さよなら妖精

さよなら妖精 (創元推理文庫)

さよなら妖精 (創元推理文庫)

あまりに苦い結末に、うう、といううめき声が出た。
映像化しようにも、どうにも持て余してしまう作品なので、小説を読むのが
一番なのかもしれない。


背景を全く知らずに読んでいたので、途中まで、なんか古典部シリーズに似て
いるなぁ、と思っていたが、実際にもともとは古典部シリーズとして執筆された
とのこと。
全面改稿されて生まれた大刀洗万智というキャラクターが強烈な印象を残す。



ユーゴスラビアの解体は、私も報道を耳にしていたはずなのだが、遠い外国の
こととしてスルーしていた。
今のシリア難民についてスルーしているのと同じである。


行ったこともない国で他人がどうなろうと、ほとんどの人は気にも留めない。
ところが、マーヤという架空のキャラクターを作っただけで、ユーゴスラビア
どうなってしまったのか、地図を見ながら夢中になって小説を読んでしまう。


人間のそういう残酷さを指摘されたような気がする。


私は推理小説が苦手なので、この作品の謎解きについてはうまく評価できない。
それよりもキャラクターの造形力に唸るしかない。


考えてみれば、ユーゴスラビアから来た少女が(おそらく)岐阜の小さな街で
雨宿りしている、というのが嘘くさいのだが、そこを虚構と感じさせないような
導入と人物像で、読者をみるみるうちに小説の世界に引き込んでいく。


高校生が飲酒喫煙するような場面があるので、学校は推薦してくれないと思うが、
学生が読むのにぴったりな一冊だと思う。


10年後の大刀洗万智が登場するという「王とサーカス」は、文庫になってから
読んでみよう。