あの時代と同じ構造

ミャンマーの事件、いろいろ考えてしまう。理由は、自分が訪れた時の記憶がそれなりに鮮明な国だから、というのと、この前、下山事件の本を読んだから。

下山事件と何の関係が?と思われるかもしれませんが、時代が一緒なんです。あの時代、1950年くらいに日本で起こったことと今ミャンマーで起こっていることって、基本的に同じ構造なんだよね。

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ビルマはイギリスの植民地でした。首都の建物もイギリス諷のものが多いです。また、20年前にちきりんが訪れた時でもTOEFLの練習本が売られているなど“英語宗主国”の名残の強い国でした。

戦後、列強の植民地であったアジアの国々は、一斉に“民族独立”します。敗戦国日本から独立した朝鮮もそうだし、列強がとりあっていた中国もそう、フランスのベトナムも。そしてビルマもイギリスから独立した。

ほぼ同時に、東西冷戦が始まります。これら独立したばかりのよちよち歩きの国を、「どちらの陣営に引き入れるか」、別の言い方をすれば、親米政権=反共政権を作るか、反米政権=共産政府を作るか、というのが、英米とソ中の最大の関心事でした。

そんな中で朝鮮もベトナムも南北で取り合いになり、国土は焦土と化した。中国も海峡を挟んで大陸と台湾にわかれ対峙することになりました。

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地理的に中国、ソビエトに近いと親共産主義政権=反米政権が勝ちやすく、ラオスもビルマもベトナムも社会主義政権になりました。米国はベトナムを死守しようとしたけど、ご存じの通り泥沼にはまり撤退を余儀なくされた。

だから米国はラオスやビルマに兵を送って直接支配をしようとはしなかったけど、水面下では、どこの国においても、ひつこく「反政府勢力」を支援してきた。この反政府勢力というのが、ビルマではアウンサンスーチー氏などのグループです。

圧倒的な財力で反政府グループを支援し続ける米国側の主体がCIA。このCIAのミッションというのは“地球上から共産主義者を抹殺すること”です。そして世界中の国に、親米的な政権を樹立することです。

そして、これが“下山事件”とつながるわけ。

岸信介を巣鴨から釈放して公職に復帰させるのも、アウンサン一家を支援するのも、CIAの本来業務ということです。極東政策、という分野のね。

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基本的に共産主義体制を選んだ国々は皆苦労した。なんたって親分が失敗しちゃうわけだから、子分の国々はどーすりゃいーのよ、という感じだ。その中で、中国やベトナムのように“開放政策”で巧く乗り切ろうとしている国もある。キューバやミャンマーのように、経済成長を諦めて閉じこもる国もある。

今回のミャンマーのデモの報道で、とても本質的な一言がある。それは「石油価格の暴騰などに抗議した市民のデモが始まった。」と報道されていること。これは、何気ない言葉ですが、極めて重要。

例えば、日本の昔の学生運動であるとか、そこから15年くらい遅れて起こっている韓国の学生運動とかは、すべて「権力への抵抗運動」です。別に狂乱物価に怒ってデモをしたわけではない。昔の米騒動とは違います。これらの運動は「独裁政権」や「強権政治」「政治の横暴」に対しての抵抗運動でありデモだった。つまり、まさに「民主化要求デモ」なんです。

一方、今回ミャンマーで起こったのは「反政府運動」でも「軍事政権に反対するデモ」でもありません。石油価格の高騰に生活を圧迫された市民を僧侶が支援した「生活デモ」です。「米騒動」です。

石油の価格が安定していたら、彼らは今の政権でもなんでもいいんです。デモは起こっていなかったでしょう。


これは大きな違いです。市民は軍事政権を倒すために立ち上がったのではなく、生活が苦しくなったので立ち上がったんです。問題は、政権の成り立ちや政治のやり方ではなく、経済運営の失敗にある、ということなんです。

しかし普通に考えて、西側諸国と敵対する政権にとって、このご時世に経済運営に成功するなんて不可能なんです。石油価格はここ数年で5倍になっています。援助無しに最貧国が石油を確保するのは不可能なのに、親分のソビエトは今や共産主義の子分を助ける気などさらさらなく、誰も助けてくれません。

というわけで、彼らに許された途は二つしかありません。市民に困窮を強いても反米政権を維持するか、もしくは、親米政権に鞍替えし、代わりにアメリカから経済援助を受けることです。

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ベトナムでもビルマでもカンボジアでも、そして、昨今の韓国も同じだと思うのですが、この「親米」か「反米」か、ということが、民族主義の思想とリンクしています。

