ある誤報

ウィキペディア日本語版に犯行予告(ママ)が出た、という誤報記事の話。

追記: なお私はかつてウィキメディア広報委員会のボランティア・メンバーで日本語メディア対応も一部は担当していたのだが、現在はやめている。以下はまったく一個人のウィキメディアプロジェクト参加者・日本語マスコミの一読者として考えたことのみを書いたにとどまる。なお当時、毎日新聞社の方から接触をいただいたことはない。メディア対応に関わっているボランティアは他にもいるので、そういう人はあるいは取材を受けたことがあるのかもしれないが、聞いていない。であるから、ウィキペディアについて毎日新聞がどういう認識をお持ちなのか、私には特に判断する材料がない。

事件についてはあちこちに触れられているので簡単に。いくつか見たなかでは、毎日新聞“Wikipediaに犯行予告”と誤報 時刻表示を勘違いか、実は犯行後 - ITmedia NEWSが一番詳しいか。19日未明、厚労省幹部殺害・傷害事件の犯行予告がウィキペディア日本語版*1でなされた、と毎日新聞がネット版と一部紙面で報じた。それは毎日記者の誤解で、毎日が世界協定時と日本標準時を取り違えた(世界協定時+9=日本標準時となる)だけのことであったが、その報道はしばらく公開され、他メディアにも取り上げられた。毎日はしばらくあとに気づいてネット上からは記事を取り下げ、「お詫び記事」を公開した。

 元厚生事務次官の吉原健二さんの妻靖子さんが宅配便を装った男に胸などを刺されて重傷を負った事件について19日未明、「ネットに犯行示唆?」などの見出しで、ネット版の百科事典「ウィキペディア」に犯行を予告するような書き込みがあったと報じましたが、書き込みの時刻は事件前ではなく、事件の報道後でした。おわびして訂正します。

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20081119k0000e040034000c.html

ウェブ魚拓を見ると、その「犯行予告」なるものを投稿した投稿者のログイン名が掲載されている。上記のお詫び記事ではそのことについては言及がない。時刻表記を取り違えたことだけを「お詫びして訂正」している。ほんとうに詫びるべきは、不用意に特定投稿者の名前を掲載したこと、そのことでその方に迷惑をかけたことなのではないであろうか。なお紙面では夕刊にお詫びと経緯が載るといわれている。紙面ではもう少しきちんとした記述がなされることを望む。19:17、19:32 追記。関連記事と「お詫び」。http://www.rupan.net/uploader/download/1227077867.jpg 言葉もない。「犯行示唆」とか相変わらず犯人扱いしていることもすごい――投稿そのものの出典が定かではないとはいえ、もう報道はなされている時期で誰がどこで知ってもおかしくない状況であるのに。だがそれ以上に「するとした」と自社の報道を第三者からの伝聞のようにいうというのは一体いかなる姿勢なのであろうか。

システムの時計が世界協定時であることは一見分かりづらいのだけど、FAQにも解説されていて、まったく隠蔽された情報というわけではない。ていうかサーバの時刻等が今何時だかユーザはいつでもチェックできるので、そこからこれがJSTには設定されていないことを了解するくらいのネットリタラシーを報道関係者諸賢は備えてほしいと市井の一市民として思う。

なお、ウィキメディア財団*2が毎日を訴えるんじゃないか、と考えている人もいるようだが、それはありえないだろうと私個人は予想する。財団はプロジェクトコンテンツの発行者(publisher)ではなくホスティングを行うプロバイダー(provider)であると主張している。ウィキペディアに某人がこれこれの投稿をした、という話は、それ自体では財団とはかかわりがない。だから財団の名誉や信用が毀損されたということにはならないだろう。ハンドルを名差しで報道された方が、どうなさるかはその方の問題でこちらにも財団は関わりない。少なくとも私はそう理解している。

その方の投稿がウィキペディア日本語版の内規的に妥当なものだったかどうかは別に論じられてよいが、しかしそれはコミュニティの問題である。ここで論じることではないと思っている。そして仮にまったく妥当でないとしても、それは毎日の誤報とその影響を相殺するものにはならないだろう。わたし個人としては、その方に対して公開なり非公開なりは問わず毎日が謝罪するといいなあとは思う。

なお、私個人の問題として、ある方が非公開にしていた姓にウィキペディア日本語版のサイト上で言及し、ためにサイト内外で騒動を引き起こしたという事件が昨年あり、それの決着がついているかどうかで私と幾人かの人の間に意見の相違があるのだが、これについては長くなるので近日に項を改めて言及したいと思っている(12/13 追記:エントリをあげました。ウィキペディア日本語版と私 - 鰤端末鉄野菜 Brittys Wake)。なおご本人にはメールと口頭とで謝罪し、受け入れていただいたものとわたくし個人は理解している。なので私の認識としてはこれはもっぱらプロジェクト上の問題解決ということになるが、それをいえば現在は寄付キャンペーンの最中で、プロジェクト内では寄付関係のことどもが自分のToDoリストのなかでは最上位に来るし、個人的にも9月から12月にかけてというのは精神的に自分が一番つらい時期なので、あまり沢山のタスクを消化しきれない*3。落ちついてものごとを考える時間と気力が戻るのは、亡夫の祥月命日(12/21)が過ぎて、というよりは彼の誕生日(同27日)以降になるのかなあ。まあぼちぼちやって行きたいと思います。

一日一チベットリンク亡命チベット人会議が開幕、運動方針の先鋭化も 写真5枚 国際ニュース:AFPBB News、11月17日。

なお本エントリを初め、文中特に記載のないときにはこのブログではJSTを使用しています。

*1:各報道では「ウィキペディア」としかいっていないが状況からウィキペディア日本語版と判断。

*2:ウィキペディア財団ではありません。私もたまに間違えますけれど。

*3:英語エントリを立て続けに投入したのは snake oil 的言説にいらいらして、黙っているよりは書いたほうが精神衛生のためになると判断したからである。やむにやまれぬというやつだな。