ドラマと現実の交差点

韓国ドラマの“英雄時代”を見てます。全70回の大作で、現代(ヒュンダイ)グループと、サムソングループの創始者の物語です。

英雄時代 DVD-BOX 1

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創始者の二人が子供の頃、つまり日本が韓国を併合していた時代からスタートし、今は朝鮮戦争が休戦になったあたり、のとこまで見ました。歴史の勉強になるいいドラマです。

現代グループは建設と自動車分野で一大財閥になるんだけど、政治やスキャンダルにまみれ、今は一族の子孫がそれぞれ個別企業を分割統治し、財閥としては力が削がれてしまったみたいです。韓国といえば現代、という時代もあったのに、今や(日本語の方の)ホームページでも“財閥の歴史”ページさえ見つけられない。

一方で“泣く子も黙るサムソン電子”を抱えるサムソングループの方は、今は非常に存在感が大きい。こっちは創業者が作った時代よりも、よりグループが発展してるみたい。

ところで今回大統領に選ばれた李明博氏は、現代建設で頭角を現し30代でその社長になっている。30年前に、韓国を代表する財閥の基幹企業で、30才代の社長が誕生しているのだ。しかも、彼にはコネも血縁もなかった。どれくらいこれらの企業が革新的であったか、わかろうというものだ。


ドラマによると、つまり、実際にはどーだかしらんけど、って意味なのだが、現代とサムソンの成り立ちは結構違う。

現代の方の創始者は、今で言えば38度線の北に位置する、つまり北朝鮮側に存在する貧村の生まれだ。彼はソウルにでて立身出世するわけだが、大学はもちろんまともな学校教育は全く受けていない。根性と実力だけでのし上がる。行った学校はソウルで通った経理の職業学校だけだ。

一方のサムソンの創始者は、そもそも比較的裕福な家の生まれで、親からの遺産を引き継いで事業を始める。順調に学校を卒業し、大学は日帝時代の早稲田大学に留学していて、その後何度も日本を訪れる。また、中国を遊学しながら視野を広める。貴族ではないが、かなり裕福な生まれのようだ。

だからか現代の方は、成り上がり的な仕事の仕方だ。自動車業はもともとは修理工場としてのスタートだし、建築業では米軍の仕事を独占受注しながら大きくなるが、賄賂を渡して官吏を巻き込むとか、無茶な入札で仕事を独占するとか、突貫工事で現場の土工を暴力的に酷使しながら実績をあげるとか、かなりリアルに“成り上がり”な様子が描かれている。

学がないから、時代にも翻弄される。日本の支配が終わるとか、戦争で半島がどうなるとか、インフレでデノミがあるとか、サムソンの創始者の方は、そういう流れを半歩先に読みながら事業を進めるが、現代の方はコトが起こってからあわてふためき、でも腕力で乗り切っていく。

サムソンの創始者の方は、たとえば自分の財力で朝鮮王朝の財宝を買い集める。そして言う。「自分がこういったものを集めるのは単なる骨董趣味ではないのだよ。誰かがこういうものを保護しないと朝鮮文化が日本にすべて滅ぼされてしまうからだ」と。つまり、私的に自分の民族の文化品の保存を試みているわけだ。実際、日本軍は朝鮮高麗の壺を惜しげもなく灰皿にしたりしているわけですよ。それを見て、彼は「オレが守らねば」と思うわけです。

彼は自分の息子にも「お茶文化は元々韓国の文化だ。韓国は何千年も日本の兄としてこれらの文化を中国から半島を経て日本に伝えてきたのだ。ここ数十年の国の運営を間違ったために、私たちはすべてを失ってしまったが、韓国の歴史と文化に誇りをもちなさい。」と話し、息子にお茶のたしなみを教える。

早稲田大学の同級生と定期的に連絡をとりながら日本の狂気を見定める一方で、復興期の日本ではその職人の仕事に対する姿勢を見、「朝鮮では誰も彼もが儲かる事業に群がってしまうのに、日本の職人は自分の仕事に誇りを持って、儲けを度外視してよりよいものを作るために丹精を込める。焼け野原になったとはいえ、日本のこの力を見くびっては行けない」などと気を引き締める。

