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Chikirinの日記 RSSフィード

2009-03-28 高齢者向けビジネスあれこれ

近い過去において「50才以上の保有金融資産を切り崩して消費に向かわせた」一番インパクトのあった例は、ちきりんが知る限り“ヨン様”です。

日本のゴールデンタイムのドラマがどれもこれも若者向きだった時期に、50才から70才の女性の心をがっちり掴んだドラマが冬ソナでした。

韓国ドラマのスペシャルDVDボックスは一作品2〜5万円、ファンミーティングに行くには地方から東京にでてきて交通費、宿泊費、参加費で10万円規模の出費です。韓国に冬ソナツアーにいって山ほどお土産グッズを購入すると20万円以上、加えて旅行前に数万円だして洋服を新調する人もいます。もしかしたらヨン様と写真を撮れるかもしれないからです。

先日、ヨン様の追っかけ費用を捻出するため顧客口座から億単位のお金を盗んでいた50代の女性郵便局員が捕まりましたが、そこまでいかなくても数百万円単位でヨン様にお金を投じたシニア女性はたくさんいるでしょう。それらが彼女らの「夫の収入」や「月々の年金」の範囲内で収まるはずはなく、「1500兆円の資産の一部」がヨン様のために支出化されたことは間違いありません。

「高齢者は将来が不安だから貯金を遣わない」という人は、男性タレントのためのこの消費をどう説明するのでしょう?

ヨン様の2005年の年収は45億円程度と報じられました。タレント本人の取り分が全体の2割とするとヨン様関係で動いたお金は一年で225億円となります。4-5年は続いたブームを考えると全体で800億円以上でしょう。

ヨン様はダントツとしても、いったい韓流ブーム全体でいくらのシニア支出が行われたのか想像するだけでクラクラします。日本のテレビがもっとまじめにこのセグメントに焦点を当てていれば、隣の国に流出しなかったであろう内需分が、それだけあったということなのです。

また、ヨン様にはまった人の一部は元々アクティブだった人も含まれますが、中には「今までは非アクティブだった=毎日ずうっとテレビを見ているだけだった」のに、ヨン様に関してだけアクティブになった人がたくさんいます。というか、非アクティブだったからこそ“はまった”とも言えるでしょう。

これは、インパクトのある商品を提供できれば、非アクティブシニア市場にこれだけのビジネスが興こせる、という象徴的な例だと思います。

★★★

日本の業界では、シニアの財布を巧く捉えているのは“孫ビジネス”です。この分野が大きくなったのは、若い人が市場の可能性を体感できたからでしょう。「うちの親、孫のためにすごいお金だしてくれるぜ」という体感を若い人が得て、そのことで「有望市場」に気がつき、ビジネス側の工夫につながったわけです。

これは希望がもてる事例です。ビジネス側の人が気がついて工夫を始めれば、あの巨大な貯金を消費(経済活動)に変換できるということですから。

ただ、孫ビジネスは若者も体感できたから気がついたけど、「毎日の仕事で、定年後の人には一人も会わない」みたいな仕事をしていると高齢者市場のニーズなどにはあまり気がつきません。なのでシニアの財布を開かせている業界には、元々高齢顧客が一定数いた業界が多いです。


たとえば、旅行業界。日本は「定年後に旅行を楽しみたい」人が多いので、60才以上の層は旅行業界にとって元々有望なセグメントでした。そして高齢者顧客とつきあう中で、彼等は様々なニーズに気がつき、一部がビジネスとして顕在化されつつあります。

高齢者旅行ビジネスにおいてキーワードとなるのは「健康」と「つれあい」です。これだけでも、高齢者ビジネスがいかに若者向けビジネスと異なるか、わかるでしょう。

高齢者の多くが不健康です。今すぐ命に関わらないにしても、「めっちゃ元気なおっさんやな!」と思うような人でも、なんらか悪いところがある。それが年をとるということです。

たとえば食事制限がかかる疾病というのがたくさんあります。高血圧で塩分が、糖尿病ではカロリーや糖質のコントロールが必要です。日常生活には他に別になんの問題もなくても、食事制限があるだけで、普通の海外パッケージツアーに気軽に参加できなくなります。

