公租公課負担率

日本人は平均して、どの程度の税金や社会保障費を払っているでしょう?

額面の所得に対する税金や社会保障費、すなわち“公租公課”の割合を、国民負担率といいます。

これが今いくらか、そして、政府の将来目標値がいくらかご存じでしょうか。

現時点で、日本の国民負担率は約 40%です。
(将来の税金となるであろう国の借金を含めると 48%です)

ちょっと信じられないくらい高いと思いませんか? 

でもこれで驚いててはいけません。政府の目標は 15年後の公租負担率を 60%以下に抑えること、なんです。

皆さんよくご存じのように、政府の公約とか目標なんて達成された(る)ことはあり(え)ません。

60%って、1000万円の年収の人の手取りは 400万円になるってことです。

(所得税の負担率は累進的ですので、平均所得より所得の多い人は、これより高い負担率となります)


俺は今そんなに払ってないぞ、という方もあるでしょう。

実際、日本の課税、社会保険はとても累進的(社会主義的)なので、扶養家族(専業主婦の奥さんとか未成年の子どもとか)がいると、350万円くらいの年収まで、ほとんど税金がかからなかったりします。

単身者と年収の高めの人の負担率はその分高くなってるってことです。

もうひとつの特徴は、なんだかんだいっても日本の報酬体系は、まだとても年功序列的である、ということ。

「俺の給与は低いから関係ない」という方も、年齢があがると年収が上がるようになってます。

年をとって年収が上がりはじめても、公租公課負担率が急激にあがりはじめ、手取りは全くあがらないということに(その時になって)気がつきます。

まあ、こういう累進的な賦課方法は今後は変わっていくでしょう。年収が低い人からもきちんと徴収しないと持たなくなりますから。


★★★


「えー! 国民負担率 60%以上になんてならないだろ〜?」と思いますか。いいえ、とっても現実的な数字です。

だって、既にドイツは 60%、フランスは 70%なんです。

米国以外の先進国にとっては、それしか方法はないのです。ちなみに、米国は現在でも先進国の中で圧倒的に低い 35%くらいじゃないかな。国の借金分いれても 37%くらいでしょう。

イギリスは日本と同じかちょっと高いくらい。

ちなみに、現在の日本の 48%の内訳は、国税(所得税とか法人税とか消費税)14%、地方税(住民税、事業税、固定資産税、自動車税など)10%、社会保障費(年金とか保険料)16%、これに借金分が 8 - 9%です。

日本は、税金の比率が低く、社会保障と借金分の比率が高いのが特徴です。

だから、政府はすぐに「先進国の中で、日本の税金はまだまだ低いのだ」という「だましの議論」を持ち出してきます。手取りに関係あるのは税金だけではないので、この議論にだまされてはいけません。


日本の有権者の皆様。私たちには下記のチョイスがあります。

(1) 米国型社会を目指す
(2) 欧州型社会を目指す
(3) 米国型でも欧州型でもない、日本型を目指す。

(3)と答えた方は、どうぞそれを具体的にお示しください。私は (1) か (2) しかないと思ってます。日本型があるとしたら、(1) と (2) の中間地点のどこか、ということでしょう。


(1) とはどういう世界か
・社長と平社員の給与格差は数百倍
・負け組は、医療保険も持てず、病気になったらホームレスになる可能性大
・社会階層がより固定的、明確に分離。お金持ちの子は高学歴、お金持ち。
・給与は成果主義。年齢は無関係。解雇のリスク、勤務先の倒産リスクはすべての人にあります。
・ただし、国民負担率は低いです。給与が高くなれば、手取りものびます。


(2) は上の裏返しとお考えください。まあ、今の日本と同じです。現状維持ってことです。その代わり、国民負担率は、60−70 %になります。


私はどっちでもいいです。いずれにせよ、そんなに長く働く気がないんで。

でも、若い人はもし (1) を希望するなら選挙に行った方がいいです。放っておくと、基本的には日本は現状維持で (2) の道を進みます。

でもたぶん今の日本では、(2) でいいよ、と思う人の方が多そうに見えます。多数決(選挙)とったら、(2) になるかもしれませんね。

まあそれは国民のチョイスなんで、いいと思います。政治ではアメリカ追随ですが、経済では欧州型になるってことですね。

というか、アメリカのようなやり方をまねられる先進国はない、という人もいます。あれは特殊なモデルだと。基本は先進国はみんな欧州型になる、ということでしょうか。


★★★


ところで、イチローが今住んでいるワシントン州シアトルというところは、個人の所得税がありません。(まじ??)

