本澤二郎の「日本の風景」(1340)

<安倍一色の好戦的防衛白書
 エジプトの軍部も軍需産業を所有する産軍体制下にあるという。アメリカがその代表格だが、日本も同じ路線を走っている。先導するナショナリスト政権の防衛白書が、7月9日の閣議で決まった。中国敵視・好戦的な安倍一色そのものだ。1930年代の“行け行けどんどん”に似ているとの指摘もある。輪転機で刷りまくる円を、株から、次は武器弾薬に回そうと考えているらしい。日本国民は相当の覚悟を求められているのだが、しかし、新聞テレビが報道しないため、気付いている国民は少ない。



<勢いづく防衛官僚>
 天皇国家主義の復活を目論む政権の誕生で一番、元気のいい官僚はどうみても防衛省の役人である。平和憲法を改悪して、戦争の出来る日本にするという野心を、内外に散らつかせる安倍首相なのだから。
 専守防衛という従来の基本原則を取っ払うつもりだ。無責任・無能な分裂野党をあざける様に、民意に反する原発再稼働を、選挙戦中にもかかわらず、電力会社に推進させている。自己の危うい健康との勝負からだろうが、ともかく突っ走って既成事実を積み重ねようと必死なのだ。
 これに警鐘を鳴らす新聞テレビが存在しない。先頃、自民党から取材拒否されたTBSに、反骨を期待したのだが、どうやらあっさりと屈してしまった。情けないことおびただしい。まともに政府を監視する新聞テレビのない国民は哀れで、言葉も出ない。
 武器弾薬メーカーと連携、腐敗・癒着している防衛官僚に元気をくれているようなものである。
<中国敵視で改憲軍拡ムードづくり>
 隣国・隣人との友好協力関係の構築を憲法は、為政者に指示している。だが、安倍カラーに染まった防衛白書は、中国を「高圧的対応」「不測の事態を招きかねない」などと、まるで臨戦態勢下のような表現を用いて、中国脅威論を日本国民に宣伝、煽りまくっている。
 ナショナリストの特徴は、決して自己の非を認めず、もっぱら相手ばかりを高圧的に叩きあう。そうして緊張を高めようとする。狙いは国民に「強い安倍内閣」を印象付けようとする。それが選挙にも得策と判断している。不良少年レベルで知性・理性を感じさせない。

 当然、反発する北京に対して、右翼メディアがそれを逆手にとって、中国非難を繰り返す。国民を国家主義民族主義へと巻き込むのである。およそ問題を収束すると言うのではなく、逆に拡大させて、それを投票に結び付けさせようと手を貸している。

 靖国を軸とする政教一致の政治体制の復活に好都合な環境づくりの一環になる、そこが正に、安倍の狙い目なのだ。そんな安倍の常とう句は「日本はいつも中国に窓を開けている」と殊勝な言動も吐いて、国際社会を煙に巻いている。信頼の構築どころか、ぶち壊している。
 こうした巧妙なやり口は、中曽根康弘内閣を凌駕している。彼は、たとえば8・15靖国参拝の後、中国の猛烈な反撃に遭遇すると「2度としない」と約束して、問題を収束させた。まだ安倍よりは、ややまともな国家主義者だった。改憲派の中曽根は、中国との対決を巧みに利用して改憲軍拡を推進しようとはしなかった。

 筆者はこんな風にも見ている。中曽根と三井・三菱との間柄は、安倍のそれよりも薄かった。同じ原発推進派でも、中曽根は外国に悪魔エネルギーの原発売り込みをしなかった。
国家主義に手を貸す新聞テレビ>
 当時の新聞テレビの対応も関係している。中曽根政権にテコ入れする新聞テレビは、読売と産経だけだった。それに野党・護憲派社会党も踏ん張ってくれていた。
 現在、社会党は消滅してしまった。村山富一・土井たか子の責任は重いのだが、昨今は新聞テレビの権力監視機能が喪失してしまっている。安倍宣伝をするのは、読売と産経だけではない。
 前述したTBSも自民党に屈した。経営難の毎日は公明党を批判出来ない。朝日は、かつてのような批判力を喪失してしまっている。読売に対抗できない無様さを露呈している。
 結果的に、日本の新聞テレビは戦後否定した国家主義を批判しない。これは驚くべき深刻な事態なのである。
<無知な国民を誘導>
 多くの国民は国家主義も知らない。学校で教えていない。これこそが日本の危機でもあるのだが、これも戦後の教育界に戦前派が多数紛れ込んでいた証拠である。米ソ冷戦下でワシントンは、これら戦前的価値観の監視を止めて、容認してきた。隣国も自国内のことで四苦八苦、日本監視をしてこなかった。そのツケは大き過ぎる。ドイツと異なった点である。日本ばかりか隣国にもマイナスだった。

 恐ろしいことは、自国の歴史を知らないまま大人になった日本人ばかりの日本である。このことに驚く隣人を以前から承知しているが、それは同時に日本研究のお粗末さを物語っている。こういう次第なので、新聞テレビさえ抑え込めば、ナショナリストはなんでもする、そんな危うい日本になってしまっている。54基の原発一つ見ても、そのことを理解できるだろう。
<笑いが止まらない財閥>
 昨日、東電福島原発の現場責任者が亡くなった。被爆・被曝の可能性が高い。しかし、本当の死因が公表されることはない。自由で民主主義の日本ではないからだ。
 戦後教育の悪しき成果があふれている、そんな今の日本なのである。こうした真実を10年、20年日本で生活した外国人でもわかるはずがない。真実を隠蔽することに、すこぶる長けた民族なのだから。
 誇れるのは日本国憲法のみ、である。それを信じてきた日本人は、実際は、幻想・仮想の社会で生きてきたのだから。
 日本の1%・財閥は笑いが止まらないだろう。背後で安倍を走らせて、悲願の国家主義を再び手に入れつつあるのだから。そのための、好都合な防衛白書でもある。
2013年7月10日記