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Chikirinの日記 RSSフィード

2008-10-23 コリン・パウエル氏の絶望、その深さ

昨日のインタビューの中でパウエル氏は、マケイン氏に決定的に失望した理由としてペイリン氏の副大統領候補指名を挙げた。

ペイリン氏はアラスカ州知事とはいえ、アメリカにおけるアラスカ州知事なんて日本における杉並区長みたいなもんなわけで(大阪なら八尾市長くらいか)“いきなり副大統領は無理やろ?”と皆が思った。この人は単なる辺境の一地方のおばさん政治家に過ぎず、“ゴミの分別を徹底しましょう”くらいの行政政策には適した人だが、国防やら米国経済の舵取りを担当するにはいかにも力不足であった。

そんなことは百も承知のマケイン陣営がそれでも彼女を副大統領に指名した理由は明らかだ。オバマ氏は民主党の候補者となるまでにヒラリーと五分と五分の熾烈な戦いをやっていた。マケイン陣営は、ヒラリーを支持した大量の“女性票”を民主党から奪いたいと考えた。だからこう言った。

「あなたたちが熱望した女性の大統領の夢はオバマに潰されたのでしょう?でも、共和党に投票すれば“女性の副大統領”は実現しますよ!しかも、オバマを見返せますよ!」と。


この作戦は最初ほんのちょっとだけ成功したかに見えた。


彼女の化けの皮がはがれ始めたのはあまりにもひどい応答内容。たとえば、石油価格高騰で経済的に立ち直ったロシアが、再度アメリカの仮想敵となりつつある現状についての意見を求められて、“ロシアはアラスカのお隣さんよ。仲良くしなくちゃ”みたいな脳天気な回答をしてみたり。

これにリーマン破綻から始まった金融危機がとどめをさした。彼女にこの難局を乗り切る手腕は全くない。世界中の人がそう思った。


★★★


でも、世間よりももっと早く、このペイリン氏の副大統領候補指名に衝撃を受け、怒り、絶望した人たちがいる。

そのうちの一人がパウエル氏だ。


(いや、見たわけじゃないけど・・)


なぜパウエル氏が失望したか。それはマケイン氏が「人気を得るための道具として女性を利用した」からだ。



アメリカにはアファーマティブアクションという考え方がある。今は賛否両論があるが、一時期はかなり広く支持されていた差別問題解決策のひとつだ。簡単に言えば差別を受けている人、たとえば女性やマイノリティの受け入れ枠を設け、できあがりの比率を最初に設定してしまう、というような方法だ。

大学は女性を最低限○人入学させる、黒人を○人、ヒスパニックを○人入学させる、という感じ。公務員的な仕事もそうする、みたいに。

この方法では当然それぞれのグループ内で“異なる競争率”が存在する。名門大学を受けられるような成績の黒人が非常に少ないエリアにおいては、黒人であれば白人よりも圧倒的に一流大学に入学しやすい、ということが起こりえる。

この制度は、「逆差別だ」と怒るマジョリティ側の人間からも、そして実はマイノリティ側からも評判がよくない。これはちきりんの友人も言っていたけれど「どんな努力をして得たものでも、“いいよなおまえは。肌が黒いからこの大学に入れて”と言われてしまう」からだ。

「何をしても色眼鏡で見られる。血のにじむような努力をしても、ずるいと言われるんだ。あんな政策一刻も早く廃止して欲しい。」ってちきりんの友人も怒っていたよ。ライス氏もアファーマティブアクションには反対している。「自らの経験からいって効果がない。」と。確かに人の2倍も3倍も頑張って逆境を克服し、恵まれた立場の白人よりも高い成果を残してきた人たちにとっては、余りに失礼な政策だったのだろう。


そして、おそらくパウエル氏だって、ずっとそういわれ続けてきたに違いない。白人の同僚達にとって「コリンが俺たちより早く出世するのはアファーマティブアクションのために決まってる。」という言い訳を用意できることは自らの精神の救いになる。

そしてそんなことをほのめかす同僚達をパウエル氏は“一発殴って”きたわけではない。彼はいつだって「そうだね。確かに不公平な面もあるよね。でも僕も一応ちゃんと努力したんだ。」と静かに話してきたのだろう。


★★★


ペイリン氏は、女性でなければ副大統領候補に選ばれることはなかっただろう。マケイン氏は、「女性にもチャンスを与え、女性の能力も認めている、寛容な白人男性」になるために、“能力はなくても女性であるという理由で”ペイリン氏を選んだ。


ちょっと考えてみて欲しい。


もしもオバマ氏がヒラリーに負けていたら、もしもヒラリーが民主党側の候補者だったら、マケイン氏はどんな人を副大統領に選んだだろう?



