戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 発狂オールナイト

去る8月2日、新文芸坐にて開催された「『コワすぎ!』発狂オールナイト」で上映された6作品およびスピンオフ5作品の感想を、今更書いたのでUP。なぜこんなに時間が開いたかというと夏バテで死んでいたからである。
ちなみに全て初見だった。
以下、当日の上映順でお送りします。

戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-01【口裂け女捕獲作戦】 (2012)

監督:白石晃士
脚本:白石晃士
撮影:白石晃士
出演:大迫茂生/久保山智夏/白石晃士/村上ROCK 他


とある映像制作会社に不可解な映像が投稿されてきて、ディレクター・工藤(大迫茂生)とアシスタント・市川(久保山智夏)、そしてカメラマン・田代(白石晃士)の取材チームが投稿者の元に赴く…という、このシリーズの基本フォーマットが、本作では何の前置きもなく、いきなり提示されるのだが、これはもちろん世間におびただしく流通している「心霊投稿ビデオもの」のスタイルを踏襲しているからだろう。この「『ホラー』じゃないよ、『心霊もの』だよ!」と最初にハードルを下げて、この手のジャンルに目がない女子や子供を取り込もうという姿勢に「これまでの白石作品を知らないお客を本気でつかみにかかっているな」とプロ意識を感じてグッときた。
さて、異様なスピードで住宅街を駆け抜ける「口裂け女」の映像が投稿されてきたことから始まる本作は、中盤くらいまでは、工藤が取材を拒んだホームレスにためらいなく暴行したり、ちょこちょこおかしなシーンを挟みつつも「心霊投稿ビデオもの」スタイルに則り続けるのだが、工藤による「口裂け女捕獲作戦」が発動した途端に全く別次元の作品に変貌するので、何も知らずに見たら、呆れるか、笑うか、怒るかのどれかだろう。一作目から既に超自然的な存在に物理的暴力で対抗するという本シリーズ独特のオリジナリティを確立しているのが素晴らしい。また、口裂け女に「座敷女」を思わせるストーカー的な怖さを付加していたのも、まさに21世紀の口裂け女という感じで(すごく怖いという意味で)好印象。
なお、本作上映中、当日のゲストとして来場した大迫氏・久保山氏・白石監督が、それぞれのキャラクターを演じつつ生コメンタリーを付けてくださったのだが、ちょっとセリフが聞き取りにくかった(苦笑)。しかし、投稿者の若者二名のうちの一人・北村(村上ROCK)の髪型いじりに爆笑したし、そもそも多少セリフが聴き取れなくても十分に楽しめる作品だったので全く問題なし!


Kudo’s Secret』(スピンオフ第1作)

製作:曇天小屋
出演:大迫茂生/白石晃士


FILE-01の発売後、カメラマン・田代の部屋にやってきた工藤が、何か秘密を打ち明けようとした途端に出現した「空中に浮遊するもう一人の自分」を見て断念するという内容。この作品を単体で観たら何がなんだかさっぱりわからないが、この後のシリーズを観ていくと腑に落ちます。白石作品に頻出する「何かが突然出現する、あるいは消失する」という表現が持つ不気味さだけを抜き出して提示したような作品。


戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-02【震える幽霊】 (2012)

監督:白石晃士
脚本:白石晃士
撮影:白石晃士
出演:大迫茂生/久保山智夏/白石晃士/はるうらら/清瀬やえこ 他


若い男女四人が廃墟で肝試しをしていて遭遇した“震える幽霊”の映像が、工藤たちの元に投稿されてきて始まる、この作品。はっきり言って、謎の幽霊より、投稿者の男女四人の乱れまくった関係の方がよほどおぞましくかつ不快だったので、工藤が「除霊パンチ(観ればわかります)」かました時にはスッキリした(笑)。
幽霊よりも生身の人間の不気味さをクローズアップして描いた感のある作品だが、クライマックスの東京スカイツリーがらみのシークエンスには震えた。あれでスカイツリーを見る目が変わりました
なお、本作の投稿者たちの中の一人で、幽霊を見た後に失踪した真野夕子(はるうらら)が、FILE-03以降、あんな重要人物になろうとは、本作の時点で誰が予想できただろう(もしかすると白石監督自身も予想できていなかったのではないか)。


『To the Other Side』(スピンオフ第2作)

