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Chikirinの日記 RSSフィード

2008-09-16 変じゃない?“事故米”報道

ミニマムアクセス米の“事故米横流し事件”に関する報道にあれこれ違和感を感じるちきりんです。現在マスコミが報道していることは“間違いではない”が、必要な情報をカバーしていないし、大事な点に焦点を合わせてない、と思う。


たとえばこの件でちきりんが知りたいのはこういうことだ。


(1)“基準の2〜6倍のメタミドホス”の意味

こういう報道が多いでしょ。これって“現在の日本の規制基準値の○倍”という意味だと思うのだが、日本は米に関しては特に基準値が厳しいのではないか、という気がするよね。

そうだとしても、理由はもちろん食の安全のためだ!ということなのだろうが、実はこういった農薬基準をすんごく厳しくすることは「海外からの輸入を抑制するために非常に有効な方法」のはず。非関税障壁としても意味がある。

なので、「日本の基準の2倍から6倍の農薬残留量」というのが、「世界の他の国では特になんの問題もない量」なのか、「世界でも大問題の残留量」なのか、というのがまず知りたい。

たとえばこの量が、「日本でも米国でも大問題の量だが、中国やベトナムでは問題ない量なのだ」ということになれば、みな「やっぱり中国やベトナムからの輸入品は危ないな」と思うのだろうが、「こんな残留量で問題になるのは日本だけ。アメリカでもフランスでもこの量ならなんの問題もないどころか、今回見つかった量は他の先進国での基準の10分の1にも満たない量なのである。」と報道されたら、「そうか、日本だけがすごく基準値が厳しいんだな」ということになる。

その上、「実は日本は米の残留農薬の基準値は世界で一番厳しいが、他の食品についての基準値はすんごくゆるいのだ」となってくれば「なんで米だけそんなに厳しい基準にするんだ?」という話になり、農水省が本当は何をしたいか、よくわかったりもする。

と、このあたりが知りたいところなんだけど、なかなかそーゆー報道はないですね。

ただ、農水省大臣はとある番組で“失言”し、「今回残っていたといわれる農薬の量は“一生食べ続けても健康被害はない量”だった」と言ってしまってる。大阪市の担当者も今日「この(汚染)米を毎日3合食べても健康には問題ない」って発表していた。

「ふーん、一生食べても大丈夫な量が“基準値の2〜6倍以上”なのね」って感じだ。しかも一生毎日3合食べるって無理だと思うよ。お茶碗何杯分やねん。

まあとにかく、日本は「米以外の他の食品=日本で栽培していない農作物に関しても、そんなに厳しいのか?」聞きたいところです。


(2)普通の米の事故米比率はどの程度なのか?

これもわかんない。だいたい年間80万トンのミニマムアクセス米を輸入していると思います。日本でのお米の総生産量はたぶん1000万トンくらいじゃないかな。

三笠フーズは事故米を年間2000トンくらい買い集めていたらしい。だとしても80万トンに占める割合は0.25%。これが事故米の全体かどうか、も知りたいし、日本で生産する米の事故米率も知りたいし、他の農産物(野菜)の事故率(基準値以上の農薬残留率)も知りたい。

現在この事件により「海外からの輸入米は危ない!」という印象が非常に強く日本人に植え付けられつつある。これは日本の農家の利益を守りたい農水省にとってはとてもラッキーなことだと思う。心より“超うれし〜”と思っているだろう。

でも、いったいその事故比率が他の米、他の農産物と比べて高いのか、同じなのか、低いのか。それがわからないと「本当に危ないのは何なのか?」わからないじゃん。それとも「事故率」もしくは「不良品率」ってゼロだという前提なのか??そんな商品は工業商品でさえありえない。ましてや自然商品で不良品率ゼロなんてありえない。

まあとにかく、「中国やベトナムの米」=「カビが生えたり農薬たっぷり」という印象を植え付けただけでも今回の事件で農水省はすんごい得をした、と思う。



(3)そもそもミニマムアクセス米の扱いはどーなっていたのか?

事故米じゃなくて、ミニマムアクセス米をそもそも政府はどうしようとしていたのか、っていう話が報道されないですよね。

今回の事故米は「農薬残留量が過大、もしくは、カビなどが生えたもの」と報道されているが、もしも輸入した米を売りさばかずにずうっと倉庫においていたらどーなると思います?

農薬が適正量しかかかってない米にはカビが生え、農薬が異常にたくさんかかっている米からは過剰農薬が検出される。つまり「必ず何らかの問題が発生する」よね。

そりゃそーです。食べ物なんだから、一定期間以上放置していれば腐るなりカビが生えるなりする。食べ物を倉庫に何年も放置しとけば問題が起こるのはごく当然なのだから、むしろ「なんでそんなことしてんねん?」ってことのほうが知りたいちきりんです。ミニマムアクセス米はそもそもどういう扱いをされていたのか。これがまずは報道されるべきでない?


ちきりんはカリフォルニア在住中アメリカのお米食べてましたけど、日本米の2割の値段で味は十分おいしかったです。でも、こんなのを日本人に食べさせたらみな「あれ?なんでこれを輸入しないの?」と考え始めるよね。だから強制的にでも輸入させられたお米は「食べ物としては流通させたくない!!!」と、もしもちきりんが日本の農家の利益を考える人であったら・・・思うよね。

そして実際そのとおり、これらの海外からの輸入米を農水省は最初から「食べ物としては売らない」と決めてしまっています。事故米じゃなくてもですよ。なんの問題もなくても“日本人には食べさせない!”と決めてしまっている。

食べ物を、飼料用、工業用としてしか売らない、と決めているってどうだかね、って思う。これだけ世界で飢えている人がいて、日本でも貧困にあえぐ人がいて、米の値段が今の2割だったらすごい助かる!という人がいても、「これらの米は食用には売りません」と決めている。たかだか60年前には米粒ひとつ無駄にしなかったであろうこの国の国民が、それを望んでいる?

