ニューラル・コーディング(3)

3.2 時間コーディング

スパイクの精密なタイミングや高頻度の発火レートのゆらぎが情報を運んでいるのを見つけた場合、ニューラル・コードはしばしば時間コードと同定される。ニューラル・コードの時間解像度はミリ秒程度であり、スパイクの精密なタイミングはニューラル・コーディングの顕著な要素であることを示していると、多くの研究が明らかにしている。
ニューロンは雑音かもしれないし情報を運んでいるかもしれないような、発火レートの高頻度ゆらぎを示している。レート・コーディング・モデルはこれらの不規則性は雑音であると示唆するが、時間コーディング・モデルはそれらが情報を符号化していると示唆する。仮に神経系が情報を運ぶためにレート・コードだけを用いているとしたならば、より一貫した、規則的な発火レートが徐々に有利になり、ニューロンは他のより安定性の少ない選択肢よりこのコードを利用したことであろう。時間コーディングは「雑音」についての別の説明を提供し、それは実際に情報を符号化し、ニューロンの処理に影響を与えていることを示唆する。この考えをモデル化するために2進コードをスパイクを示すために用いることが出来る。すなわち、1をスパイク、0をスパイクなし、とする。時間コーディングは系列000111000111を001100110011とは異なる何かを意味することを許容するが、平均発火レートは両者の系列で同じ、6スパイク/10msである。最近まで科学者は後シナプス電位パターンの説明として大部分がレート符号化を強調してきた。しかし、脳の機能はレート・コーディングだけの使用が許すと思われるよりもより時間的に精密である。言い換えれば、レート・コードがスパイク列の可能な全ての情報を捉えることが出来ないために、本質的な情報は失われているであろう。さらに、類似した(しかし同一ではない)刺激の間では、スパイクの個々のパターンはレート・コ−ドが含むことが出来る量より多くの情報を含むことを示唆するのに充分なくらい応答が異なっている。
発火レートでは記述出来ないスパイク活動のそれらの特徴を時間コードは採用している。たとえば、刺激の始まりのあとの最初のスパイクや、ISI確率分布の2次以上の統計モーメントに基づく特徴や、スパイクのランダム性や、精密にタイミングの合ったスパイクのグループ(時間パターン)が時間コードの候補である。神経系には絶対的な時間基準がないので、情報はニューロンの部集団内のスパイクの相対的なタイミングによって、あるいは進行中の脳波に関連して運ばれる。ニューロン振動の存在を考慮しての時間コードの符号化のひとつの方法は、振動サイクルの特定の位相で発生したスパイクが後シナプスニューロンを脱分極するのにより効果的であるということである。
刺激が引き起こしたスパイク列、すなわち発火レートの時間的構造は刺激の力学とニューロンの符号化過程の両方によって決定される。たとえどんなニューラル・コーディング方針が用いられていても、迅速に変化する刺激は精密にタイミングの合ったスパイクと迅速に変化する発火レートを生成する傾向にある。時間コーディングは刺激の力学からだけでは発生しないが、それにもかかわらず刺激の性質に関係する、反応における時間的精密さを参照する。刺激と符号化の力学の間の相互作用は、時間コードの同定を困難にしている。
時間コーディングでは学習は、活動依存シナプス遅延の変更によって説明出来る。この変更自身はスパイク・レート(レート・コーディング)だけでなくスパイク・タイミング・パターン(時間コーディング)にも依存し、つまり、スパイク・タイミング依存可塑性の特殊な場合であり得る。
時間コーディングの問題は独立スパイク・コーディングの問題と別であり独立している。もし個々のスパイクが列内の他の全てのスパイクと独立であるならば、ニューラル・コードの時間的特徴は時間依存発火レートr(t)の振る舞いによって決まる。もしr(t)が時間の経過においてゆっくり変化するならば、そのコードは通常レート・コードと呼ばれ、もしそれが素早く変化するならば、そのコードは時間コードと呼ばれる。