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Chikirinの日記 RSSフィード

2009-01-18 日本に起業家が少ない理由

よく耳にする「日本は起業する人が少ない。」という話。*1

理由として「シリコンバレーには起業家を支える様々な仕組みがあるが、日本にはない」ともいわれますが、では、なぜそういう仕組みが彼の地にはあって、日本にはないのでしょう?

と考えていて、思いついたのがこの図です。↓

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「社会適応スキル」とは、受験や就活スキルなどの“様々な関門を要領よく切り抜けるスキル”です。そして「自己抑制キャパシティ」は、「どの程度くだらないことに耐えられるか」という能力(?)です。

たとえば、23才から64才まで40年間、毎日ラッシュの地下鉄で揉まれる人生に耐えられ、「こんな資料、誰も読み直さないだろ」とわかりきってる会議の議事録を何時間もかけて作り、課長に“てにをは”を直されては素直に修正し、部長に印刷がずれてると言われてはインデントの設定をやり直す、そんな仕事に耐えられる人は「自己抑制キャパシティ」が大きいといえます。


このふたつの基準の組み合わせで4種類の人が定義されますが、まず社会適応力があってくだらんことにも耐えられる人(ピンク領域)は、たいてい大企業の社員や公務員になっています。

社会適応力があるから受験も就活も乗り切ってそういう組織に入ることができ、そこで行われる超くだらないことにも「何十年でも耐えられる」のでドロップアウトしません。

次に、我慢強いけれどもテストや面接を巧みに乗り切るスキルを持っていない人(黄色領域)がいます。

彼等は社会適応力が低く“余裕ある企業や組織”に入れないため、低賃金でスキル蓄積につながらない仕事をやらされています。

それでも我慢強く、どんな悪環境においても、ワープアと呼ばれるような給与でひたすら我慢して頑張ります。


3番目にどちらのスキルも低いと(右下、黄緑の領域)、居心地のよい大組織に潜り込むことができず、かといって搾取されつつ働き続けることにも「我慢できない!」ので、ニートやフリーターになります。


最後に左下の水色の領域の人達。彼らは社会適応力はあるけれど、我慢強くはありません。彼らの一部は最初は大企業に所属する場合があります。とりあえず、そうできてしまうからです。

けれど彼らは我慢ができず、「ありえんだろ、こんな人生!?」と大組織を飛び出してしまいます。それでも社会適応力があるからなんらか食べていけます。フリーになったり、起業する人もいます。

ちなみに彼等は“つらいこと”に耐えられないわけではなく“くだらないこと”に耐えられないだけです。

なので働く時間が長くても、仕事の中身が「自分がおもしろいと思えること」と「意味があると思えること」なら長時間でも働きます。

一般的に起業家とは、この領域から生まれます。「社会適応スキルは高いけど、あほらしいことには耐えられない。自分の人生の時間は組織のためじゃなく、自分のやりたいことに使いたい!」という人達が起業家になるのです。


ところが日本はこの水色の領域に入っている人口(比率)がそもそも少ないのではないか?というのが、今回思いついたことです。

なぜでしょう?


それは、日本ではこの横軸と縦軸に“ダブり”があるからではないでしょうか? つまり今の日本では、“求められてる社会適応スキル”のひとつに“くだらないことも長期間じっと我慢できるスキル”というのが含まれているように思えるのです。

もしそうだとすると、「社会適応スキルの高い人は必ず自己抑制キャパも大きい」という関係になり、左下の水色領域に入る人がほとんどいなくなります。


そして日本でフリーで働くプロフェッショナルや起業家らは、その多くが右下の黄緑の領域にフリーターやニートと混在してしまいます。

日本では起業家もニートも「いわゆる日本的大組織ではやっていけない人」であり、両者とも「社会適応性を欠いている人」として扱われるのです。

ポジティブに言えば、「日本の大組織では収まりきれない器の人」が起業家になる、とも言えます。堀江貴文氏も柳井正氏も孫正義氏も、普通の大企業の勤め人なんてできなさそうですよね。そんな働き方にはきっと耐えられないでしょう。


この、「起業家は日本の大組織では耐えられない人が成るもの」というコンセプトのために、日本では大企業の社員や公務員が、起業家をうらやむことがありません。人はわざわざ「社会不適応な人」に憧れたりしないのです。

日本でピンク領域にいる人達は、「自分のいる場所が一番いい場所だ」と確信しているわけですから、一生そこから動かないのは合理的な判断なのです。


でも仮にこの 2軸が独立していて、水色の領域にもっと多くの人がいれば、ピンク領域の人から見て水色にいる彼らは、「能力は自分達と同じように高く、かつ、自分のやりたいことを我慢せず、自由に生きている人達」に見えます。

そうなって初めて、水色ボックスにいる人たちは憧憬の対象や若者の目標になり得、ピンク領域から水色領域へ「人の移動」が起る、つまり、優秀な人達がどんどん起業家を目指し始めるのです。


★★★


多くの国では、「好きなことだけをやって生きていけたらすばらしい!」というのが一般的な感覚です。

ところが日本には、「やりたいことだけをやる」生き方を「わがまま」とか「不道徳なこと」とネガティブに捉える社会通念があるのです。

時には「人間は我慢が大事」とか、「好きなことしかやらないような奴は、人間ができてない」とさえ言われます。


こんな考えがあるかぎり、日本で起業家が増えることはありえません。

「嫌なことでも我慢すること」が「社会的に優れた資質」と見なされるような社会では、「自由に好きなことを追求しよう!」、「くだらないことに堪え忍ぶのは人生の無駄だ!」という価値観を持つ人はアウトローであり、時には反逆者扱いされてしまうのですから。


んじゃ!


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*1:これデータ的に事実なのか、未確認です。クロネコヤマトの小倉氏も、ファーストリテイリングの柳井氏も会社自体は親から引き継いでいるため、統計的には起業率にカウントされていないと思います。でも過去と断絶した大きくなジネスを展開しており、彼等を起業家と呼ばずに誰を呼ぶ?という感じですよね。ただ、とりあえず今日はこの前提で進めます。