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Chikirinの日記 RSSフィード

2010-04-18 守る組織、守る人

「知ってる情報はもったいぶらずに全部、お客様に渡せ」と、その昔、上司によく言われました。情報だけじゃなく、考えたこと、知見とか洞察という類のモノ、知的財産的なもの、すべてを全部出せと。

これは、価値ある情報を、「抱え込むな」、「出し惜しみするな」、「隠すな」、「もったいぶるな」、なぜなら

「全部出しきったら、翌日はまた、新たに価値あるものを見つける必要がでてくる。そうしたらお前はもっと努力するし成長するよ」という意味です。


何かを残しておけば、「次回までに何も結果がでなければ、コレをだせばいい」と思えます。そしてその考えが、進化や成長を阻害します。

たとえば「コストを 10%削減しろ」と言われたとします。いろいろ考えてみたら 15%のコスト削減が可能だとわかった。そこで 10%だけ削減して、「 10%削減、達成できました!」と言っておけば、5%の余裕を残しておける。

そうすればまた次回「さらに 10%削減しろ」と言われた時に(というか、必ず言われる)、楽ができます。楽がしたいわけでもなくても、万が一に備えることができて安心できます。

でも、このゆとりや余裕が、人間の成長を阻害します。余裕があると、人は真剣勝負をやらなくなるのです。


「価値あるものを隠し持っていると、人は全速力で走らなくなる。だから全部出せと言ってるんだ」とその上司はよく言っていました。

「優秀な奴なんてなんぼでもいる。ごろごろいる。そこらじゅうにいる。差が付くのは、そいつが全力で走っているかどうかだ」、

「オレはできる」とか「あいつは優秀だ」とか意味がない、「これ以上は無理というくらい力を出し切って走っているかどうかがすべてだ」と。


誰にとっても力の限りを出して走るのは大変です。特に能力の高い人にとっては簡単ではありません。なぜなら彼らはそこまでの力を出さなくても、簡単に優位に立てるからです。

彼らだって、社会人になってすぐの頃は、必死で走っていたはずです。でも、2年たち 5年たつと、中から「左手で仕事をする」人が現れます。右手(利き手)でやらなくてもやっていけるとわかるからです。


そんな奴は放っておけばいいのかもしれません。

けれども、そういう人が増えると組織はダメになります。せっかく優秀な人を集めても、その組織は何も生み出さなくなってしまいます。なぜなら、もはやその組織では、誰も全力で走っていないからです。


しかも能力の高い人は左手で仕事をしながらも、さらに少しずつ“余裕部分”を増やし、貯めていきます。そういう過分な余裕を抱えた人が次にとる行動も決まっています。

彼らはそれを“守ろう”とし始めるのです。守って楽に稼いでいこうとします。「守る組織」の出来上がりです。


資格や法律も同じです。「こういう資格がないとこの仕事はやってはいけません」と決まれば、その資格を持っている人にとって最も大事な仕事は、「その立場、資格の特権を守ること」です。

もしも「弁護士資格がなくても、弁護士として仕事をしてもよい」といわれれば、弁護士は今より必死にならざるを得ません。

なぜなら、渉外分野には海外の弁護士が乗り出してくるし、民間トラブルなら行政書士も乗り出してくるでしょう。資格は持っていないけど、特定分野で長く職務経験を積んだ、法律の素養のある人達とも競合し始めます。資格があってもオチオチしてはいられなくなります。

安心と安定を失うと、人は本気を出さざるを得なくなるのです。


資格や法律は、人と組織を守ってくれます。規制業種の会社はすべて法律や制度に守ってもらっています。だから彼らにとって最も大事な仕事は「守ること」です。そして彼らは「守ること」にその才のすべてを使います。

とても優秀な人たちが「全力で自分の地位を守ろう!」とし始めると、他の人がそれを崩すのはとても難しくなります。


これが、日本の官僚組織で起っていることだし、日本の大企業で起っていることです。もっといえば、日本の国で起っていることだとも言えます。

優秀な人達が選抜されていくつかの組織に集められ(必死で走るのはせいぜい 30才すぎまでで)、その後は一生「守る人」として働く。


絶望的?



「同じくらい優秀な人が 2人いるとするだろ。そのうちの 1人に定期的に価値ある情報を渡す。もう 1人には何も渡さない。で、競わせる。人生の全体で、どっちがより高い成果が出せると思う?」と、その上司は問いました。

「当然、定期的に価値ある情報をもらえる人の方が強いでしょ」と思います。

でもそれは勝負が極めて短期的な場合だけです。


彼が言いたかったのは、「必死になれる奴が、守りに入った奴に負けたりはしないから、心配するな」ということです。

「何もしなくても定期的に価値あるものが手に入るとわかれば、そいつは必ず守りに入る。だから勝てなくなるんだ」ということ。


★★★


高い成果を出したい人は、意識的かつ定期的に自分の持っている価値あるものを、手放すようにすべきです。

また、高いパフォーマンスを出せる組織を作りたければ、“守りに入る人”がでないよう、工夫を埋め込む必要があります。一般的には、有能な人ほど早くから守りにはいるので要注意です。

自分自身に対しても、できるだけ“余裕“をため込ませず、全力を出さざるをえない状況に追い込むこと、それが最大限の成果をあげるための方法なんです。


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そんじゃーね。


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