ちきりんは、いつ社会派になったのか?
このことについては明確な記憶があります。それは6才の時でした。
自宅の郵便受けに届いた一枚の葉書を母が見せてくれたのです。「ちきりん、来年の4月から小学校に行きなさい、って市役所から葉書が来ているよ」って。
今もそーなのか知りませんが、当時、私の住んでいた町では、義務教育年齢に到達した子供のいる家にそういうお知らせ葉書が届けられていたのでした。
そしてそれは、私にとってまさに“衝撃”でした。
なんで?
なんで、市役所が、「ここに、ちきりんという子がいて」「その子がもうすぐ6才になると知っているの???」と。
だってすんごい不思議じゃないですか?
自分が6才になることを、親が知っているのは当たり前、おばあちゃん、おじいちゃんもそれを知っていてランドセルを買ってくれる、これもあたりまえ、自然なこと。
でも、でも、でもよ。
「なんで、市役所がちきりんのこと知ってるの???」
「それって誰?」
「市役所って誰?」
私はこの件で1週間くらい母を追いかけ回して質問し続けており、母は最初こそ説明してくれていたものの、そのうち「いーかげん、ややこしい子やな」という感じになってました。
私はそれほどひつこく質問していたし、それほど、大きな驚きを感じていたのでありました。
★★★
ちきりん「なんで、市役所が知ってるの?」
母「あんたが生まれた時に、市役所に届けたからよ」
ち「なんで届けたの?」
母「届けることに決まっているのよ」
ち「なんで、決まっているの?」
母「法律があるのよ」
ち「法律って何?」
母「みんなが守る国のルールよ」
ち「なんで、そんな法律があるの?」
母「どこに何人子供がいるか、わかんないと困るでしょ」(うざい子供だな、我が子ながら・・)
ち「なんで困るの?」
母「あっち行きなさい! ママは忙しいのよ」
★★★
翌日の朝
ち「ねえねえ、市役所は、ちきりんが6才になったのを、ちゃんと数えていたの?」
母「早くご飯食べなさい」
★★★
その日の昼
ち「ねえねえ、市役所って誰?」
母「パパが働いてるとこよ」
ち「パパが働いてるから、ちきりんが6才になったのを知ってるの?」
母「そのセーターほつれてるから脱ぎなさい。直してあげる」
★★★
その日の夜
ち「ねえ、ねえ、ちきりんが生まれた時、なんて届けたの?」
母「ちきりんが生まれました。女です。って届けた。」
ち「それだけ?」
母「それだけ」
ち「次はいつ届けるの?」
母「ん・・・・死んだ時」
ち「誰が届けるの?」
母「・・・自分で届けなさい。」
ち「えっ?」
母「歯磨きしたの??」
★★★
ほんとに不思議でした。
なんで、市役所ってところが、どこでなんて名前の子供が生まれたなんてことを知っている必要があるのか、皆がそんなルールをちゃんと守っているのは何故なのか、
しかも生まれてから何年もたってから「学校行きなさい」と言ってくるのか。誰が、6年間もの期間、それを数えているのか。
いったいなんのために?
これが、ちきりんが「社会」ってものに関心をもったきっかけであり、大学で法学部に進んだのも、これがスタート地点になっています。
「世の中は法律で動いている」・・市役所からの一枚の葉書でそう信じた私は高校生になった時、「社会の仕組みを学ぶために法学部に行こう!」と考えた。
小さい頃の経験って、大きい。
★★★
しかし・・・大学進学後、私の考えは大きく変わります。「世の中、法律なんかで動いてないな。嘘っぱちだな」
小学校高学年くらいの時、毎日1時間もかけて新聞を読んでいた「プチ社会派ちきりん」は、世の中の欺瞞に気がつき始めます。
新聞の書いていることはきれいごとばかり。現実に大きな問題になっていることでも、ややこしい問題には一切触れていない。
紙面で男女同権をうたいながら、女性記者なんて全然いない。他にも多くの、身近に存在するいろんな問題を、新聞は全く無視してる。
彼らは書けることだけを書いている。書くべき事を書いているわけじゃない。・・・「世の中は嘘が多い」「法律なんて守られてないじゃん」「法律なんて守られてないなら・・・」
世の中は何で動いているの?
大学生になった頃、その答えが見えてきました。
世の中は・・・「金で動いている!」
時代はバブル。
ものすごい大きな動きを感じました。どんどん町並みが変わり、信じられないような高額で(中身のない)消費が行われ、たかだか学生の分際でパリだのNYだのに出かけてしまえる。
「なんじゃ、この世の中は?」と思いました。
「マンション買ってあげるよ」とこともなげに言うおじさまが現れる。(買ってもらっておけばよかった・・)ちょっとお酒をつぐだけで一万円札のチップがもらえる。
まじ???
まじ、まじ、まじ?
世の中はすべてがお金で回っていると思えました。
そう考えた「ちきりん」は金融業界に就職するのです。
★★★
長くなるから終わりにしますが、「市役所の葉書→法学部へ進学」「バブルのおじさま→金融業界へ就職」という、かなりシンプルかつ明確なきっかけによって、ちきりんの最初の 20年の人生は規定されていたのです。
でもこれって、皆同じだと思う。
ちきりんにはキモいとしか思えなかったカエルの解剖に感動した子が医者になっているのかもしれないし、星は何個あるの?とか思った子が、宇宙物理学科に進んだのかもしれない。
先生が大好きだったから、と、先生になった人も多そうだ。なんらかきっかけがあり、それぞれの人生が始まる。
人生、いろいろ