関と学外との連携に関しては、その実践や研究に関する豊富な報告がなされている。しかし、それを実現するためには、教員に大きな負担が要求される。まず、学外の担当者との名刺交換に始まり、見学の目的や教育活動の理解を促し、協力を依頼する必要がある。協力が得られないようであれば、また他の個人や組織を頼りに、同じプロセスを最初から繰り返さなければならない。もし協力を得られるようであれば、見学の際の児童の統制に配慮し、適切な事前・事後の教育活動が求められる。また、一通りの教育活動が終了した際には、その成果についても報告しなければならない。このように、教育機関と学外との連携には、報告書には見えない部分で大変な苦労があるものと感じられた。それでも、上述の通り、教育機関と学外との連携を通して、大きな教育効果が期待される。本指導案における「学習支援コーディネーター」の役割は、今後さらに注目・重視されることが予想される。
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