フランソワ・ドマ著「エジプトの神々」を読む(6)

 オシリスは大地の神ゲブを父として、天空の女神ヌゥトを母として、生まれました。さて、古代エジプトの暦は一年を365日としていましたが、それは30日からなる月を12ヶ月数え、それに残りの5日を足して出来た暦でした。この残りの5日に、天空の女神ヌゥトは1日に一柱ずつ、子供を産みました。最初の日にはオシリスを、二日目にはハロエリスを、というふうに、以下、セト、イシス、ネフテュスを産みました。オシリス、ハロエリス、セトは男の神で、イシスとネフテュスは女神です。




白い帽子をかぶり椅子に座っているのがオシリス。その後ろに立っているのがイシスとネフテュス


 長ずるにおよんでオシリスはイシスを、セトはネフテュスをそれぞれめとりました。オシリスは王となって、人々に耕作を教え、法を定め、神々を敬うことを教えました。つまりは人々に文明を教えたのです。一方、このような目覚しい功績を上げることが出来ないセトは、オシリスを妬んでいました。そこで、セトは共犯者たちの手を借りて、奸計をめぐらしました。セトはひそかにオシリスの身体の寸法を計り、その寸法にぴったりの、美しく、見事に装飾をほどこした箱を作り、それを広間の宴席に運び込みました。そしてセトが言うのは
「どなたでもこの箱の中にお休みになって、お身体が箱にぴったり合う方がいらっしゃいましたら、これを進呈いたしましょう。」
と、こんなことを言いました。そこで人々が代わる代わる試してみましたが、誰もうまく合いません。最後にオシリスが箱の中に入って横になりました。するとセトの共謀者たちが駆け寄って、箱に蓋をかぶせ、外からボルトを打ち込み、熱く溶かした鉛をその上にかぶせて密封し、そのままナイル川へかついで行き、川に投じてしまいました。全てはあっという間の出来事でした。
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セト




イシス


 途方にくれたイシスは全土をさまよい、会う人ごとに声をかけ、箱のことを知らないかと尋ねました。一方、オシリスを閉じ込めた箱はナイル川から地中海に出て、そこから東に向かい、今のレバノンにあった古都ビュブロスの浜辺に打ち上げられました。すると、不思議なことにその箱のそばからエリカの木の芽が生え、またたく間に伸びて堂々とした若木になり、中に箱を包み込んでしまいました。その木の立派さに感銘を受けたビュブロス王は命令を発してその木を伐採させ、中にオシリスがいるのに気付かずにその木の幹を切って、王宮の屋根を支える柱にしました。やがてイシスはそのことを知り、ビュブロスにたどり着きました。そして王宮に神として現れ、王と女王に対して「我に屋根の下なる柱を与えよ」と言うやいなや、いとも容易にその柱を引き抜き、中からオシリスの棺を取り出したのでした。(ここに伝えられていない神秘な事情があり、イシスはオシリスの子を身ごもったらしい。やがてイシスは息子ホルスを産む。)
イシスは夫の死体をエジプトに持ち帰ってブゥトにこの棺を隠しました。しかし、月の光の下で夜狩りをしていたセトが偶然オシリスの死体を見つけました。セトは、これを14の断片に切断してナイル河に捨ててしまいました。それを知るとイシスは、パピルスの舟に乗って沼地を渡って探し回りました。一片一片探し回ったイシスは、一片見つけるごとにその場所に墓を建てていきました。こういう次第で、エジプトの各地にオシリスの墓があることになったのでした。イシスは最後に全ての断片を集めることが出来、妹ネフテュスとともに魔術によってオシリスを復活させたのでした。オシリスは冥界の王になりました。一方、ホルスのほうはセトに復讐の戦いを仕掛けて勝利し、エジプトの王になりました。
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箱の中に寝ているのがオシリス。左側に立っているのがイシス。右側がネフテュス

さて、フランソワ・ドマの「エジプトの神々」の記述に戻ります。

しかし、オシリスは、イシスが君臨していた小島フィラエの真西、ビゲーすなわちギリシアアバドンに墓を一つもっていた。


フランソワ・ドマ著「エジプトの神々」より

ビゲーもナイル川の中にある島です。このビゲーにはオシリスの「ふくらはぎ」が祭られていたということです。「すなわちギリシアアバドンに」というのは、おそらくビゲーがギリシア語ではアバドンと呼ばれるという意味だと思います。ちょうど「アブー」をギリシア人たちが「エレファンティネ」と呼んでいたようにです。しかし、英語のWilipediaで調べてもビゲーがギリシア人たちにアバドンと呼ばれていたという記事が見つかりませんでした。