その上、食べ物を食べずに他の用途でしか使わないってんだから当然余る。結果として長い長い間倉庫に放置される。農薬が少なければカビが生え、そうならないのは過剰農薬のかかったものだけだ。そしてそれが接待を受けた役人によって闇に流される。そして、結局「食用」となる。

「そもそも“食べられる米”を“食べさせない”と決めた」それが回りまわって「食べられるんだから食用で流通させよう」という人の手に渡る。ある意味、非常に自然な流れだと思いません?問題の本質はここ(食べられるものを食べさせないと決めたところ)にあるのではないのか?


ミニマムアクセス米の扱いはそもそもどうあるべきなのか?

ここに触れずしてこの問題が議論できる?



マスコミの今の報道を見ていると、「農水省の小役人が接待を受けて、過剰農薬のかかった米を売った」ということらしい。本当にそれがこの問題の本質か?


★★★

どこか一社くらいは、マスコミもきちんと全体の構図の解説をやるべきじゃないかな、と思うよね。

日本はずっと米の輸入を拒んできて、現在は「関税化」という方式で輸入を阻止しています。だいたい780%の関税率。(米の市況によって関税率は変化するため、最近は世界市場での食料(米を含む)の高騰により関税率は低く計算されることが多いです。)

こんなむちゃくちゃな関税をかけて輸入を阻止しているので、「日本は自分が得意なものは輸出しまくるくせに、自分の弱い産業は完全保護なんてずるいだろ?」ということで最低限度の輸入を義務付けられている。それを「日本人に食べさせて味がばれるとまずいから」食べさせないと決めた。そもそも人に食べさせる気がないから、輸入時に農薬でべたべたのお米でも返品もクレーム付けもしない。(輸出国側も“どうせ日本は食べる気ないんだから”って感じだろう。)その上、食べないと決めているから当然余る。で、倉庫に放り込んでおく。そしたらカビが生えました、と。



日本の農業の産業規模は1兆数千億円くらいです。そしてこの産業に投入されている補助金(税金)の総額が、ほぼ同等の1兆数千億円。産業規模と同じ規模の税金が投入されているということは、農業ってのは「半分、国有産業」なんです。言い換えれば私たち国民が税金で運営している産業、なんです。

だったら「ミニマムアクセス米をどう活用するのか」とかも含め、もっと全体感をもった議論を納税者はするべきではないのか?その判断のために必要な情報を農水省が隠蔽するのは当然としても、それを探り出して白日の下にさらすのは誰の役割なのだ?


議論すべきは末端の役人の焼き鳥屋での接待問題ではないと思う。農水省が三笠フーズを訴えるなんて茶番以外の何ものでもない。もしかして農水省は正義の味方のつもり?

毎日3合食べ続けても健康になんの問題もない米が実際にどのルートで売られたかを延々と報道し続けるわれらが公共放送のNHKもすばらしすぎる!そりゃあ、さぞかし重要な情報なのだろう。

せんべいの回収に至っては笑いを通り越して呆れる感じ。米3合分にあたる量のそのせんべいを毎日一生食っても健康に問題はないですよ。たぶん、そのせんべいの他の原料(合法的な保存剤や香料など)の方が危ないくらいかも、って思います。


しかも三笠フーズは“悪意”があるが、そこから米を買った末端の業者の多くには悪意はまったくない。知らずに事故米を買ったのだ。彼らだって犠牲者だ。NHKがあれだけ名前を連呼すれば、これらの業者のうち体力のない焼酎メーカー、せんべいメーカー、給食会社の中には倒産に追い込まれる企業も複数出るのではないか思う。

でも今回は農薬餃子の時とはぜんぜん違う。あの時は「食べたら死ぬかも」だった。すぐに回収が必要だし、どこで売られたかを報道することは非常に重要だった。しかし今回は、一回くらい食べても何の問題もない食品を、罪のない末端メーカーが回収させられている。

“意図的に混入させられた農薬の量”と“残留”している農薬の量ってのはレベルが違うってことがなぜわからない? ってか、日本人でも今40歳くらいの世代の人は、成長期には毎日そういうレベルの農薬が残った米を食べてここまで生きてきてるんではないのかしらん。あの頃の農薬基準ってそんなに厳しくなかったでしょう?



これまで一生懸命やってきた焼酎メーカーが、だまされて事故米を買ったという罪で(毎日米3合分飲んでも)健康にはなんの問題もない商品を回収に追い込まれ、当然その損失は誰も補填してくれず、加えてNHKの報道をみた大手企業から今後の納入契約を破棄される。そして・・

今、公共の電波がやっていることはそういうことなのだ。私たちは本当にそれを望んでいる?




誤解のないように書いておくと、ちきりんがこのエントリで主張しているのは「米の輸入自由化」ではない。「マスコミは何を報道すべきか?」「私たち納税者は何を考えるべきか」ということを議論している。米を輸入するかどうかは国民の総意で決めればよいです。


テレビから聞こえてくるキャスターの声は、接待を受けていた小役人と同じくらい“あほみたい”に聞こえます。どうでもいいことを報道するのに忙しい人たちだ。そんな感じ。



そんじゃあね。



9月24日に追記→http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20080924#1222263143