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Chikirinの日記 RSSフィード

2009-03-08 希望最低年収1200万円

派遣社員や期間工の人達が大量に職を失うという話が顕在化したのが昨年末。この3月末に向けても多くの人が失業の崖っぷちにおり、今や雇用問題は日本経済&政治上の最優先課題になっています。


が、それらの人達とは全く異なるグループで、結構な人数まとめて職を失おうとしている人達がいます。いわゆる外資系投資銀行、ヘッジファンドや投資ファンドの社員達です。

外資系投資銀行のリストラは昨年の夏前くらいから始まっているのですが、最初は儲かってない部門や会社がパフォーマンスの低い人を切るという感じでした。秋からはリストラ規模が拡大しリーマンショックからは一気に部門撤退、人数を半減するなどの大幅な事業縮小が行われるようになりました。

最初の主なターゲットは外国人社員だったと思います。年末から年始にかけて多くの外国人社員が自国に向けて出国していきました。六本木の飲み屋なんて目に見えるレベルで外人が減っています。

そして年があけて昨年の決算が終わった今年、先月くらいから、今後の見通しについて一定の結論を出した各金融機関が今度は日本人社員も含め組織全体の大リストラを次々と発表しはじめています。

部門撤退、グループ全員解雇、8割削減、職種変更、等々で、こちらでも3月末からゴールデンウイークのあたりに失職する人達は千人を超えるでしょう。(製造業の工場とはそもそもの人数が違うので“万人”の単位になる話ではありません。)


昨年の秋あたりにはまだ、日系の金融機関が比較的傷が浅く「外資の優秀な人材を受け入れたい」というところもあったのですが、ここにきて彼らも採用を続けられる状態にはありません。またその他の投資、金融関連の企業も規模の大小を問わず大半が雇用を絞り始めており、こういった人達の受け入れ先は急速に消失しています。

金融業界はもともと労働力の流動性の高い業界であり、多くの人材紹介会社が存在しています。当然多くの人がこれらの“エージェント”に駆け込んでいますが、エージェント側にも“はめ込み先”が全くない状態です。彼らは今までは見向きもしなかった“給与水準の低い”外資系メーカーや日本企業に「優秀な人がご紹介できますよ!」と営業をかけていますが、当然のことながらこのタイミングでそうそう色よい返事がもらえるわけがありません。(エージェントのコンサルタント自身もほとんどが歩合のような給与体系ですから、転職実績が作れなければ彼ら自身も大変です。)

またこの業界では実力のある社員が仲間を引き連れて転職したり、口コミでの転職情報も大きな役目を果たしていましたが、今や誰のところにいっても「こっちも大変なんだ」という話を聞くだけになってしまっています。


実は、現時点でも一定の雇用意欲のある企業は存在しています。それはベンチャーや伸び盛りの企業です。前に、“壊滅度レベル”を産業別に書きましたが、今回の景気の落ち込みによる影響が小さな業界や、寧ろ業績のよい企業も存在しています。ユニクロ、楽天(赤字なのはTBS株の下落のため)など調子よさげですよね。

また円高のこの機をとらえて海外進出を積極化しようというドメスティック企業にとっても、金融と英語の知識のある人材の必要性はそこそこあるでしょう。

今回金融業界で失職する人達の多くはいわゆる“ハイプロファイル”の人達で、労働市場での価値もそれなりに高い人です。ベンチャー企業や日本ドメなメーカーにとっては今まで採用が難しかったような人達であり、その意味では今回うまくマッチングできれば双方にとってよいことのはず、です。


ところがコトはそうは簡単ではありません。

最大の壁は「給与」です。


今回失職する人達の年収は、年齢や職種に寄りますが、ざっくりいって30代前半で1500万から2000万円です。ボーナス込み3000万円くらいの人もいます。学生から数年の実務経験しかない人でも800万円、というようなレベルです。

残念ながらベンチャーにしろ日本の伝統的事業会社にしろ、こんな額を払える企業はほとんどありません。そしてこれを読んでいる多くの方が感じるのは「失職するんだから、そんな贅沢言わずに日本人の平均給与で働けよ!」ということですよね。

これって今まで残業代込みで年間300万円はもらえていた期間工の人達が失職し、だからといって「年収が200万円になってしまう介護職や農業に転職しろと言われても・・」と躊躇するのと実は同じです。年収がいくらであっても、個人にとって影響が大きいのは「今の水準からどれくらい下がるか」であって、「絶対額として600万あれば十分だ。贅沢いうな」というわけにはいかないのが現実です。

