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Chikirinの日記 RSSフィード

2008-11-21 “格安生活圏”ビジネス

同じミネラルウオーターのボトルが、駅の南側と北側で倍も異なる値段で売られていると聞けば、日本人の多くは奇異に感じますよね。でも実際にはそういう国はたくさんあります。

たとえば旧市街の市場では一本1ドル、30分離れた新オフィス街では倍の 2ドルで同じ飲料が売られているのです。

店舗の家賃の差ではありません。同じ屋台でも、高級ホテル前の路上に出ている屋台では1本 3ドル、市場の屋台では 1ドルだったりする。

地域の経済格差が大きくなると、モノの値段は「そのエリアの人がいくらなら払えるか」によって影響を受け始めます。

だから水に 3ドル払う人がたくさんいる地域では 3ドルで売り、1ドルじゃないと売れない場所では 1ドルで売るわけです。(もちろん仕入れ値はどちらも 1ドル未満)


日本にも最高級店と格安店はあります。しかし、格安の牛丼屋はオフィス街にも学生街にも住宅街の駅前にも存在し、どのエリアでも同じ価格で同じモノを売っています。

安い牛丼屋があるからといって、そのエリアの物価が安いわけではありません。

一流ビジネス街に格安飲食店があれば、「一定のお金のある人が節約する」ことはできますが、「低収入な人が格安に、快適に生活する」のはそれでは実現できません。

低収入でも生活を楽しむには、家賃から光熱費、食べ物の値段、売られているものの値段までが全体に低い“格安生活圏”が必要なのです。


★★★


世界の家電販売店と日本の家電販売店は、今、その店頭光景が大きく異なり始めています。

日本では、冷蔵庫や洗濯機、テレビなどの主要製品の大半が日本メーカーの商品です。

毎年どんどん価格は下がっているとはいえ、10万円以上する家電製品も決して珍しくありません。

しかし海外の家電販売店にいけば、これらの日本製品が“最高級品”として並べられている一方、中級品として韓国メーカーのものがあり、さらに普及価格品として中国製品やその国のローカルメーカーの家電が並んでいます。

その価格差は数倍にもおよびます。

そこでは、客は自分の収入にあわせて 10万円の高級家電を買うこともできれば、数万円の普及品や、単機能でシンプルでノーブランドの一万円の家電を買うこともできます。

中古車の販売店も同じです。

日本は中古車とはいえ、どれもこれも本当にキレイでいい車ばっかりです。

数年で壊れてもいいから数万円で買える車が欲しいと思っても、選択肢は多くありません。

海外の中古車販売店では、そういう車もたくさん売られています。


生活インフラについても、日本は停電がとても少ない一方、電気料金の高さはよく指摘されるところです。

しかし実際には日本でも、電気代金が払えずに電気を止められている人はでてきています。

それなのにいつまでも、“安定供給”のために高い基本料金を払わせ続けることが生活者のためになるのでしょうか?


また、日本はどこのお店に行っても驚くほど丁寧に包装をしてくれるし、サービスの質も非常に高いです。

それはとても気持ちの良いことではあるけれど、一方で、それらにかかるコストはすべて価格に転嫁されており、一定のお金がなければ利用できないものになってしまっています。


海外の都市部に存在する「ふたつの異なる物価水準のエリア」では、売られている商品の質はもちろん、店の雰囲気、内装のレベル、清掃状況から包装紙の質、レストランであれば皿の値段、さらには接客する店員のレベル(時給およびサービスレベル)まで違っています。

そのかわり、通常エリアであれば年収 400万円未満だとやっていくことが厳しいのに、格安生活圏では年収 200万円でもそれなりに楽しみながらやっていけるというわけです。


★★★


さらに少子化にしても、「教育資金が払えないから子供を生まない」のは、親に「お金がなくても子供を育てられる」という選択肢が見えないからです。

海外の格安生活圏に住んでいる人は誰も、子供の習い事や塾、子供服やおもちゃなどに多額のお金はかけないし、大学進学もよほど優秀で奨学金がもらえる子供でない限り、考えません。

こうなると子育てに大金がかかるわけではなくなり、「低収入だから少子化」とはなりません。


また、今の日本では「年収 200万では結婚できない」などと言われますが、これも高所得層にしか実現できない専業主婦モデルへの未練が、すべての所得層の人にあるからでしょう。

本来は、年収 200万円のふたりが結婚したら世帯年収は 400万円になるわけですから、低所得者ほど早く結婚してひとりあたりの生活費をさげるのが合理的です。

そういった選択肢が普通に見えるエリア(大半の人が低収入でも早く結婚しているエリア)ができれば、「お金がないと結婚できない」というコンセプト自体が崩れるはずです。

また、結婚が早まりお金がなくても子だくさんで、親戚、兄弟などが近いエリアに住んでいれば、多額の老後資金を貯められなくても、祖父母の老後を数多くの子供や孫が共同で支えることができます。

戦後の日本が目指してきた「核家族で、専業主婦、持ち家があって、教育投資をしっかり行う子育て」といったパターンとは違うライフスタイルが存在し得る、別のタイプの経済圏がそろそろ日本にも必要な気がします。


★★★


ところで、こういった地域の正否をわける要素としては、「イメージ」と「治安」のふたつが重要です。

イメージに多大な影響を与えるネーミングに関しては、「スラム」はもちろん、ビジネス全体を「貧困層向け」と呼んでしまうと、多くの人がその存在に抵抗感を感じるでしょう。

しかし、「肥満の方へ」より「メタボでお悩みの方へ」の方が商品を買ってもらいやすいのと同様、「貧困層向けエリア」では住む気がしなくても、「お得な生活圏」や「格安生活エリア」と言えば、受け入れやすく感じる人もいるはずです。

また、治安に関しても日本は今のところ先進国の中でももっとも凶悪犯罪の少ない国であり、こういったエリア運営がうまくいく条件を備えています。


今後、望む望まないに関わらず、そういった地域は自然発生的に出現してくるんじゃないでしょうか。

誰だってお金のない時は安い家賃の部屋に住み、余裕ができれば少しずつ家賃の高いところに引っ越したり、家を買ったりしますよね。

でも日本では、下げられるのは家賃だけで、電気代も物価も高級エリアと大して変わらない。だからお金がすごく貯めにくい。

家賃だけじゃなく、生活費が丸ごと格安なエリアがあれば、最初はそういうところに住んで、お金を貯めて少しずつステップアップして引っ越していくという、海外の大都市みたいな住み替え方が、日本でも可能になるんじゃないでしょうか。


そんじゃーね。



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そんじゃーね!


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