「親米=民族主義を捨て、西側傀儡の政権になる」、「反米=民族の自立」というリンクです。

こう書くと、韓国だのベトナムだのって呑気なこと書いてる感じじゃないですね。日本だってまさにそうでしょ?親米政権というのは、米国におもねる政権であり、民族自立の否定につながりやすいコンセプトなんです。

日本みたいに、それなりの経済力のある国でも「親米」=「アメリカの腰巾着」みたいになるわけで、ビルマみたいな小国にとっては、「親米」=「アメリカの基地提供国になる」以外のなにものでもありません。

それを否定すると、すなわち民族の自立を一定以上重んじると、反米的な政権とならざるをえず、そして、それを支援してくれる国が中国とソビエトしかなかったという時代のために、社会主義的な政権にならざるをえず、また、経済的に封鎖されてしまうために、選挙で政権を選ぶことができなくなる(経済に成功しない政権は選挙では選ばれないので)=軍事政権的な性格にならざるをえない、という順番です。

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今回のデモは「生活苦デモ」です。国際的な格差社会の底辺にいる国が生活のために立ち上がっています。でもこれを「民主化要求デモ」にすり替えたい人達がいます。そして左寄りで反米的な政権をひっくりかえしたいと思っている人がいます。これを“謀略”と呼ばずしてなにを謀略と呼ぶ?という感じです。

しかし、この国が親米政権になるということは、ミャンマーがアメリカの基地になるということです。で・・・それを好ましく思わない国で、最近かなり経済的に潤っている国が、世界には二つあります。

CIAはアウンサンスーチーさんを“水面下”でしか支援しません。自分たちのイメージがよくないことを理解しておりおおっぴらに活動しません。それはもうひとつの陣営の二つの国も同じです。

西側から完全に無視されていた政権が、まがりなりにもこんなに長く崩壊しなかったのはなぜでしょう?当然、“あそこ”と“あそこ”がこの政権を支持していたからです。しかしながら、ここ数年、石油価格の高騰は異常なレベルで発生しました。これだけは、その全額を補填することができなかった、ってことなんでしょう。


ちきりんが恐れるのは、またしても罪なき多くの人達が、大国の領土ぶんどり合戦のために長い暗い戦争に巻き込まれていくことです。この領地ぶんどり合戦は、昔は朝鮮戦争とかベトナム戦争という“わかりやすい形”で行われました。今は「内戦状態のアフガン」とか「治安のひどいイラク」という形で現れます。

これだと、その裏に何の力が働いているかが、わかりにくいです。現在、“民主国家”である西側諸国では、大がかりな“戦争”をすると国内での(自国民の)反戦運動が大きくなりミッションが遂行できなくなっちゃうからです。


アフガニスタンの内戦がこんなに長い間、世界の人達が忘れてしまうほどに長い間とまらないのはなぜでしょう?イラクが平定できないのは、アメリカの軍事作戦のミスだけがその理由でしょうか?

アフガニスタンやイラクの地理的な位置を世界地図でもう一度見てください。この国々を「米軍基地の国」にしたくない国で、最近お金がウハウハある国が、ゲリラ達に、テロ達に、武器や資金を裏で支援している可能性はないでしょうか?CIAがアウンサン一家を支援しているのと同じように・・・

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アフガニスタンにカルザイさんという人がいます。アメリカがアフガニスタンの政権トップに据えたおじさんです。英語を流暢にしゃべる洗練されたこのリーダーは、アウンサンスーチーさんともよく似ています。

日本には天皇家があって本当によかったと思います。軍部も一般民衆も、両方がシンボルとして敬うことのできる象徴が、日本には存在していた。

あの時日本に昭和天皇が存在しなければ、アメリカはマッカーサー撤退時に、カリフォルニアあたりから「日系2世の英語バリバリのエリート日本人ぽく見える人」をつれてきて、日本の首相として据えていたでしょう。

カルザイ氏と同じようにね。韓国最初の大統領の李承晩も同じ。「アメリカの言うとおりにする、アメリカナイズされた、でも、血と外見だけはその国の人」というのを、アメリカから連れてきて大統領にし、ガンガン経済援助して、国民に「ああ、この政権でよかった!」と思わせる。いつの間にか国土は米軍基地だらけになってしまうけれども。

あまりにもワンパターンの国だよね。イラクでは失敗してるみたいだけど。



何を言ってるのかよくわからないって? この本、読んで下さい。この本↓が、ここんとこのちきりんの思考に多大な影響を与えてます。インパクト大!

下山事件完全版―最後の証言 (祥伝社文庫 し 8-3)

下山事件完全版―最後の証言 (祥伝社文庫 し 8-3)