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Chikirinの日記 RSSフィード

2009-03-20 振り込み詐欺全盛社会の背景

これだけ警戒されているのにいっこうに減る兆しが見えない“振り込み詐欺”。

彼らは、

・最もお金を持っている層にターゲットを絞り、

・次々と効果のある創造的な話法を編み出しながら、

・手下達に高い動機付を与えて事業の推進力を高めています。


合法なビジネスの中には、

・完全にターゲティングを間違えているビジネスや

・ニーズに合わなくなった商品を売り続け、全く新しい商品やサービス開発をしない会社、

・従業員の動機付けに失敗し、有望な人材を雇えず、組織が荒廃している会社

も珍しくないのに、皮肉なことに詐欺集団のほうがよほど頭を使い、努力をしているようで、結局のところそれが、警察の意地と威信を注ぎ込んでもこの犯罪が全く下火にならない大きな理由なのでしょう。あまりにも“仕組みとしてよくできている”というわけです。

★★★

こういった犯罪が隆盛な背景としては、ATMなど振込みインフラの普及に加え、日本では多額の金融資産をもつ多くの高齢者が、

・社会から孤立した生活をしており、

・通常のビジネスが消費者としてターゲットせず、放置していること

が考えられます。


「日本人は死ぬ間際が人生の中で最も裕福」と揶揄されるように、この国の金融資産は高齢者に偏在しています。ところがなぜか、この裕福な層にターゲットしたまともなビジネスが少ないのです。

たとえばアメリカでは、お金のある高齢者の多くは引退後にはフロリダなど温暖な街に家を買って移住します。他にも、高級なものから普通のものまで、高齢者向けに開発されたコミュニティマンションが多くあります。

そういったところでは、配偶者のない高齢者向けの“出会いサービス”まであり、会費を払って老後の生活を共に楽しむパートナーを見つけることも一般的です。さらにパートナーが見つかれば、共に食事したり旅行をしたりとなんやかんやお金を使います。

欧州でも金銭的に余裕のある高齢者は、引退後、田舎の家(別荘)に移住する人がたくさんいます。気候のよい自然に恵まれたエリアで小さな心地よい家に住み、近所の人達を食事に招いたり招かれたりしながら暮らすのです。

もちろん欧米でも貧しい高齢者はたくさんおり、都会の賃貸アパートでひっそり暮らしていますが、ここでは“お金のある高齢者”の比較をしています。どの国でも貧乏な高齢者は多額の詐欺に狙われたりはしませんからね。

★★★

さてこのように、フロリダや南仏の退職者が多く集まるエリアでは、町中が「高齢者の生活」「高齢者向けビジネス」に特化した作りになっているから、彼らはそこで暮らしながらお金を使い、いろんな人とつながりができます。つまり、「友達ができる」のです。

すると、詐欺からの電話がかかってきた話をお茶を飲みながら共有したり、妙な勧誘葉書が家に届いた時に「ねえねえ、こんなのが来たの。どうすればいい?」相談できます。

これが犯罪防止に大きな意味を持ちます。日本でこのタイプの犯罪がここまで拡がることの背景には、「高齢者には、困った時にすぐに相談できる人が全くいない」ことがあるのです。


では日本で、数千万の貯金を持ちながらコミュニティから分断されて暮らす老人があまりにも多いのはなぜでしょう?貧乏な高齢者がそうなってしまうのは世界共通ですが、なぜ日本ではお金のある人までそういう生活になってしまうのでしょう?

理由は、このセグメントに目をつけているビジネスが余りに少ないからでしょう。お金があり、暇をもてあましていて、人生に退屈したり不安を感じている高齢者に、生活の楽しみを提供するサービス、生活や健康の不安や不便を解消するサービス、豊かな老後を送るためにサポートするサービスがあまりに少なすぎる、のです。お金を持っている層をここまで放置する資本主義国ってなんとも珍しいよね、という気がするほどです。


ちなみにちきりんが知る限り、この超有望セグメントに目をつけているまともなビジネスとしては、

・旅行業界:高額の海外旅行やクルーズ

・高級な車やオーディオ(テレビなど)、ゴルフセット

・健康食品業界:ロイヤルゼリー、青汁、養命酒、関節の痛みがとれる薬などの各種の健康サプリ

などがあります。


これらを見ていて思うのは、彼らが目をつけているのは「高額の退職金をもらう一流企業の退職者」なのだとわかります。参加費用数百万円の海外旅行や、高級車は誰でもが買える商品ではありません。そういう意味ではもっと「普通に買えるもの」というものでは、結局「健康」に関するサプリくらいしかありません。

なぜもっと「日常的にお金を使える、人生を楽しむための消費機会」が高齢者向けに用意されていないのでしょう?

よく聞くのは、このセグメント向けのビジネスにちょこっと進出して「全然儲からない」とすぐにあきらめる人の話です。消費性向の高い若者と異なり、たしかに高齢者に貯金を切り崩して使わせるのは簡単なことではありません。けれども、そんなすぐにあきらめていたら成功するはずもないですよね。

もう一度、振り込み詐欺集団がどれくらいきちんとマーケティングし、方法を選び、次々と新アイデアを生み出し高いコミットメントで詐欺をやっているか、思い起こしましょう。ちょっとやってうまくいかないからといって、彼らはすぐに詐欺を辞めてしまったりはしません。考え出したアイデアで引っかかる人が少なければ、すぐに別の工夫をして再度挑戦します。だからこそ成功しているのです。

今までみたいに「高齢者」を十把一絡げにしたビジネスモデルではなく、きちんとその中をまた細かくニーズでセグメント分けして、それぞれのニーズにファインチューニングして根気強くまじめにやれば、あの「(詐欺にあわないかぎり)死ぬまで貯金通帳に入っている」お金を流動化させることができるはずです。それだけのお金をあのセグメントはもっているのですから。


それを今のところ、一番理解していて一番まじめにやっているのが「振り込み詐欺系」の集団だってことなのかもしれません。だから彼らはこんなにも成功しているわけです。


困ったモンです。


そんじゃーね。



<参考図書>