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Chikirinの日記 RSSフィード

2010-08-22 結婚と恋愛のレート

一つ前のエントリで紹介した堀井憲一郎氏の本にはユニークな洞察が満載なのですが、中でも特におもしろかったのがこの話です。

“80年代に女の子が恋愛のレートをあげて、結果としてみんな不幸になった”


堀井氏は、「80年代に女の子はお姫様になった」と指摘。お姫様は王子様が現れて、自分のために完璧なクリスマスイブを用意してくれると期待します。高級フレンチに最高級ワイン、食後は五つ星ホテルのバーで生バンドの演奏を楽しみ、当然のように予約してあるお部屋にお泊まり、翌朝はルームサービス。プレゼントはティファニーの・・。

最初は(それでやらせてもらえるならと)この流れについていこうとした男性陣も、数年ほど頑張った後、90年代半ばにはついてこられなくなります。当然です。給与もあがらないのに続かない。

ここで女性は気がつくべきでした。こんなことをしてたら、彼氏なんてできない。結婚なんてできないと・・。でもその時、不幸にも彼女らの前にトレンディドラマが登場します。そしてそれらのドラマが伝えたメッセージは・・・「中途半端なところで妥協する必要は全くないのよ!」


ドラマの中では、若くして広い(しかも都心でかっこいい)部屋に住むメークアップアーティストと空間デザイナーとCMプランナーの女性が、それぞれに素敵な恋愛を楽しんでいます。彼女らは、かっこいい仕事も、それによって得られる高い給与も、恋愛も、刺激的な遊びも、何ひとつ諦めていません。すべてを手に入れているのです。

それをみてお姫様になった女性達は、「妥協する必要はない。私らしさを諦める必要はないんだ!」と理解したのです。こうやってトレンディドラマに後押しされた女性達は、男性がついてこれなくなっても諦めなくなりました。

著者はこれを「女性が恋愛のレートを上げた」と呼び、このため「男性はゲームに参加できなくなった」と言います。すばらしい洞察と言葉のセンスですよね。


というわけで、経済力のない男性は恋愛市場から閉め出されてしまいました。また、「なんでここまで女性に尽くす必要があるのか」と。疑問に感じた男性も勝負から降りました。

そして現実の女性についていけなくなった男性は、AVや二次元に逃げたと堀井氏は指摘します。氏の分析によると、この頃からAVにめちゃめちゃかわいい子が登場して本番をするようになったとのこと。本書にも、「信じられなかった、こんなかわいい子がカメラの前で本番をしているなんて!」と書かれています。

かくして圧倒的な勝ち組の男女以外は結婚できなくなり、そうでない女性はトレンディドラマの世界に、そうでない男性はヴァーチャルの世界に逃げ込んだのです。


★★★


この本を読んで私が感じたのは、これの揺り戻しが今の“婚活”なんだな、ということでした。

今ブームの婚活の核心は、「理想を捨てて、現実を見ましょう」運動だと、ちきりんは思ってます。

「最低年収は800万円は欲しいかな・・・。もちろん、20代なら600万円くらいでもいいけど」という女性に向けて、「そんな男性はいません」と認識させ、「みかけはそこそこでいいから、誠実で話がおもしろくて優しい人がいい」という女性には、「そんな人で未婚の人はいません」と分からせる。これが“婚活のコア・バリュー”です。


一方、男性の婚活とは、できるだけ“ついていけるレートを上げる”努力をすることです。「経済力がないから結婚できない」という男性には、「あなたが結婚できないのは、それだけの理由ではありません」とわからせます。

そして次は婚活スクールにて、「結婚したい女性なら当然にやっている努力」を、男性にもやるよう促します。

「外見に時間とお金を使う」とか、「相手のつまらない話にもニコニコ笑顔でつきあう」ことなどですね。もちろん“手伝う”のではなく“当然の義務として”家事や育児をやる覚悟とスキルくらいは、“最低限”身につけてることも大事です。(婚活についてもすでに降りている男性がたくさんいそうですが・・)


つまり、“80年代に高騰し、90年代に高値安定してしまった女性の結婚レートを、適正レートまで下げましょう”というのが、今の婚活の本質なんですよね。まさにデフレ時代にぴったりのトレンドです。


“出会いの機会を増やす”というのも、結局は“市場のコマをできるだけたくさん見ましょう。そうすれば、アナタのレートではディールが成り立たないと理解できるでしょ”ということです。

婚活で結婚できる女性とは、“十分にレートを落とした”人なのかもしれません。


★★★


さて、80年代と90年代のプライシングの間違いに気がついて、高値修正を始めたのが2000年代・・・と考えると、次の10年くらいは婚活時代が続くけど、その後は“婚活世代、大量離婚の時代”がくるかもね、とも思えてきます。

婚活で「とにかくレートを下げて結婚しましょう!」みたいことをやっていると、当然に揺り戻しがくると思うのです。「ディールが成立するところまで、レートを下げて売買成立!」みたいなことをやって成立させても、結婚は「成立したら終わり!」じゃありません。


女の子がお姫様になる時代より以前、女性の就職は圧倒的に難しく、単独で食べていく方法は限られていました。また、女性が結婚しないことへの社会のプレシャーも今とは比べものにならないくらい高かったので、女性達は皆、ごく低いレートで結婚したのです。

そういった世代でも、いまや“熟年離婚”に踏み切る人が増えています。現代の女性で、「とりあえず“ディール成立レート”まで下げます!」みたいなことをして成立した取引が、巧く続くとは思えません。


実は就活も同じです。氷河期再来で、またもや「内定がもらえるところまで、いくらでもレートを下げます!」みたいな戦いになってます。入れる会社が見つかるまでレートを下さげて、ようやく就職したとしても、それって本当に続くんでしょうか? 結婚同様、就活でも内定はゴールではなく、入り口に過ぎません。

前回の氷河期後半に社会人になった人の中には、その直後に数年の好景気がやってきた時、第2新卒として“リベンジ転職”をした人がたくさんいました。でもずっと不況が続けば、リベンジなんて不可能です。だからといって一生そこで我慢できるのでしょうか?

婚活も就活も、市場全体でレートが上がったり下がったりしており、どの世代も市場の動きに翻弄されているように思えます。


というわけで、

1980年代:暴騰

1990年代:高値安定

2000年代:下落

2010年代:投げ売り

2020年代:大規模な調整局面


次の10年は結婚も就活も、レート投げ売り気味の時代に突入するのかも・・



そんじゃーね。


若者殺しの時代 (講談社現代新書)

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