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Chikirinの日記 RSSフィード

2008-10-22 コリン・パウエル氏の希望、その深さ

コリン・パウエル氏がテレビのインタビュー番組でオバマ氏を支持すると明らかにした。ちきりんも録画を見たけれど、その熱意と覚悟に満ちた彼の話し方にちょっと感動したよ。パウエル氏のとても深い希望を力強い言葉から感じたから。

パウエル氏は黒人として初めて米軍(制服組)トップと国務長官を務めている。これは大変なことだ。アメリカってのは人種差別を公式に廃止したのさえ40年ちょい前ってくらいだから現在71歳のパウエル氏がどのような環境で育ってきたかはいうまでもない。

ちきりんが彼の自伝を読んだのはもうずいぶん前だが、その中の一節は今でも忘れられない。彼は、新婚旅行に(当時の他の多くのアメリカ人と同じように)車で米国内を回った。しかし数時間の荒野のドライブの後に見えてくる小さなドライブインを兼ねた街にあるレストランはどこも黒人を入れてくれない。

食事はかろうじて買ってきて車や原っぱで食べることができる。しかし、新婚の若い奥さんが使うことが出来るトイレが見つけられない。ドライブの途中、彼は一日に何回も人が隠れるくらいに育ったトウモロコシやらサトウキビなどの畑の周りを走り、奥さんが用をすませられる場所を探した。

これが彼の新婚旅行の思い出だ。


軍の教育機関で、白人の同僚達がパウエル氏に意見を求めてくる。「ここはアメリカだ。自由の国だ。資本主義の国なんだ。ソビエトや中国のように、国がすべてを管理する国ではない。レストランを所有するオーナーが、自分の私的所有財産であるレストランに誰を入れて、誰が入ることを拒否するかは、個人で決めていいことだと思わないか?」と。「黒人としての君の意見を是非聞きたいんだ。」と。

白人の将校候補達には何の悪気もない。彼らはただ現実に無頓着で、無知なだけだ。

パウエル氏は「もしあなたが新婚旅行に行ったとして、奥さんのためのトイレが見つけられず、トウモロコシの畑を見つけ、万が一にも誰かがこないように一日に何度も見張りをしないとならないとしたら、それでもこの国が自由の国であることを本当に誇りに思えるかい?」とその同僚に問いかける。

同僚達は、言葉を失う。



ちきりんが感動するのは、この彼の悲しいほどの抑制力だ。普通だったら「同僚に一発お見舞いする」というのが当然だとは思わないか?まずは一発殴ってから「馬鹿野郎、何にもわかってないくせに!」と怒鳴りつければよい。

しかし、もしも彼がそういう方法で物事に対処する人であったなら、彼が“黒人初の”軍トップにも国務長官にもなることはなかっただろう。

怒りにまかせて怒鳴っても、いやたとえ一発殴っても当然の場面でも、きっと彼は常に怒りを抑えてきたのだ。あまりにも理不尽な物言いにたいして、常に冷静に「あのね、よく聞いてね」と反応してきたのだ。

だから、

彼はあそこまでたどり着けた。



その彼が、自分が政権に採用されていた共和党の候補者でないオバマ氏を支持すると表明した。

彼自身非常に人気があり、過去には大統領候補にも副大統領候補にも名前があがった。しかし「暗殺される可能性が・・」という家族の声もあり断念している。彼自身も躊躇するものがあったのだろう。「オレはどこまで希望をもっていいと思うか」という自分自身の問いに、彼自身で答えを出した。それが国務長官であり軍トップの立場であったのだろう。「これ以上を望むべきではない。」それが彼の決断だった。

しかし、その夢を叶えてくれるかもしれない若い候補者が現れた。民主党からだ。


それでもパウエル氏がオバマ氏の支持を打ち出すのは、このぎりぎり土壇場のタイミングだ。もうどう考えてもオバマ氏だよね、と米国中が思い始めてから支持を口にする、のだ。この慎重さ。これが今回ちきりんが再び痛感させられた彼の成功の理由でもある、その自己抑制であり、悲しいとも思える習性だ。

この慎重さがなければ、彼はここまで来れなかった。これまでの彼の「生きるための方策」である、“決して飛び出さない。決してリスクをとらない。決して白人に正面から刃向かわない”という姿勢が浮かび上がる。


たとえばもっと早く“オバマ氏支持”を打ち出せば、オバマ氏が大統領になれなかった時に、彼は大きく傷つくリスクを負う。周囲の人はこういうだろう。“やっぱりあいつは大統領になりたかったのだ。だから黒人候補を応援したのだ。”と。しかし彼はそういうリスクはとらない。だからオバマが間違いなく勝つ、という情勢になってから、発言した。

しかもパウエル氏は今や71歳だ。彼にとって「ようやくリスクをとってもいいかもしれない年齢」になった、ということなのだと思う。今彼が50代であったなら、この先まだ何十年も白人社会において密かな野望とともに生きていく必要があるタイミングであれば、たとえこの土壇場であっても、彼はオバマ氏支持などという危ない主張をテレビで述べることはなかったかもしれない。


★★★

もうひとり。

コンドリーザ・ライス。パウエル氏についで黒人として国務長官の座についた。

子供の頃から卓越した脳力(能力)を発揮していた天才少女は、自分よりずうっと“頭が悪く視野が狭く世間知らずで単純”ではあるが、一方で、“大統領を父にもち、白人で、南部のエネルギー利権を牛耳るブッシュ家に生まれたジョージ”と自分を“つなげる”ことで、トップの座を目指した。

彼女もまたその冷静な慎重さがあったからこそ、ここまでこられた人だと思う。

彼女は結婚しておらず、米国では“家族の日”であるクリスマスをブッシュ一家と過ごすのだという。それが彼女の選んだ生き方なのだ。




彼女が“黒人かつ女性初の大統領”として、オバマ氏と同じ道を歩む日は来るであろうか?

それとも彼女もパウエル氏と同じように、「自分はどこまでを望むべきなのか、どこまで望んでもよいのだろうか」と考えるのだろうか。

彼女はまだ54歳。まだまだ先がある。パウエル氏と同じように「オバマ氏を支持する」などとは(たとえ今、共和党の大臣でなかったとしても)言える年齢ではない。そんなリスクをとれる段階には来ていないのだ。



★★★

ヒラリークリントン氏は、最初から最後まで前向きだった。「米国は私を大統領に選ぶべきだ!」と大声で叫ぶことができる。そのことが、「正論であれば、真正面から大声で主張すればよいと教えられて育ってきた人達の特権的な行動」であるとは気がつかない。アメリカでは「誰でもそうやって」主張していると思い込んでいる。


バラック・オバマ氏の功績はまさにそこにある。

「米国は私を大統領に選ぶべきである」と彼は正面から主張している。パウエル氏にもライス氏にもできなかった行動だ。そしてそれは、ブッシュやヒラリーが“当然として”行っている行動だ。



パウエル氏71歳

ライス氏54歳

オバマ氏は47歳。


これが時代の進み方か。



彼が正当で適切な手続きのもとで、大統領になることを期待します。

(意味:暗殺されませんように)


そんじゃーね。