どの分野のビジネスを行うかという選択においても、材料を日本に輸出して儲けるのではなく、朝鮮でモノを作る工場を造らなければ、私たちはいつまでも外貨を失ってしまうだけだ、これではいつまでも日本に追いつけない、等々と考え、砂糖や紡績など、韓国の復興を支える必需品を国内生産するという大義から、投資分野を選んでいく。

つまり、朝鮮の上流階級にいた創始者が、時代の波に翻弄されながらも、常に常に、朝鮮の国士的、リーダー的な視点で事業を展開していく、それがサムソングループだ。

今、このグループの先頭企業が、“半導体”“電子デバイス”という、韓国をまさにグローバル競争の時代に勝者に導くことができるエリアで先頭を走っているというのは、決して偶然とは思えない。サムソングループの起源からみると、必然とも言える分野での成功と、思える。

一方の現代は、貧農出身の学の無い、しかし、根性と喧嘩だけは誰にも負けない創始者が圧倒的に鋭い動物的な“事業のカン”を以てのし上がる。どこに金が集まるかを嗅ぎ分けて米屋、修理工場、建設会社、自動車製造と進んでいく。彼には朝鮮全体がどーのこーのという視点は全くない。「オレは金持ちになる!」というのが彼の唯一の目標だ。儲かりそうな事業をやっていたら自動車と建設だった、ということだ。

彼自身は学校に行っておらずすべて独学だが、彼は自分の兄弟は日本やアメリカに留学させて学をつけさせ、彼らにはいい家の嫁をもらわせたりして閨閥を拡げる。一族を支配する独裁的な権限をもちながら、あくまで“ファミリーメンバー”に事業を任せつつ拡大する。家族ではなく志や能力を共にする仲間と事業を進めるサムソンの創始者とは全くやり方が違っている。“家族しか信じない”現代の創始者の心中が浮かび上がるようなビジネス運営だ。


最初に書いたように、現代グループはこの創始者の時代が終わると政治とスキャンダルに巻き込まれ、グループ各社が分裂解体に向かっていくわけだが、このあたりは上記のような創業者のスタイルを見てるとその背景がよくわかる。

現代という巨大な財閥が、たったひとりの創業者の類い希なる能力とカリスマ性によって維持されていたというのは驚愕に値するが、彼無き後には一気に求心力を失い崩壊していったというのもすごく自然に理解できる。また、政治に翻弄されて激怒した創始者が、だったら大統領になればいいんだろ?というような無謀な選択をするのも、スマートで戦略的なサムソンでは考えられない選択だ。

また、現代グループは北朝鮮に巨額の投資をし、これが財閥の根幹を揺るがす政治スキャンダルや資金難につながっていくわけだが、これもこの創始者の元々のふるさとが北朝鮮側に存在する街である、ということから、その趣旨が必ずしも経済的野心だけではなかったことがよくわかる。(これは初めてわかったよ。)

★★★

というわけで、この英雄時代という韓国ドラマを通して韓国を代表するふたつの財閥の成り立ちを学んでいるちきりんなのでありますが、今日、韓国の大統領選のニュースを見ていて、ああ、この人は現代建設なんだな、とおもったわけです。

新大統領となる李明博氏は、本当に貧しい家の生まれで、でも現代建設で創始者に認められて一気に取り立てられる。その豪腕が“ブルドーザー“と呼ばれていたって、すごいことだと思う。建設会社で一番出世する人のあだ名が“ブルドーザー”ですよ。どういうタイプの仕事をする人だったか、非常に鮮明にイメージが涌くよね。

そう、日本で言えば・・まさに田中角栄なんだと、思う。土建屋から国のトップへ。ね。

自分も貧農から腕一本でのし上がってきた現代グループの創業者が、取り立てたいと思う何の後ろ盾もない若者が、“どういう若者であったか”、ちきりんには目に浮かぶような気がする。ああこの人は、サムソングループでは生まれなかった人なんだろうな、と、新大統領の誕生を報じるニュースを見ていると思えるわけですよ。

そうそう、この人は現代建設でのし上がるタイプの人だ、と。

韓国は田中角栄を大統領に選んだってことなわけですわ。


ちなみに李明博氏もドラマにでてきます。

というわけで、韓国ドラマと実際の韓国の政治ニュースがすんごく巧く融合されて、本当におもしろい。時代絵巻物みたいだ。そして、英雄時代の主役のチャインピョという男優も、ほーんとかっこいい。

そんじゃまた。