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Chikirinの日記 RSSフィード

2009-12-12 IMF危機下の韓国ドラマが伝えるもの

高校生の頃、パール・バックのThe Good Earth ( 邦題 「大地」 )を読んで驚嘆しました。「この小説の中には、人生で起こりうるすべてのことが書いてある」と思えたからです。

小説って、恋愛とか事件とか、なんらか“ひとつの出来事”にスポットライトをあて、それを深掘りして書くものだと思っていました。ところが「大地」には、すべてが描かれています。人生で起こりうることのすべてを、他人に伝えられるレベルまで言語化できるって、どんだけすごい才能なんだろうと思いました。


時代が変わり、最近ちきりんは、韓国ドラマを見ながら同じことを感じています。韓国ドラマの中には、人生のすべてがある! (笑うとこじゃないです。まじめに書いてます)


特に、韓国がアジア通貨危機に巻き込まれてIMF管理下に置かれた、1997年あたりに作られたドラマがとても興味深いです。この年、IMFから緊縮財政策を押しつけられた韓国社会は大混乱し、大不況に見舞われました。

この頃の韓国ドラマには、頻繁に“IMF不況”という言葉が出てきます。突如として倒産に追い込まれる財閥や企業家、突然のリストラ、失業、物価高騰に直面し混乱する人々、経済危機に乗じた詐欺師の暗躍などが随所に描かれています。

またドラマの中では、そういった社会情勢の下、ことさらに家族間の愛情や、儒教的な価値感が強調されます。国を揺るがす金融危機に際して、人々が「お金以外の価値」を求め、確認しようとしたことがよくわかります。

愛国心を高めたり、国民を励ますためのシーンも多く、「団結!」とみんなで叫ぶような場面が多々挿入されています。財閥の息子が父親に、「この時期に貴重な外貨を使うんじゃない。バカ者」と言われて、留学を断念したりするのも“愛国心”を示すためのエピソードでしょう。

細かいところでは、ゴミ出しのシーンで「踏んでぺちゃんこになるのがアルミ、ならないのがスティールなの。きちんと分けて出すことで貴重な資源がリサイクルできてお国のためになるのよ」などという、「公共広告?」みたいなシーンもさらりと挿入されています。


さらに2年後の1999年頃になると、韓国ドラマに出てくる“お金持ち”が、財閥から「アメリカで成功したベンチャー企業の経営者」に変わります。

アメリカではITバブルが起こり始めており、その一方、為替レートの関係から「ウォンで稼いでも全く意味がないけれど、ドルで稼げれば韓国内では大きな財産に相当する」という当時の韓国の経済情勢をそのまんま反映し、この時期だけ、韓国ドラマのヒーローやヒロインが「財閥の御曹司」ではなくなっているわけです。


この時の韓国で何が起っていたのか、ちきりんはマスコミ報道以外に知ってるわけではありません。でも、ドラマの中に描かれた「韓国のIMF危機」は、とてもリアルで、哀切です。


この頃のドラマのクライマックスには、苦しむ韓国国民に向けたメッセージが埋め込まれています。「人生にはいい時も悪い時もある。みんなで団結してそれを乗り越えよう」とか、「貧しく厳しく、何もよいことのない人生に見えても、愛する家族さえいれば、人生は本当にすばらしいのだ」みたいなメッセージばかりです。

下記で紹介したドラマでは、お正月の日の出シーンで、昇り行く初日の出が感動的な音楽を伴って長写しされ、俳優達の決意の表情が次々と映し出されます。

「いつかまた日は昇る。それを信じてみんなで頑張ろう」ということです。まさにIMF管理下で流行りそうなドラマです。


★★★


ここ数年、欧米のビジネススクールに、日本人より多数の韓国人学生がいることは珍しくありません。人口が圧倒的な中国やインドならともかく、人口が日本の3分の1の韓国の方が、留学生が多いのです。

しかも昔は「日本人と韓国人は英語が下手」という感じでしたが、今や韓国人は中学生、高校生から留学を始めているケースも増えており、英語が格段に上手になっています。人口比の一般留学生の数でも、韓国は日本を大きく上回っているんです。


実際、韓国では田舎の家を売ってでも子供を留学させるとか、母親と子供だけが渡米して英語を学び、韓国に居残った父親が仕送りを続けて何年も別居するケースさえあります。格安のフィリピン留学という形式が開拓されたのも、その流れです。

そういう風潮が、科挙文化を共有するアジア特有の「教育熱心さ」にあると、今までちきりんは思っていました。日本も“受験地獄”と言われた時代があったので、韓国は今、そういう段階なんだろうと思っていたんです。ですが、ここのところ何本かIMF危機の頃に作られた韓国ドラマを見て、「そうじゃないんだ」とわかりました。


1997年といえばまだ10年ちょっと前です。人々の記憶に新しい経済危機です。彼らは痛感したのでしょう。「外貨の稼げる人にならないと、生きていけない」、「外貨を稼ぐ企業で求められる人材にならないと、生き残れない」と。

「韓国の中だけで稼げる人にはもはや価値がない」、「ソウル大学を出ただけではダメ」なのだと、国民全体が、身を切る思いと共に理解させられたのです。


翻って日本の中に「競争などしなくていいではないか、友愛で行こう」的な考えが拡がるのは、日本の今の世代に「世界に勝てない惨めさ」を実感している世代が、もはや存在しないからかもしれません。この国は、そういう気持ちを体感した世代が20年前に引退してしまった国なのです。


日本がアジア危機に巻き込まれなかったのは、外国からの投資や借金が少なかったからです。この「海外からお金が入ってない」というのは、良くも悪くも日本を独自の道に進ませているひとつの重要な要素でしょう。


何が不幸で何が幸せかわからない。

と、韓国ドラマをみていて思います。




大地 (1) (岩波文庫)

大地 (1) (岩波文庫)

↑文庫の出版年は1997年ですが、書かれたのは1931年です。翌年の1932年にピュリッツァー賞を、7年後の1938年にはノーベル文学賞を受賞している超のつく名作です。この本の中には人生のすべてが書いてありますが、読んでる間に人生が終わるんじゃないかと思うほどの長編です。


↑DVD発売は2005年ですが、ドラマの制作年は1997年です。韓国は世相を積極的にドラマの背景に取り込むので、歴史や社会情勢の勉強になります。こちらも人生のすべてが描かれています。