まだ単身者は問題が少ないです。今まで高いバーで飲んでいたのを居酒屋なり家飲みに変える、合コンで格好つけるのをやめる、くらいの話です。忙しい仕事なのでお金を使う暇がなく、給与口座にそのまま残ってるなんて人もいます。

また共働きの場合もショックは少ないでしょう。金融機関内での夫婦もなくはないですが、「一人は安定した職業、一人は外資系金融」という組み合わせは結構あります。どちらかがきちんと稼いでいれば、少なくとも焦らずに求職活動ができます。子供が小さいなら“にわか主夫”を体験するのも悪くないかもしれません。

深刻なのは「子供2人、妻は専業主婦(もしくは趣味程度の収入)」という人です。今まで2000万円もらっていれば手取りが1500万円はあります。駐車場、管理費、光熱費等いろいろ込みで50万円くらいの住居費を払っていたり、億ションを買ってローンを払っていたりします。

子供を私立に通わせれば授業料や教材費で年間100万円を超えますから2人で200万円です。住居費と子供の経費だけで年間800万円になるわけで、とてもではないですが年収600万円やら800万円では生活が成り立たないです。

そんなもらってたなら貯金があるだろうって?まあある程度は蓄えもあるでしょう。でもですね、固定の生活費が高いので少々貯金があってもたいしてもちません。それに、これらの人達は元々自分の蓄えを「定期預金」とかにおいていたわけではありません。

大半の人が「市場商品」に自分の蓄えをつっこんでいたと思われます。そしてそれらの大半が現在の株安、円高でその価値が半額くらいになっています。一番悲惨なのはストックオプションや自社株で多くの資産を保有していた人です。リーマンの場合文字通り紙くずになっていますし、シティだって一株1ドルでもうすぐ国有化かもしれません。

つまり、特別な人、たとえば組織トップや役員の立場に長くいて億単位の資産を既に築いてしまった人とか、マーケット部門で相当の稼ぎ頭だった人を除いて、いわゆる「普通の投資銀行マン」ってのはそんなに余裕のある状況ではありません。



ちきりんは今回の経済危機に関して「日本の構造改革には結構よい影響もある」という話を何度となく書いてきていますが、今回の「業界を超えた人材流動化が起る可能性」もそのひとつだと思っています。

外資系金融にいる人の中にはもともと日本の伝統的企業にいた人もたくさんいます。いい大学をでてなんとなく就職活動をして日本の大企業に入り、その後、自由やフラットな環境を求めて外資に転職した人です。もしくは若い人では「敢えて外資系を選択して」直接入ってきた人達もたくさんいます。

こういう人達が、今までそういった人の採用に苦労していたベンチャー系の伸び盛りな企業に転職するのは、“人材の最適配分機能の正常化”という意味において千載一遇のチャンスです。そういう企業の成功や成長のボトルネックが、優秀な人材の確保が難しいという点にあるケースも決して稀な話ではないのですから。外資系の仕事のスピード、判断基準、成果主義やリスク管理の方法、そしてもちろん金融の知識や英語力も役に立つでしょう。


ですが・・・個別の事情を考えると“自分の給与が下がるために、子供を公立学校に転校させる”ってのはお父さんとして厳しい判断だというのは理解できます。簡単に思い切ることはできないでしょう。

なので、そういう人までとは言いませんが、単身とか共働きで「来年の給与は住民税のみで無くなってもなんとかなる!」という方には、是非、伸び盛り系ベンチャーの門を叩いてみてほしいなあと思っています。そもそもこういう時でもないとそういう決心もなかなかつけられないですよね。ある意味いいチャンスです!(?)



外資系金融業界で失職する人達が今、人材紹介会社に送っている資料には

「現在の年収2000万円。転職にあたっての希望年収は1800万円。ただし、仕事内容によっては1200万円程度以上であれば検討します。」

と書いてあります。


気持ちはわかる。わかるけど。とりあえず向こう3年くらい600〜800万円くらいで働いてみてはどうでしょう?そのかわり、すごく意味のある経験ができ、大企業や外資系金融では得られなかった貴重な経験を身につけるチャンスです。人生が全然違う方向に開けていくかもしれません。

「本当は年収1200万円なんだけど、その“実戦訓練”のために600万円の授業料を払うのだ」と思えばいいじゃん。ビジネススクールに行けば実際それくらいの授業料が毎年かかるのだから。しかも中身的にもBスクールなんかより圧倒的に価値ありますよ。



と煽ったりしてみる。






・・・



あっ、あと、エージェントではなくて個別に企業のホームページを見て応募した方がいいですよ。小さな企業にとっては人材エージェントに払う紹介料自体の負担が大きいので、自分で応募すればもらえるものもそっちを経由すると削られちゃいます!


そんじゃーね。