イチローの年収いくらか知りませんが、彼は個人での所得税を払ってないと思います。松井選手のいるNYは所得税はありますが、日本で稼ぐより、かなり手取りは多くなっていると思います。

オーストラリアかニュージーランドか忘れたけど、相続税がほとんどかからない地域があります。日本の「超がつくお金持ち」の方々は、そういうところに沢山不動産とかを持っています。

そうしないと子どもに譲れないからです。ホントのお金持ち(資産で 10億円以上、フローで年収 数億円以上)であれば、結構いろんな工夫ができるというわけです。

この増税議論の嵐の中で、日本では相続税はどんどん下がっています。相続税は、今日本で唯一下がっている税金です。これは、相続税を払う人というのは、基本的にお金持ちであるということ。(資産 1億円以下なら、ほとんどの場合相続税なんて関係ないです。)

お金持ちは、資産を海外逃避させることができる。んで、日本の国税当局は“やばい!”と思い始めています。

だから日本の相続税をどんどん下げているのです。海外逃避するにはそれなりにコストがかかる(海外の弁護士費用とか)。このコストを考えたら、資産を海外に持って行くメリットが感じられない、というレベルまでは、日本の相続税を下げなくちゃ!と考えたからです。


個人の所得税や企業の法人税もそういうことが起こる可能性は十分にあります。

高額納税者となって大きな話題になったタワー投信のファンドマネジャーは、株の売り買い自体はシアトルから電話とパソコンでもできるでしょ。向こうに居住すれば、あんな大騒ぎに巻き込まれなくて済みます。っていうか、手取り倍増です。

企業だって本社を海外に、と思う企業がでてきてもおかしくありません。大企業は無理でも、少数のプロフェッショナルがすごい稼ぐ、というタイプの会社は検討を始めても不思議でないでしょう。

これは何を意味するか?

相続税と同じ事が、高所得者向けの所得税と、法人税について起こり始める、ということです。

今は相続税対策の資産海外逃避しか起こってないですが、もしお金持ちと企業が海外逃避を始めたら、政府はこの層に対する税金を下げざるを得ません。

そうするとそのしわ寄せはどこにくるか。低〜中所得者の個人にかかってくる、および、とりっぱぐれのない消費税にかかってくる、ということです。


低〜中所得(年収 800万円以下)の人の負担率は、ますます上がり始めます。

消費税もあっという間に 15%くらいになるでしょう。これは避けられません。上の (2) を選ぶ限りはね。国民負担率は、ドイツやフランスみたいに、70%になっていくのです。

ドイツやフランスでは、企業はそれに対する防御手段をとっています。高い給与をもっと高くするよりは、給与を一定限度で抑えて経費をふんだんに使わせる方が、社員の手取りが高くできます。

高い給与をもらう人は、社用車とか仕事用の携帯電話、会社で無料でだされるランチとかのメリットを得られます。

年収が 2000万円くらいを超えてくると、会社は次の 500万円を現金ではなくこういう余禄で支払い始めます。社員もその方がいいからです。


つまり、高所得者からの徴収を高くするのは難しいのです。高所得の人は、企業も個人も工夫ができます。国はそれを防ぐために、高所得系の人、会社からの税率を上げることができなくなっています。

実際に近年の税法改正では、所得税率の所得区分が、どんどん減っています。

所得区分の数を少なくすることによって、最高税率に近いところ(超高所得者向けの実質的な税率)を上げずに、その下の層の税率を上げられるからです。

日本はこれまで、超社会主義的な経済体制でした。中国より社会主義的である、という逆転現象が起こっていました。

でも、これはどんどん是正されます。高所得者やお金持ちからこれ以上、お金を徴収することが難しくなってきたからです。

共産主義の国みたいに、海外取引や渡航を禁止しない限り、彼ら向けの税金はこれからは「相対的に」低くなる方向にいきます。

どこにしわ寄せが来るか。とても明確です。


長くなったので続きはまた明日。
大変な世の中です〜



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