製作:曇天小屋
出演:清瀬やえこ/久保山智夏


FILE-02の完成後、投稿者の一人・上村早苗(清瀬やえこ)から新しい情報があるからと、部屋に呼び出された市川。突然、レズビアンであることを匂わせて市川に迫り、拒否されると手首を切ると脅す上村を市川は敢然としてはねつける。緊迫した二人だけの密室劇は、最後に何とも言いがたい空しいエンディングを迎える。FILE-02でも語られた「人間の持つ不気味さ」が端的に表現されている。


『GOOD-BYE』(スピンオフ第3作)

製作:曇天小屋
出演:村上ROCK/河村はるか


FILE-01の投稿者・北村一史(村上ROCK)とFILE-03の投稿者・佐藤有里(河村はるか)がFILE-03以前に体験した怪現象を描いた作品。二人は友達なのだが、佐藤の方が地方へ引っ越す事になり…という、01と03を繋ぐ内容。まさかの北村の●●化に驚愕しつつ、ちゃんと怖いのに感嘆。それにしても「コワすぎ!」の投稿者は皆、悲惨な運命をたどることになるようである。


戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-03【人喰い河童伝説】 (2013)

監督:白石晃士
脚本:白石晃士
撮影:白石晃士
出演:大迫茂生/久保山智夏/白石晃士/河村はるか/石川ゆうや 他


FILE-02のラストで昏睡状態となった工藤が入院中のある日、ある池で釣りをしていたカップルが撮影した、河童を思わせる生物の映像が投稿される。工藤が不在のまま、市川は、田代・投稿者のカップルと共に問題の池へ取材に向かう…。
河童というと何かのんきな雰囲気があるが、本作では従来の河童観を覆す凶暴なUMAとしての河童像を提示。正直、「とは言ってもカッパだろ?」となめてました。すみません。本作のカッパ、超こわい。また、劇中、市川が河童に高速でひきずられながら撮った、斬新なPOV映像には驚かされた(どうやって撮影したのだろう?)。
さらに本作では、これまで粗暴一直線の男として描かれていた工藤が、河童に娘を殺された男・鈴木(石川ゆうや)と友情を結ぶという「熱い」展開もあり、否が応でも盛り上がるのだが、それだけにインスマウスの影」を想起させるイヤなラストにダウナーな気分になることは必至。


『Mystery Man』(スピンオフ第4作)

製作:曇天小屋
出演:大迫茂生/村上ROCK


ある休日、競馬でスッて、昼間から酒を飲んでいる工藤が公園に座り込んでいると、謎の男が近づいてきて「お前は人殺しだ」などと繰り返し囁く。顔が映らないので誰かはわからないが、工藤が「コワすぎ!」で超自然の存在を追求すればするほど、周囲に犠牲者が出ていることは、これまでの作品を見れば明らかなので、その中の一人なのかもしれないし、あるいは工藤の妄想かもしれないとも思わせる。いずれの解釈にしても「気が狂う」とは、こんな体験なのではないかと想像させる、恐ろしく不気味な一篇。


戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-04【真相!トイレの花子さん】 (2013)

監督:白石晃士
脚本:白石晃士
撮影:白石晃士
出演:大迫茂生/久保山智夏/白石晃士栗原瞳 他


今回、投稿者から届いた映像には、廃校のトイレから出現した「トイレの花子さん」を思わせる何者かが映っていた。工藤はいつものメンバーに霊能者・真壁栞(栗原瞳)を加え、投稿者の元へと向かう。投稿者の少女に死が迫っていることを察知した真壁は全員で問題の廃校に行くことを指示する…。
さて、一作ごとに、白石監督が新しい挑戦を己に課している(としか思えない)このシリーズ。本作ではなんと、某名作SF映画のネタをPOVで敢行。「ここからはノーカットでお送りします」とテロップが出た後の怒涛の長まわしが凄すぎる。この撮影の段取り、想像しただけで複雑すぎて発狂する。日本の、いや世界のPOV映画史に残る快挙だと真顔で言います。
また、本作ではついに、これまで工藤たちが追ってきた怪奇現象の背景に存在していた「異界」がその姿を明らかにする。まさにシリーズの中で重要な位置を占める作品。


『Her Brother』(スピンオフ第5作)

製作:曇天小屋
出演:久保山智夏/関口崇則/大迫茂生


市川が、久しぶりに兄(関口崇則)の部屋を訪ねてみると、家具が何もない部屋に兄がいて、いきなり仕事を辞めろと命令される。完全に人が変わってしまったような兄に反発して市川は部屋を出る。その直後、兄は「もう一人の工藤」によって「消される」…。市川の兄貴の異様っぷりに、FILE-04で存在が明らかになった、現実を侵食しようとする「異界」の影響を感じるのは僕だけではないと思う。そして工藤の「秘密」が「異界」に大きく関係していることも暗示されている、スピンオフ中の最重要作品。


戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 劇場版・序章【真説・四谷怪談 お岩の呪い】(2014)

監督:白石晃士
脚本:白石晃士
撮影:白石晃士
出演:大迫茂生/久保山智夏/白石晃士/宇賀神明広 他


FILE-04での体験を経て、「異界」の存在を確信せざるを得なくなった工藤たち。そこへ「四谷怪談」を扱った映画に写りこんだ幽霊を捉えた新たな投稿映像が送られてくる。また、その映画の主演女優が音信不通となっているという。工藤たちは、その女優の家へと向かう…。
本作では、ついに市川に「異界」の魔の手が伸びる。悪霊に憑かれた市川の除霊を試みるのは、あの傍若無人な工藤にさえ「あの態度は何だ!」と言わしめる、尊大すぎる「浄霊師」・道玄(宇賀神明広)。そして彼による除霊シーンが、なんとエクソシスト2』へのオマージュ! ここで喜ぶのは中年のホラー映画ファンだけ!
また、劇中で語られる「四谷怪談」の新解釈にも思わず唸らされる。これで喜ぶのは中年のホラー映画ファンに限らないだろう。FILE-01から伏線として引っ張ってきた「呪術」と「鶴屋南北」をああいう形で結び付けるとは…。これぞセンス・オブ・ワンダーですよ!
あと、印象的だったのは、音信不通になった女優の家でかかっていた曲(北村早樹子)。これがいい感じに不気味で良かったです。
「劇場版・序章」というタイトルどおりの内容ではあるが、「四谷怪談」を新しい解釈で語り直した作品として観ても楽しめる佳作。


戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 史上最恐の劇場版(2014)

監督:白石晃士
脚本:白石晃士
撮影:白石晃士
出演:大迫茂生/久保山智夏/白石晃士/宇賀神明広/小明金子二郎/大畠奈菜子/金子鈴幸 他


様々な都市伝説・怪奇現象を取材してきた工藤たちの元に、“タタリ村”と呼ばれている廃村に入り込んだカップルが撮影した衝撃的な映像が投稿される。工藤たちは浄霊師・道玄(宇賀神明広)、物理学者・斎藤(金子二郎)、アイドル・小明と共に「コワすぎ!」劇場版の撮影を兼ねた“タタリ村”の調査に向かう…。
本作では、工藤たちと「異界」の勢力がついに最終決戦を迎える。それと共に工藤の秘められた過去と、彼が抱えていた「秘密」も明らかになる。
具体的に書くと、工藤の過去とその「秘密」に関して、渡辺文樹の作品を思わせる、旧日本軍が絡む大掛かりな陰謀の存在が発覚し、途方もない大風呂敷が広げられるのだが、これを受け入れられるか否かで、本作の評価は変わってくるだろう。僕はといえばもちろん「有り」である。
工藤は、この陰謀によってあまりにも哀しい運命に呪縛されることになった。それはあまりにも絶望的かつ絶対的で、到底人間には抗うことなどできないと思わせるものである。しかし、だからこその「運命に逆らえってな!」なのである。この台詞によって、本作は単なるホラーではなく、様々な逆境で戦う人々に勇気を与える素晴らしい人間ドラマとなったと思う。
「神」に金属バット一本で戦いを挑む工藤に、低予算にめげずに戦う白石監督がオーバーラップしました。


『コワすぎ!』シリーズとは何なのか?

思うに、自分のやりたいことを一切曲げずにポピュラリティを獲得する方法論を白石晃士は、このシリーズでついに確立したのだ。
それはノロイ」から始まる白石流フェイク・ドキュメンタリーの流れに「暴力人間」的キャラクターを投入するということである。
人間の論理が一切通用しない異世界からの理不尽な侵略に、論理ではなく直感によってしか動かない動物的な人間が物理的暴力で立ち向かう姿が爽快な化学反応を引き起こす。これによって「恐怖」と「笑い」という本来両立しえない要素がきっちり両立する奇跡の作品群が誕生したのである。
…それにしても、監督・脚本・編集・VFX(!)おまけにパンフまで自ら制作ってどんだけ多才なんだ。この才能を邦画界が活かせないのなら、本当に海外に行った方がいいと思う。世界で勝負できる人だと思ってます(上から目線ですいません)。