円高が日本を救う! (かも)

円高で経済界が大混乱しています。けれどこれまでだって、この国の“大きな飛躍”は常に大混乱をきっかけに実現されてきたのだから、今回もこの混乱を変革のチャンスに転じることができるはず、とちきりんは思っています。


円高は、国内売上が大半の会社には害を及ぼしません。材料を輸入して国内で売っているなら、寧ろ儲かっているはずです。ダメージを受けているのは「日本で付加価値の高い工程を実施して、海外で売っている産業」です。具体的には、製造業の中でも国内生産比率が高い自動車産業や、大型液晶パネルなどの基幹部品を日本で作っている家電業界、そして国内に主なプラントをもつ産業財企業でしょう。

彼らは、過去にも一度「超円高危機」を経験しています。円が対ドルで240円レベルから120円へと急騰したプラザ合意後の円高です。

その時にこれらの企業がとった対策が「製造工程の海外移転」でした。付加価値の低い部品の製造や組み立て工場は、この時期以降ほぼすべてが海外移転してしまいました。だから今国内に残っているのは、付加価値の高い基幹行程の工場と、本社など工場以外の部門ばかりです。

またこの時を境に、海外から圧倒的に格安の商品が輸入されるようになり、世界に通用する付加価値のあるものを作っていた企業、産業以外は、その存在自体が淘汰されてしまいました。


今回の円高はあの頃につぐインパクトがあるように思えます。技術系輸出企業の多くは、製造工程こそ海外に移転していますが、開発本部や本社機能の大半はまだ日本にあります。その人件費、オフィス家賃などはすべて“円”で発生しており、たとえ工場を海外に移していても、「日本に大きな本社がある」だけで(円高は)相当な痛手です。

では、日本が誇る“輸出産業”はこの円高を乗り切れるのでしょうか?


ちきりんは「今回はいよいよ乗り切れないかも。でも、それもいいかもしれない。」と思っています。というのも、日本の産業界はあまりにこれらの輸出産業依存が強すぎると思うからです。

それは単なる貿易収支の話だけではありません。たとえば「日本の技術力はすごい!」とよく言われましたが、それはもともと一部の製造業だけの話です。それをもって「日本全体がすごい!」ような思い込みさえ形成されましたが、日本は今でも世界に通用しない多くの産業を抱えています。でも、技術系輸出産業さえ強ければ、他の部分は“まあ、仕方ない”と見過ごされてきたのです。

また、多くの人が「円安のほうが日本のためになる」と思い込んでいるのも、「技術系輸出産業さえうまくいっていれば日本は大丈夫だ」と考えている人が多いからであって、これは精神的な意味での輸出産業依存です。

そもそも日本はすべての経済活動の源であるエネルギーと食糧の多くを輸入しています。にもかかわらず、国内で円高を歓迎する声がほとんど聞かれないのは、いかにこの国が経済的も非経済的にも輸出産業に依存してきたかを示しています。


けれどこの円高が向こう3年続けば、日本は今度こそ一部の輸出型産業に依存する社会から脱却する必要に迫られます。また技術系輸出型企業も、本社機能の海外移転や、撤退、売却を含めた抜本的な事業の見直しなど、思い切った経営判断を検討し始めるでしょう。

それは決して悪い話ではありません。開発部門や本社部門の人達が海外で働かざるを得なくなり、そのために英語力やリーダーシップをつけることを求められ、もしくは、リストラで大企業を追われた人達が伸び盛りの新興企業に転職するといったことが起これば、日本経済へのポジティブなインパクトも必ず生まれます。

一時的には不安な人、不満な人がでるでしょうが、ずっと後から振り返れば、これらが日本の経済構造の大転機となるかもしれません。

そうなれば、今回の円高は(前回の円高もまさにそうであったように)日本をより強くしてくれる貴重な機会になりえます。日本は外圧がないとなかなか動けない国なのですから、これもいいチャンスととらえ、各企業には思い切った変革を検討してみてほしいものです。


そんじゃーね。