黒人の若者か?


能力はないけれど“肌の色が黒い”という点だけで選ばれる、40代の黒人男性だったのだろうか?いかにも何も知らない、無知で無能な若い黒人男性が現れて副大統領候補になったのだろうか?




「俺たちはおまえ達のおもちゃじゃねえ」



というパウエル氏の心の声が聞こえるようだ。




パウエル氏が失望したのは、ペイリン氏の無能さではない。マケインのくだらない判断でさえないかもしれない。彼が失望したのは、未だにこの国において、国のトップの座を目指そうとする人が、黒人や女性やマイノリティの“その他の人たち”を、自分の人気取りのために、自分の寛容さを示すために、おもちゃにしようとしていることだった。

「誰でもいいのだ、肌が黒ければ」「誰でも同じや、女やったら」

この傲慢な態度に必死の努力をして這い上がってきたパウエル氏は絶望したのだ。

と思うわけ。



黒人や女性を「自分を売るための飾りとして使おうとする白人達への絶望」を彼は感じたのだ、と。





★★★



もうひとり、このアラスカのおばさんの起用に絶望したであろう人がいる。



それはヒラリークリントンだ。彼女もまた、ひとつの歴史の扉を開くために何年も何年も想像を絶する努力をしてきた人だ。

大統領在任期間でさえ、たかだかホワイトハウスにいる間だけでさえ、下半身のコントロールもできないアホな夫の醜態を、笑顔を振りまいて耐え抜いてきたのは、いつか米国初の女性大統領となるという野心があったからこそだ。

保守的で伝統的な家族観が支持されるアメリカで大統領候補者になるには、「苦況においても常に夫を支え続けた妻」という姿が必要だったからだ。自分の大統領選の応援をしてくれる“元大統領の夫”が必要だと思ったからだ。だからあんな屈辱を受け入れて、耐えて、頑張ってきたのだ。


それなのに、自分の票を横取りするために選ばれたのは、買い物かごをさげて近所のうわさ話に興じるレベルの田舎の主婦のような人だった。


ヒラリーにとって、マケイン氏の判断はどう映っただろう?


「女であれば、それでいいのさ」「中身も実績も努力も、なんも関係あらへん」、とマケイン氏とその参謀は考えたのだ。「ヒラリーの票は、このおばちゃんでいただけるぜ。だってどっちも同じ女やろ?」と。「ヒラリーとペイリンに何の差があるって?何もないよ。」と。



ヒラリーの絶望が想像できるか?



人生を賭けて必死の努力を何十年も続けてきた人たちのその思いを、マケイン氏はばっさりと切り捨てた。


強者にとって弱者がどれほど見えにくいものなのか、これらの件はすごくよく語っている。


★★★

共和党の古い世代の白人指導者達が、“女子供と有色人種”をどのように見ているか、あまりにも明確にマケイン氏は世界に示してしまった。

そして、当然この“女子供と有色人種”には、ちきりんも、お殿様の麻生首相も、中国の胡錦涛主席も、アラブの王様も、含まれている。ってか、地球上の人口の9割以上が含まれている。



「おまえらは飾りである」

とマケイン氏は、考えた。



「飾りをつけたら、モテるんじゃないか」

とマケイン氏は、考えた。


「女を副大統領にしよう。国務長官は黒人の候補者を探しといてや」と。「オレは多様性を支持しとるんやで」と。





パウエル氏も、ライス氏も、ヒラリーも、みんな絶望したと思う。実力で頂に上り詰めようと血のにじむ努力をした人たちは皆深く深く傷ついたと思う。

その絶望の深さが、慎重に慎重を期して生きてきたパウエル氏をして、オバマ氏支持を明言させたのだ。




とちきりんは思っている。






終わり



★★★

アフィリエイトにしてパウエル氏の自伝を紹介してたら140円くらい儲かってた?



追記)ペア記事なんで昨日のエントリもよろしく!(営業)