食事が不安だし、塩を減らしてくれと依頼する英語力もない。しかも持病があるというだけで海外旅行保険も加入できない。向こうで万が一のことがあったら・・・と思いますよね。

先日のWBCの決勝戦に王元監督が米国まで行かれていましたが、王さんも胃の全摘手術を受けてらっしゃるので、普通のパッケージツアーへの参加は無理でしょう。


もうひとつ大きいのは、歩くスピードが遅い、杖が必要、車いすを使用などの「足腰系」です。また「トイレが近い」という不安をもつ人も多く、長いバス移動があるツアーは敬遠されます。

でもそういう人の中にも「少しくらい高くてもいいから、是非あそこに旅行したい」という人はたくさんいます。そして、1日で回る観光地の数を大幅に減らし、自由時間の長さを延長すれば、ゆっくりしか歩けない人でも観光を楽しめます。そんな工夫にはコストは一円もかかりません。

すでに大手の旅行会社のパンフレットには「歩く距離が短い」とか「トイレ休憩を必ず2時間ごとに入れる」などと明記し始めたツアーがあります。まだ見たことはありませんが、「すべての食事を糖尿病&高血圧対応にします」というツアーもありえるでしょう。さらに、大手旅行会社を独立した人で、車いすの人が参加できる特別なツアーを催行する会社もでてきました。

今はまだ小さな市場ですが、こういう「ニーズに気がつきはじめる」というのは大きな一歩です。若者は人口も減るし、ネットで直接予約する世代です。「若者の海外旅行離れ」を嘆いているヒマがあったら、高齢者ニーズを掘り起こすことに時間を使うべきでしょう。

しかもこういう市場はそれなりの利益も見込めます。高齢者はお金をもっているし、若者のようにネットで底値を調べてチケットを買ったりもしません。こういう市場に目をつけず、ぎりぎりの底値で旅行しようとする若者相手に商売をするから、働く方もワープアレベルの給与しか稼げないのです。


もうひとつの「つれあい」も高齢者ビジネスのキーワードです。特に「夫を亡くした後、20年元気な女性」が増えています。また、夫とは趣味が異なり一緒に旅行に行ってくれない、とか、夫だけに健康問題があり一緒に旅行できない、というケースもあります。

ところが、この人達は一人で旅行に参加したりしません。多くは長く専業主婦だった人で「ひとりで動く」こと自体にあまり慣れていません。また「ツアーに参加して、自分以外はみんな夫婦づれ、というのは寂しいからイヤだ」と思う人も多いです。

「ずっと二人以上で暮らしてきて、人生の最後で一人暮らしになる人」というのは、「ずうっと一人暮らしだった人」より圧倒的にひとりということに弱いのです。しかも、学校や会社という強制的なコミュニティもなくネットでつながることもない彼らは、若い人に比べて「つれあい」「仲間」作りが難しいです。

ここに目をつけて大成功しているのが「クラブツーリズム」という旅行会社です。「お一人様参加限定」のシニア向けツアーを企画したりしています。全員が一人で参加するから、寂しくも情けなくもないですよ!というツアーです。しかも「ひとり参加」の人達はそういうツアーで「旅仲間」を見つけて、次回から一緒に参加したりするわけです。

まあまだまだいろいろあるのですが、長くなるんでこの辺にしましょう。


ちなみに旅行会社以外ではコンビニを含む小売り業も「いろいろ」気がつき始めていると思います。私たちに一番目に見えるのは食事ビジネスです。なんだけど、実はこっちは(食事ビジネスだけでなく)相当巨大な“とある市場”につながっており、この市場がものにできれば小売り業は超有望とちきりんは思ってます。また、郵便局もなかなかにおもしろい“プレーヤー”です。

なのですが、もうこの話は今日でいったん打ち切りにします。同じテーマについて書き続けるのもいい加減、飽きてきました。次回からはまた別の話を書いていきましょう。

それではまたね〜



<参考図書>